No.50 その目に映るのは……
「ああ、なるほどなぁ。この間の芝生消失は、お前の仕業だったと」
「そ、そうではあるんですけどね、あれは不可抗力ですよ、不可抗力」
ガイウス先生に協力を仰いでから一日。僕は彼をまず真っ先に、先日『ちょっとだけ本気』を出した時の爆心地へと案内した。
先生は額に手をあて、大きく溜め息をつく。
呆れたように首を横に振る先生を見て、僕はなんとか誤魔化すように言い訳した。
「殺されかけて、ついカッとなっただけですよ。全力で抑えてはいたし、むしろ被害がこの程度済んで、ラッキーなくらいです」
円状に芝生が失われ、土が茶色く顔を出す地面。
生命力の強い雑草が、まばらに芽を出すのみで、ついこの前まで青々と茂っていた芝草の面影は、もうどこにも無い。
でも、これでも威力を抑えていたってのは事実だ。本当の本気だったら、今頃この辺り一帯、荒地になっていた事だろう。
「まぁとにかく! サイラス・グラウリス捜索、さっそく始めていきましょう!」
無理矢理テンションを上げ、話を本筋に戻す。目的を見失ってはいけない。
本来ならアイツを助けるような義理は無いが、今回の件は十中八九僕のせいだ。
つまり、もしサイラスが見つからなければ……
……僕のメンタルが罪悪感で死ぬっ!
僕の心の安寧の為に、何としてでも迅速に解決せねば……
「あぁ~、はいはい。とんだ面倒事だな、全く……それで? 俺は何をすれば良いんだぁ?」
地面にしゃがみ込み、引っこ抜いた雑草の芽を眺める先生。相変わらず気だるげな様子ではあるが、わりかし乗り気のようだ。
「先生には、まずこの辺り一帯の魔力を見てほしいんです」
ちらっと、この前『穴』のあいていた、今は何も無い空間に目を向ける。
それくらい自分でやれば良いじゃないか、と言われるであろう事は分かる。でも実際、そう上手くはいかないものだ。
確かに僕だって、魔力を”見る”事は出来る。ただ”見る”くらいなら、さほど難しい事では無い。
でもそれは、何度も言っている通り、『魔力探知』の応用。正確に言えば、”見て”いるのでは無く、”感じて”いるのだ。
それがどうした? と思われるかもしれないが、実のところ、この違いはかなり大きい。
分かりやすく言うなら、これはモノクロの写真を見ている時の感覚と近い。
白と黒だけで構成された映像でも、陰影で大体の色は想像出来るだろう?
でも、言ってしまえばそれまでだ。本当の色までは分からない。
これが”感じる”と言う事。
今度はカラー写真だ。
そこに写っているものは、どんな色をしている?
そんなの、見りゃぁすぐに分かるだろう?
これが”見る”と言う事。
ほら、全然違う。
僕は前者、ガイウス先生は後者。
ありのままが、見えるか見えないか。
似たようなものでも、精度は段違い。
まぁ、なんだ……
要するに、先生は僕が見落とすような細かい痕跡も拾えるって訳だね。
「何だこりゃぁ、酷いな……ああ、ちゃんと見えてる。お前が知りたいのは何だ?」
先生は虚空に向かって目を凝らす。
ところでなんだが……
……酷い、って何が? よもや僕の事じゃないよな……?
いやいや、そんな訳……
「そりゃもちろん、昨日話した空中の『穴』についてですよ。何か痕跡は残ってませんかね?」
……『穴』の事を言ってるんだよな? うん。きっとそうだ。間違い無い。
「空中……ったく、とんだ視界不良だなぁこりゃぁ。ちょっと待っとけぇ、お前の魔力が充満してるから、時間かかるぞぉ」
……ああ、やっぱり僕のせいなのね。
もういいよ、この流れ。何回目だよ?
……いや、僕のせいなんだけどさぁ!?
「ああ……はいはい、すみませんね。状況が悪かったとは言え、確かにやりすぎましたよ」
「すみませんって、絶対思ってないだろそれ。いや、別に謝る必要は無いんだが……」
投げやりな態度で、うわべだけ謝る。
もちろん後ろめたさなんか、微塵も感じていない。
先生も、そんな事は承知の上だ。
僕の適当な謝罪は、さらっと流された。
そして待つ事数分……
「よぅし、あらかた見終わったぞ」
じっくりと周囲を観察していたガイウス先生が振り向く。
思ったより早かったな。
「……ん? 何やってんだ、お前?」
先生の目線が、僕の手元へ向かう。
「え? これですか?」
手のひらの上の空間が僅かに歪み、パチンと弾けて元に戻った。
……クソッ、また失敗か。
「ちょっとした実験ですよ。『穴』を自分でも再現出来ないかなぁ、と思って。でもやっぱり……駄目ですね」
敵の技とは言え、実用化すれば便利そうだから色々試してはみたけれど……そう上手くはいかないかぁ。
やり方が間違ってるのか、考え方が間違ってるのか。
出来そうな気はしなくも無いんだけど、どうにもこうにも……
「まぁ、特別今必要な事では無いです。本当にただの実験なんで。それより……」
顔を上げる。『穴』の作り方なんて、今はどうでも良い。
最優先すべきは、サイラスを捜す事。
そして、今一番知るべきなのは……
「何か分かった事はありますか?」
——この現場を見て、先生の目に”何”が映ったのか、だ。




