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117 戦闘後:経験値振り分け

 この世界で敵にダメージを与えるには、ふた通りの方法がある。

 自力で直接攻撃する方法と、サモン・ロッドの召喚機能を使って、異世界から攻撃エネルギーを召喚する方法だ。

 前者は数字で評価されない。ダメージが数字で評価されるのは、後者のみという仕様だった。


 ネトゲ脳の俺は、それをすんなり受け入れられた。

 RPGではキャラをずーっと走らせていって衝突しても、ダメージを与える事はできない。ジャンプで上からのしかかっても無駄だ。

 コントローラーで「たたかう」コマンドを選択して、攻撃の意志を表示したときに、はじめてダメージが評価される。


 俺がビヒーモス戦後に幼女軍師に聞かされたのは、どのくらいダメージが入ったかで、攻撃力がどのくらいだ、とかいう個人情報がそこから読み取れてしまうので、どの軍も勇者とのもめ事をさけるために、基本的にダメージ評価はしないという事だった。


「えっと、たとえば誰がそんな個人情報を読み取る恐れがあるんですか?」


「軍だ」


 俺の前で、革張りの椅子に座っている幼女軍師は、唇を尖らせて不服そうに言った。


「勇者が契約を結んでいるのは、召喚師であって、軍は召喚師から勇者を預かり受けている立場にすぎないからな……本当は、色々と口出し出来ん事が多いのだ」


「俺の世界では軍って、いろいろ出来る立場っていうイメージがあるんですけどね……」


 だが、この世界の召喚師は、トップクラスになれば、異世界から国民全員分の衣食住は愚か、軍隊や賢人まで召喚できる。

 つまり、実質召喚師ひとりでも国としての機能が成り立ってしまうものだから、それ以外の国民はそれをサポートする飾りでしかないのである。


 さらに死の星となって、召喚師に頼らなければ命を繋ぐ事さえできない現状では、召喚師に対する軍の肩身は非常に小さくなっている。

 召喚師に対しては、常にご機嫌伺いをしなくてはならない。

 勇者に異常なほどの裁量権が認められているのも、そういう理由からだそうだ。


 ビヒーモス戦後、王宮に呼びつけられた俺は、そういう説明を受けた。

 幼女軍師は映像で見たのと同じ。ちんまい。


「HPという概念も、軍が勝手に評価した数値でしかないし、それに対するダメージ評価というのも絶対ではない。なので、そういう評価に縛られるのを嫌がる勇者もいるだろう、という配慮だ。

 ただ、目に見える形で評価した方が効率がいいのは確かだ。そこへ来て、召喚されるダメージは勇者の力とはまったく別の力なので、ダメージ評価をしてもいい、という契約を事前にドラゴンと結んでいるのだ」


「な、なるほど……」


 で、それが、俺と一体何の関係があるんです?

 と言いたかったが、俺は緊張で固まって、動けずにいた。

 幼女軍師の後ろには、スキンヘッド勇者が当然のように立っていた。


 勇者ベリタス。こいつがいる時点で、《飛竜武器開発評議会》がらみの話があるんだろう、とは予測がついていた。


 勇者ベリタスが、幼女軍師の話を引き継いだ。


「今回《評議会》は、ダメージ評価システムの不完全さをついて、特定の勇者にダメージを偏向させていたらしい」


「……と、言うと?」


「皮膚を叩いた時はともかく、鱗を叩いたときのダメージは、0か1しかなかっただろう」


 勇者ベリタスは、そう言った。


「どうやら召喚されるエネルギーを調整して、ビヒーモスの傷をわからないように回復させて、鱗の剥落するタイミングを調整していたらしい」


 ……なん……だと……。

 攻撃どころか……回復……させて、いた……?

