デレデレ八村先生
練習に励む毎日は変わらないとして、最近になって八村先生の様子がいつもと違うように感じる。
別に嫌な予感って感じじゃなくて、なんだか練習の時間にどこか遠くを見てニヤニヤしていたり、学校から車で帰る時にやけに機嫌良さそうに見える顔でハンドルを握っている姿を見ることが増えた。なんか、いいことでもあったのだろうか?
なんだか気になったので、練習の帰りで琴音ちゃんにそれとなく話してみた。
「あ、楓花ちゃんも気付いていた?」
「うん。さすがに私から見ても、なんか先生ニヤけ過ぎじゃない? って」
「そうだよね。わたしも気になってた」
「あ、琴音ちゃんも?」
いわゆる女の勘ってわけじゃないけど、比較的おっとりしている琴音ちゃんからしても、八村先生の変化には気付いているようだった。
「うん、まあ先生、なんかデレデレしてるからね」
琴音ちゃんはどこか苦笑いするみたいに言う。
「デレデレってことは……まさか、恋人が出来たとか?」
大柄で筋肉質な八村先生は、角刈りに額に傷まであるビジュアルのせいでヤクザとよく間違えられる。そんな人が誰かと恋に落ちると言われて、何だかピンとこなかった。……いや、いざ話してみたらいい人ではあるんだけど。
「八村先生に恋人ねえ……。若い衆から姐さんとか呼ばれている感じの人とか?」
「楓花ちゃん、さすがにそれは失礼だよ」
フォローしながらも、思わず琴音ちゃんが笑いはじめる。笑いを取ったのはちょっと嬉しいけど、それよりも八村先生の恋愛模様というのがまるで想像出来ない。それこそファンタジーの世界だ。
「恋人がいるとして、どんな人なんだろうね、実際」
「案外ものすごく優しくて美人かもしれないね」
まあ、たしかに。八村先生は見た目は怖いけど実直で背中で見せるタイプだ。それをカッコいいと思う女性が出てくるのは理解出来る……のか?
「それにしても、あの八村先生がねえ……」
まだ断定は出来ないけど、デレデレした感じと言われてしっくりきたので、おそらく異性関係か子供が出来たとか、そういうたぐいの話で間違いはないだろう。先生は未婚のはずだから、そうなると自動的に異性が原因なんじゃないかっていう結論に達する。
思えば、私も菜々さんのことが好きなのに死んじゃったクチだからなあ。今はこうして謎のJKライフを送っているけど、前の自分がダメだったのもあって、八村先生には幸せを掴んでほしいなとは思う。
だから先生が助けを必要とするような場面があれば、微力ながらも積極的に助けていこうかな、なんて思う。実際問題何が出来るのかって訊かれると正直分からないんだけど、先生だって今までものすごく頑張ってきたんだもんね。だから報われてほしい。
ようし、何かあったら私が先生の助けになるぞ。




