No.6 遠慮させていただきます……
ラーファルの試験も終わり、ようやく僕の番がやって来た。
ラーファルもなかなか魔術が得意なようで、小さな竜巻を起こして的をゴリゴリ削っていた。どちらかと言うと、竜巻と言うよりかはつむじ風だったが。
そして次が僕。僕が今この場ですべき事は一つ。魔術の威力を極限まで抑える、ただそれだけだ。間違ってでも本気なんか出してしまったら、この会場を吹き飛ばしかねない。
そうだな……とりあえず、初歩の水魔術でいこう。
魔力の供給は最小限にして、速度も出来るだけ遅く……
そして発動する。よし、上手くいったか。的に向かってヘロヘロ飛んでいって、良い感じにショボそうな水球……よし、成こ……ぅえ?
僕の放った魔術は、的に着弾した瞬間に弾けた。……的は見事、原型を残さず木っ端微塵である。
何でだ!? 術式に問題は何も無かったはずなのに……あ、
……やっべ、ついいつもの癖で、着弾の瞬間に爆裂する仕様にしてしまった。
威力も上がるし、やっぱ爆裂ってカッコいいよね! みたいなノリで付け足すようにしてたら、いつの間にか癖になってたの忘れてた。
マジでどうしよう。やり過ぎて周りからはもはや何の反応も無いし……これは入学前に詰んだかもな……
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
こんな間抜けな失敗で試験が終わった訳だが、終わってしまった事には仕方が無く、僕は宿で試験の結果を待っていた。
コツコツと窓を叩く音がして外を見ると、手紙を咥えた鳥が羽をばたつかせている。窓を開けて中に入れてやると、鳥は手紙を落として飛び去って行った。
学園からの手紙だ。恐る恐る開けると……
——合格——
の二文字が記されていた。
ああ良かった。合格出来ていたようだ。手紙の中には寮の鍵も入っていて、同封されたもう一枚によると、教科書や制服などは全てそこに置いてあるのだそう。
そうなると……明日から寮に行って、明後日は入学式って感じの行程かな。面白いくらい何事も無く事が進む。
こう言う時はだいたい後で何か起こるものだけれど、今のところはまだ大丈夫そうだ……
……と、思っていたのが昨日の事。
僕は今学園の寮にいる。ちなみに寮ではラーファルと同室だった。まさかとは思ったし想定外ではあったけど、これは普通に良かった。いや、良いんだよ、無理してるとかじゃないから。それは本当に嬉しいよ。
……問題はこっちだ。ドアの前から、聞き覚えのある話し声がする。あのメルトとか言うやつとそのお供だ。
くそっ、なんでよりにもよってあんなのと部屋が近いんだ。
幸いにも、同じく合格してたらしいお供達の部屋は階が離れてるんだけど、今絶賛こちらに遊びに来ているようで、笑い声だのなんだの、外がうるさい。
全く、こんなやつらでも入学出来るなんて。何で面接が無いんだ面接が。
ドアに背を向けて文句を垂れていると、いつの間にやら話し声は聞こえなくなり、代わりに軽いノック音が響いた。
ドアを開けると、そこにはメルトが立ちすくんでいた。何やら申し訳なさそうな顔をしている……ような気がする。たぶん。雰囲気的に。はっきり言っちゃうと、無表情だから良く分からん。
「あの、この前は悪かった。あいつらも悪気があった訳じゃないんだ。俺からも言っておいてやったから、当分お前達に近づきはしないだろうし、だから……許してやってはくれないか?」
……驚いたな。試験の時では全くと言って良いほど喋らなかったこいつが、わざわざ謝りに来るなんて。二人称『お前』だけど。
何だ? 貴族にもこう言うやつがいるのか? それともこいつが特別なだけか?
「いや、良いよ。別に初めから怒ってなんか無いし」
僕がそう言うと、彼は少し安心した様子で、再三謝って自分の部屋に帰って行った。
メルトが出て行った後、ラーファルを見ると、この鳥獣人の少年は、それはそれは目を丸くして固まっていた。尾羽も面白いくらい広がっている。
……え、今のそんなに驚くような事だった?
「え、何、どうしたの……」
「……謝った? キングスランドの嫡男が? そんな馬鹿な……」
まずいぞ、今まで(前世)の経験からしてここから来るパターンは……
「……すごいよエス!! 貴族を謝らせるなんて!」
そんな事やって無いです……
「メルト君に何て言ったの?」
何も言って無いです……
「試験の時と言い、君、色々と規格外だよ! 一体エスって何者……」
「ぁえ? ただの人族だけどぉ!?」
「ん?」
「うん?」
焦ってたとは言え、流石に今の反応はおかしかったか? 何かラーファル混乱してる……
……でも、何言ったとしても、ともかく有耶無耶になっただけまだ良い……のか?
「うーん、よく分かんないし、まあ良いや。それよりエス、夕食の前にお風呂行こうよ。ここのお風呂って、大浴場ですごいんだって」
え? 今何て言った?
「大……浴場?」
「そうそう、何でも学生の疲れを癒やすためにわざわざ温泉まで引いて来て……どうしたの?」
まずいまずいまずいまずい。え? 何がまずいかって? 覚えているだろうか、竜は仲間を増やす事が出来ないと言った事を。
つまりどう言う事か? そう、僕達には“性別”と言うものが無いのだ。要するに何も無いのだ。何がとは言わないが。
分かるだろう? いくら上手く他を隠したって、これだけはどうしようも無い。見られたら一巻の終わりだ。
「ぼ、僕はまた後でにしようかなぁ、ほら、もっと人がいなくなった後とか……」
「……もしかしてエスってお風呂嫌い?」
「え? いやいやいやいや、もちろんお風呂は(元日本人たるもの)大好きだけど!?」
「じゃあ行こうよ! 僕だって一人で行くのはなんか寂しいし……」
あー、どうしよう。完全にそれは考えて無かった。なんか申し訳ない、獣人って感情が分かりやすいから余計に申し訳ない。
「……なら、少しだけ……」
「良いの? やったぁ!」
そしてラーファルに半分引きずられながら廊下を歩いて行く。
そうは言ったけど、もちろん策なんてものは無い。ノープランここに極まれり。
あっ、ちょっと待って、
誰か助けてー!