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第十三話:そして筆が裁く

数日後、後宮では静かな騒動があった。


 ある妃の部屋で“毒香”が焚かれかけた事件が発覚し、同時に“ある女医”が謎の病で倒れた――だが、そのどちらも未遂で終わった。


 それは、緋燕が“影筆”に偽命を書き加えたからだった。


 >《女医官見習い 凌華 保全対象》

 >《毒香焚香者 寧 華蓮 拘束・記録抹消》


 偽命はすぐに審問局を通じて実行された。

 寧華は静かに連行され、妃の間には二度と姿を現さなかった。


 その報を受けた蒼璟は、緋燕に言った。


 「……もう、お前は“宦官見習い”ではない。“筆の影”として、歩め」


 鴇英は口元に微笑を浮かべながら背を預ける。


 「兄の後を継ぎ、闇を裁く筆になったのね。ようやく、あなたは記録の中に戻ったわ」


 緋燕は、あの巻物の最終頁をそっと閉じる。


 今、そこには新たな一行が記されていた。


 >《筆継者・緋燕 記録を正す者とす》


 “記録に抗う筆”として、緋燕の戦いは始まったばかりだった。



『夜鶯の密書』第一部、最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。


記録は真実を刻むもの。けれど、誰かが“筆”を握れば、命さえ書き換えられる――

そんな後宮の闇に、ひとりの少女が筆で抗う物語を描きました。


緋燕はまだ“影”の中にいます。でもその筆先には、確かに“光”が宿っています。


続編などで、さらに深い闇と真実に触れるとき、またお会いできれば嬉しいです。

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