 俺が震えていると、幼女軍師は、首をふるふる横に振った。


「鱗が剥がれたときの状況を覚えているか?」


「ええと……」


 俺が鱗を剥いだのと。

 勇者ベリタスが剥いだのと。

 勇者アリスの脅威の5枚剥ぎ。

 あとは、最終形態の時に勝手に剥がれたのしか、俺は知らない。


「勇者ベリタスが鱗を剥げたのは、飛竜のツメを武器に持っていなかったのと、あのとき鱗を回復する勇者が周りにいなくて、回復が遅れていたからだ……勇者アリスに関しては、全ての攻撃の時に、明らかな不正があった。……調べてみると、5回ともツメから召喚される攻撃エネルギーが極端にあがっていたのだ。いちおう、チート能力というものも調べてみたが、そんなものの痕跡は認められなかった」


「ですよねー……」


「これだけだと異様な数字が出て、周囲に不正がバレてしまうが、鱗が剥がれた瞬間に、同じだけの回復エネルギーをかけることで、ダメージ評価をゼロに調整していたらしい。《評議会》がMPゼロ勇者の召喚をしたがっている、という報告がなければ、危うくこの不正を見過ごす所だった……まあ、本当はもっと狭い範囲の勇者のみを狙っていたらしいがな」


 なるほど、ということは、俺が鱗を剥いだのも。

 偶然なんかじゃなく、完全に飛竜の筋書き通りだったってわけか……。


 鱗の剥がれるタイミングの調整。

 下手をすれば、ビヒーモスの討伐を失敗していたかもしれない、恐ろしい謀略だ。


 幼女軍師が、軽く咳払いをした。


「で、だ。……今回の事件を受けて、軍内でも様々な事が変更になった」


 俺の眼前に、ステータス画面が呼び出された。


「《飛竜武器開発評議会》の陰謀を受けて、当面の間、武器、勇者、物資を含む、惑星ミルフからの召喚を、全面的に禁止する運びとなった」


 俺は、えっと、思わず声をあげそうになった。


「飛竜のツメは軍が開発したコピーを当面代用品とする、もともとそのつもりでデータを採集していたのでな……《評議会》との関係は一時的に断絶される事になる。なので、飛竜も強制送還された後、当面はこちらの世界に召喚される事は無い」


 惑星ミルフの召喚禁止。

 立てこもり勇者達の悲願。

 まさか、こんな形で願う事になるとは。


 俺は肩の力が抜けた。

 もう声も出ない。

 絶望なのか希望なのかもわからない。

 ただ、よかったと思うだけだ。


 幼女軍師は、俺のステータスをちょいちょい、と操作しはじめた。


「勇者マキヒロ、それが影響して、お前のステータスにも変更がある。

 飛竜がこの世界にもう召喚されなくなるため、飛竜の加護は受けられなくなる。

 称号《鱗を剥ぎし者》は、先ほど言ったダメージの不正な調整が発覚したために取り下げだ。

《飛竜のツメ使い》、《飛竜のツメ公認インストラクター》は、飛竜のツメがもう絶版になるので取り下げ。

《飛竜推薦最優秀勇者》と《飛竜武器開発評議会『特別栄誉会員』》も、軍と《評議会》の関係が断絶されるため、勇者にその称号を使う事は認められない。

 後の長ったらしいのは称号として認められないので、ばっさり削らせた。お前に残った称号は、まあ、こんな所だ」


「えっ、ちょ、ちょっとまって、それもうほとんど何も残ってないんじゃ……」


 マキヒロ 第五十勇者連隊所属 勇者番号 NAZ-20788号

 HP 9/9

 MP 0/0

 称号:《XXと共に戦い続けると誓いし者》


 俺は口をつぐんで、そのステータスに、しばらくじっと目を落としていた。

 フィース・ワールドという唯一の接点を失い、もう二度と会わないだろう飛竜と、その兄妹の今後の事を思うのだった。

 何度も、何度も、その文字を目で追っていると、不意に涙が出て来た。


 じゃあな、飛竜。

 お前、色々と最低だったけど、なんだかんだで最高のドラゴンだったよ。

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