第30話「ろうそくの灯は消えることを知らない①」
ジョーカー四天王の一人、綾音が有する
“サウンド リミテッド”
その力を前に、手も足も出ない善と大悟。
すべての望みは、志保とレトインに託された。
(志保…頼むぜ…
おまえは、俺達の唯一の“希望”だ!!)
3BECAUSE 《スリービコーズ》
第30話
「ろうそくの灯は消えることを知らない」
四天王の綾音は動揺していた。
「チッ…まさか私の能力が通用しないやつがいるなんて…
しかも二人も同時にとは、考えもしなかった…」
落ち込む綾音に対し、志保は強気に出る。
「よっぽど今まで相手にしてきたやつらが、貧弱だっただけなんじゃない?」
「くっ……」
完全に志保のペースだ。
今の一言は効いている。綾音の心にグサッと刺さったようだ。
しかし、堪えたのは綾音だけでなかった。
(ひ、貧弱……)
どうやら善と大悟もえらく傷ついた様子だ。
「貧弱とは…泣けるぜーー!!!」
善は泣いた。大泣きした。
今まさに、綾音の能力“哀しみ”のメロディーが響きわたっている。
そのせいもあり、普段より余計にダメージを受けているようだ。
善のあまりの姿に、レトインは呆れている。
(善…哀れだな…
こんなにも素直に術にハマるバカがいるとはな…)
「ん!?待てよ…」
泣きじゃくる善が、あることに気づいた。
(あのギターから流れる音楽・“音”が、志保とレトインには全く通用しないってことは…
もしかしてやつは、攻撃する術を失ったんじゃ…?
どう見てもあのギターは普通のギターだ
“リミテッド”で作られた物なんかじゃねぇ
まさかあれを殴って使うわけないだろうし…)
善にしてはよく頭が回った方。
そう思われるが、他のライジングサンのメンバーは、すでにそのことに気づいていた。
そんなことも知らず、善が得意げに志保に大声で言った。
「志保!能力が効かないおまえに、やつは戦う術を持ってねぇ!!
やっちまえ!!志保!!」
「そんなこと…あんたに言われなくても分かってるわよ!!」
志保は“アクア・ウイップ”を片手に、綾音のもとへと近づく。
その時だった。
何が起こったかは分からない。
“それ”は一瞬の出来事だった。
「えっ…?志保!!!」
さっそうと綾音に向かって走り出していた志保が、次の瞬間には倒れていたのだ。
「な、何が起きたんだ!?なぜ志保が倒れている…?」
それと同時に、綾音の演奏が止まった。
「曲が止まった…?」
レトインが慌てて志保のもとへと駆けつける。
「おい!志保!!大丈夫か!?」
レトインが志保の肩をつかみ、大きく体を揺すった。
志保の反応がまるでない。
「レトイン!!志保は!?」
心配そうに、大悟がレトインに聞いた。
「大丈夫だ 息はある…」
綾音が静かに笑い出す。
「ふふふ…四天王を甘く見ないでよね
幹部の中でも下っ端の志保が、この私に楯突こうなんてねぇ」
志保をあざけ笑う綾音に、大悟が激怒する。
「貴様…志保に一体何をした!!」
「さぁ…?志保が勝手に倒れたんじゃないの?ふふふ」
「ふざけやがって!!」
(あの一瞬で一体何が…?何をしやがったんだヤツは……)
綾音の奏でる音楽は止んだものの、一体どんな手を志保に施したのか分からない。
それだけに大悟はおろか、すぐさま感情で動き出してしまう、あの善でさえも警戒していた。
迂闊に綾音に攻撃を仕掛けることができない、硬直状態が続いた。
「あら…どうしたの?せっかく曲が止まったのに
今のうちよ?飛びかかって来なさいよ!!
あんた達も志保のようになりたければね!!」
「くっ……」
レトインがもう一度、志保の体を大きく揺らしながら叫ぶ。
「志保!!目を覚ませ!!志保!!!」
「…ん……」
「志保!!!」
志保がようやく目を覚ます。
レトインが志保から何かヒントを得ようと問う。
「平気か!?志保!?
おまえ、何が起きたか覚えているか!?
自分の身に一体何が起きたのか!?」
「えっ…私…
あいつに近づいたら…あいつはギターの弦を強く弾いた…
そしたら急に“痛み”が襲ってきて…」
「痛み…?」
「でも普通の痛みじゃない…
叩かれたり、斬られたりしたのとは違う…
体の中に何かが響き渡った感じ…
物凄い“衝撃”が走ったような…」
「!!!
“衝撃”…“音”…
まさか……
“ソニックブーム”!!!」
レトインがひとつの答えを導き出した。
「ソニックブーム!?
なんだそれ…?」
聞き慣れない言葉に、善はしっくりきてないようだ。
レトインの推理力に、綾音本人も驚きを隠せない。
「へぇ~…すごいわね…
それだけのキーワードで、そこまで導き出しちゃうんだ!」
「当たってるのか?こいつ…隠さずに堂々と!?」
レトインの推測に、綾音はすんなり受け入れ、隠すことなく正直に答えた。
なぜなら……
「それもそうだろう…
ソニックブームなんて超常現象、防ぎようがない」
どうしようもできないからだ。
それほどまでに、綾音には自信があった。
「防ぎようがないって…その…
“ソニックブーム”ってのは、一体何なんだ?」
未だに理解してない善が、レトインに聞いた。
「一言で簡単に言えば…“衝撃波”だ」
「衝撃波?」
「あぁ…
しかし、本来ソニックブームは…
ジェット機や、スペースシャトルなど、“音速”を超えるものが
大気圏を突入した際に起きるもの…
ここは地上で、勿論音速を越えるなんてことはありもしないはずだが… 」
レトインに続いて、大悟が険しい表情で言った。
「“音の世界”を知り尽くす、サウンドリミテッドの力もってさえすれば…
それさえも生み出すことは可能だというのか!?」
なんとなくでしか理解できない善だったが、気になるのはその“ソニックブーム”の威力だ。
「それで…その衝撃波って、そんなにすごいのか…?」
「上空5000メートルで起こった場合でも、
地上の窓ガラスが割れてしまうほどの力があると言われている!!」
「!!!
(そ、そんな攻撃…あいつは仕掛けられっていうのかよ!?)」
ようやくここで善もソニックブームの恐ろしさを理解した。
目に見えない、音速を超える衝撃波。
驚異的な威力。
防ぎようのない攻撃に、善の体は震えた。




