第53話「いらない覚悟①」
突然仲間に加わることになった、キングのエーコ。
しかし、エーコはキングの送り込んだスパイ。
そうとも知らず、善と大悟はエーコと徐々に打ち解け、親しくなりはじめていた。
「なんだかバタバタしたけど、落ち着いたら腹減ってきちまったな…」
東條に精神をやられていた善も、ようやく落ち着きを保とうとしている。
「あたしもだし…
ジョーカーの東條…あいつやばすぎだし!
もうさ、こんなことにならないためにも
あんたら、いい加減“ここ”から離れた方がいいんじゃん?
もうここにいても隠れ家になってないし」
エーコの言うとおりだった。
ライジングサンが拠点とする場所…
ここは随分前に、ジョーカーにもキングにも、場所は割れている。
もはやアジトとして成り立っていない。
“安全”という言葉は、ひとつも見つからないだろう。
エーコの提案に、不仲の志保も頷いた。
「そうね…それにもうこの場所にこだわる必要は、まるでないのよ
善もいつのまにか、放っているリミテッドの力を抑えることができるようになったみたいだから」
「あぁ…そうだな…
なんだか知らないうちにできるようになってたなぁ」
善が腑に落ちない様子でいると、それを見ていた大悟が言った。
「そんなもんさ…
(まぁそいつをマスターしちまうのも、異例の速度だけどな…)
これで俺達が力を放出しない限り、居場所はジョーカーのやつらにも分からなくなったってわけだ」
「そうか!ならここにはもう用なしだな!
元々生活できるとこじゃねぇし
じゃあここを離れよう
これからは別にどこかに留まる必要もねぇかもな」
善の一言により、ライジングサンの一同は、拠点としていたこの場所から離れることに決まった。
それと善が決めたことがもうひとつ。
「あとそれとだな…
エーコも増えたことだし、もう迷うことはなかったな…
明日の夜10時
俺達はジョーカーの挑戦状を受ける!!四天王をぶっ倒す!!」
突然の善の決断に、大悟は慌てた。
「お、おい!いいのか?さっきまであんな慎重になっていたのに…」
「あぁ!さっきまでの俺…どうかしてた…
変な拍子に現れたエーコだったけど…
なんだかおまえのおかげで、うだうだ悩んでんのがバカらしくなったわ!」
そう…善は元々気が変わりやすく、気分の浮き沈みが激しい人物。
エーコの出現により、事態は混乱していたが、今の善にとっては好都合であった。
ジョーカー東條に対する恐怖心…
決して消えたわけではないが、持ち前の明るさと楽観的思考が徐々に上回り始めていた。
善の相変わらずの調子に、志保も呆れ気味だ。
「はぁ~…その辺があんたらしいというか、なんというか…」
「わりぃな!
今からジョーカーの2番目の四天王倒せなかったら、この先なんて勝てんのかって話じゃんか?
だから行く 勝つしかねぇ!!」
こういう時は善と波長が合うのか、エーコもやる気満々の様子。
「そうだし!罠だろうとなんであろうと、勝てばいいんだし!!
それなら何の問題もないじゃん!!」
「その通り!!」
大悟は冷めたように落ち着いて、口を挟まず聞いていた。
こうなるのも、大悟の予想の範囲内にあったからだ。
(やはりこうなってしまったか…
善がこうなれば俺が言っても言うことを聞かない…
レトインがいれば、少しはあいつに言い聞かせることができたかもしれないがな…
仕方あるまい…
あとは勝てるかどうか…
エーコは一度戦っているとはいえ、強さは未知数…
なにしろ信用おけん…)
強張った顔をする大悟に、善が気づいて声をかける。
「なぁ~に!心配することねぇよ大悟!
勝てばいい!俺達は勝つんだ
何の心配もいらねぇよ」
「………
そうだな…
(戦うと決まった以上、これ以上考えても仕方ないか…
勝つしかない…
確かにそうだ もう自分達を信じるしかない)」
大悟も腹をくくった。
生か死か…最終的にそこに行き着いた。
「よっしゃ!決戦は明日の夜10時!!
それまで今日はみんなゆっくりしよう!」
3BECAUSE
第53話
「いらない覚悟」
その日の夜。
隠れ家としての役目をまるで果たしていない、この地での最後の就寝。
明日に備えて寝たいところだが、全然寝付けない人物達がいた。
「善…寝れないの?」
志保が座りながらどこか遠くを見つめる善に声をかけた。
「あぁ…志保か…
なんだ?おまえも寝れないのか?」
「えぇ…
明日は四天王との対決だからね…
いつもはジョーカーがいつ襲ってくるか分からない…
そんな恐怖があったけど、明日戦うと事前に知っているってなるのも、これはこれで怖いものね…」
明日自分が死ぬかもしれない…
ライジングサンのメンバーに、恐怖がないわけがなかった。
「あんたも同じ?」
「そうだな…正直明日が来るのが怖い…
それにジョーカーのことだ…
明日決戦なんて言ってても、騙して今襲ってくるかもしれねぇしな…」
「ありえる話ね 何をしても不思議じゃない…
約束や決まりなんて守るようなやつらじゃないし…
でもそれなら心配しなくて平気
大悟はね、寝てるように見えて、実は完全に寝てるわけじゃないの
寝込みを襲われるようなことがあれば、すぐに勘付いて目を覚ますから」
そう言われて善が大悟の方に目をやると…
大悟は目をつぶり完全に寝ているようだった。
少なくとも善の目にはそう見えた。
「あ、あれで寝てないって言うのか…?」
「えぇ 多少なりの意識はあるみたい」
「あいつはホント人間かよ…
恐れ入ったわ…」
善は大悟に頼もしさを得たとともに、少し恐怖も覚えた。




