お店の看板、二人三脚はじめよう
「・・・うーん」
背もたれに身体を預けるように、両手を振り上げて大きく伸びをする。
ふぅ、と息を吐きつつ先程まで書き綴っていた紙面にペンを転がし、
「大体こんなもんか」
呟いて椅子を回し、弾んだ声の途切れない背後へ向き直る。
すぐに妃が顔を向けて、
「・・・お疲れさま。もうおしまいかしら」
「ああ、とりあえず一区切り」
その声に顔を上げた笑乃は、
「あら、もう出来たのね我が息子」
と、手のひらを上に向けて両手を月理に差し出す。
「?なに、往年のアイドル?」
「違うわよっ。そんな真似するわけないでしょ。出来たんでしょラフ。お見せなさい」
両手を突きだして催促する。
「ん?ラフ?」
千華がハテナを散らして月理と笑乃を交互に見やる。
月理は机に向き直って紙を掴むと、立ち上がって笑乃の傍まで行くと、
「まだトップだけだぞ」
「いいわよー。ありがと」
受け取った笑乃が、
「さぁ娘達。わたあめ大会は終了よー。テーブルからお盆に移しちゃってちょうだい」
『はーい』
かけ声と共に、テーブルに展開されていた宴の跡は、瞬く間にお盆に片づけられていく。
唯理が濡れタオルでテーブル一面を拭くと、妃がポケットから出したハンカチで更に拭いてゆく。
塵水も無く綺麗に光ったテーブルに、
「ありがとう。じゃあ早速月理先生の作品をみんなで見てみましょう」
手にした紙をテーブルにゆっくりと開き置く。
「ほほぅ、先生とな?」
「ほっとけ」
のぞき込む女性陣。
再び机に向き直り、携帯端末をいじり始める月理。
「・・・ホームページかしら」
一番に声を上げた妃に、
「そうなのよー。今あるやつを新しくしようと思ってねー」
「わぁ、何か可愛いデザイン!いいねこれ!」
「確かに、キラリンつきりん先生の可愛らしさが伝わる一品ですなぁ」
「うっさい」
「月理、これはどこからか持ってきたデザイン?」
「・・・一応、全部自前だけど」
「ふむふむ」
食い入るように眺める女子陣から一人顔をあげた笑乃は、腕を組んで紙全体を俯瞰すると、
「うん、いいわね。採用よ」
頷いて月理を見る。
月理は視線を携帯端末から笑乃へ持って行くと、
「じゃああとは商品一覧と個別の画面と・・・ブログだっけ?」
「そうねー。ホームページ全体の動きとかは業者さんに頼まないといけないわねぇ」
するとピンときたように一瞬目を見開いた千華が、妃を見る。
デザイン紙で顔をつき合わせている状態のため、至近距離で見つめている形となり、
「・・・なにかしら」
気付いた妃が声をあげる。
「妃、情報、優秀」
「・・・なぜ片言でそんな事言う必要があるのかしら」
「えー、妃、情報の授業で格好良いホームページ作ってたじゃん。折角だし作ってみたら?」
その言葉に目を閉じて顔をあげた妃は、
「・・・業者さんがいるなら、わざわざ素人が作る必要はないでしょう」
「そうでも無いんじゃないか?」
間に割って入るように月理が声をあげる。
「確かに妃のホームページ良かったしなぁ。・・・母さん、業者ってこれから探すの?」
「ええ、ツテもないわねぇ」
「じゃあいいじゃん。全体の動きとかは妃に作ってもらったら?」
すると少々困惑気味の笑乃と妃が顔を見合わせる。
「でも、ねぇ。妃ちゃんも忙しいだろうし・・・」
「・・・いえ、忙しいという事は特に・・・でも素人作品をお店で使う訳には・・・」
歯切れの悪い言葉を紡ぎ合い、黙ってしまう。
合わせて困惑顔の唯理が皆の顔を見て、最後に千華と目が合う。
千華は唯理に頷くと妃に向かい、
「妃」
「・・・なに」
「ホームページ作るの面倒臭い?」
「そんなことないわ」
即答する。
ついで笑乃に向かい、
「笑乃さん」
「なにかしら?」
「妃に任せるのは不安ですか?」
「そんなこと無いわ。妃ちゃんなら大歓迎よ!」
その言葉ににっこり笑った千華は、
「ほら、もう答えは出てるよね?」
そして両手をパンと叩き、
「折角の縁だし、やってみよー!」
柔らかな拳を空に突き上げる。
唯理にも視線を送ると、笑顔になった唯理は両手をあげて、
「そうだね!やってみよー!」
千華の意見に追従する。
二人のやる気を聞いた笑乃は小さく笑いながら妃を見ると、
「妃ちゃん・・・引き受けてもらえるかしら?」
妃は緊張した面持ちで、
「・・・あ、はい。・・・あ、いえ、是非。是非やらせて下さい」
しっかりと返事をした。
破顔一笑の笑乃は、
「嬉しいわぁこんなに素敵なご縁が見つかるなんて。妃ちゃん、月理と二人三脚でお願いね!」
コクリと頷く妃。
「うん、まとまって良かった良かった。・・・ね、月理?」
「なんでこっちに話が飛んでくるんだ」
「だってデザイナー様でしょ」
「俺だって素人だよ」
すると妃が月理を見上げて、
「・・・月理」
「ん?」
「・・・私と組むのは嫌?」
「・・・嫌な訳あるか」
視線を逸らして鼻頭をかく。
「照れりんつきりん」
「うっさい」
部屋全体が笑いに包まれ、その声すら子守歌であるかのように、ケージのうさぎはうっとりと目を細めていた。




