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No.44 真面目な話はバグった価値観で

 さて、気を取り直していこう。


「はいストップ! 傷の話は後からで良い。それより今、優先すべきは誘拐犯の事だ」


 パンと一度手を叩き、話を仕切り直す。この件で肝心なのは、襲われて怪我をしたと言う事実ではなく、相手が僕に接触してきたその方法だ。


「とりあえず、今日の昼、僕はサイラスを誘拐したやつと会った。ただしさっきから言ってる通り、直接的にではなく()()()()だ。それも一方的に見られてたような形で。だから、そいつの顔も背格好も、僕には一切分からない。まずはそれを念頭に置いておいてほしい。……と言っても、これだけじゃ分からないか」


 僕には先輩ほどの説明力は無いし、実際に見せながら説明した方が早い。

 そう考えてベットから立ち上がり、ちょうど机の上にあったいらない紙を持って来る。

 そして紙にペンを突き刺し、真ん中に穴をあけた。


 腕を伸ばして、紙で二人との空間を隔てる。穴の向こうに、二人のきょとんとした顔が覗いた。


「こっち側と、紙を隔ててそっち側は、別の空間としてとらえてくれ。そして今この二つの空間を、紙にあいた穴が繋いでいる。ここまではオッケー?」


 数秒間の静寂が流れる。

 しばらくして、メルトが口を開いた。


「……ああ。それで……お前はこの『穴』とやらを通して誘拐犯と接触した。だから、『間接的な接触』。つまりはそう言いたいのか?」

「おお、そうそうまさにその通り。話が早いじゃないか」


 正直これで伝わるかも微妙な線だったけど、理解してもらえたようでなにより。


「それで、ここから……こう」


 ——風精(シルフ)の囁き——


 紙の穴を通して、向こうに魔術を飛ばす。シトラスのような爽やかな匂いのそよ風が、二人の間を通り抜けた。


「ちょうどこんな感じで攻撃が飛んで来てさ。もちろん今のは攻撃魔術じゃないけど、実際は一撃で軽く死ねるようなのが、それはもう大量に転送されて来てねぇ……一発よけきれなくてこの始末って訳」


 紙を持つ手を下げ、二人の顔を見つめる。

 ……う~ん、何と言うか渋い顔。あらかた、『殺されそうになったわりに、ノリ軽すぎ!』とでも思っているのだろうか?


「まあ、向こうも本気で殺そうとはして無かったぽいし、実際生きてるんだからそんなに心配する事無いんだって」


 また辛気臭い空気になってしまった。下を向いて、一度ゴホンとわざとらしく咳をし、陽気な声でパッと顔を上げる。


「さてさて! 一旦話を切ろう。二人共、ここまでの話で何か違和感を感じたところはなかったかい?」


 突然変わった僕の態度に、メルトは訝しげに眉をひそめ、一方のラーファルは、羽を震わせ首をひねる。


「違和感? いや、特には……」


  ……あれ? 気づいて無かった?


「お前のテンションがいよいよおかしくなった、って事じゃないのか?」


 ああー、そうそう、流石メルト。よく分かってるじゃないか……って、


「違ぁう!! 確かに多少深夜テンションなのは無きにしも非ず……だがしかし! 大事なのはそこじゃない。今目を向けてほしいのは話の前提条件だよ。聞いてておかしく思わなかったのか? 『そもそも空間に干渉なんて出来るのか?』って!」


 先程、怪我の話をしていた時とは立場が逆転、今度は僕の方が二人に迫る。


「単純に気づかなかったのか? それとも気づいてた上でスルーしたのか? それとも本当にそこに違和感など感じなかったとでも? どれだ!? そうだな……今言ったのを最初から順番に①、②、③としよう。正直に答えろよ。それじゃ、せーの……」


「「③」」


「……」


 二人は少しのためらいも無く、真顔でそう答えた。


「……本気で言ってるの?」

「ああ。こんなんで嘘をつく理由も無いだろ」

「いや、だってね……君を見てたら、そのぐらい出来そうな気もしてくるからね……」


 そうか。二人共、僕のせいで脳がバグってたのか。


「……いやいやいやいや、僕にだって出来ない事くらいあるから。一体僕の事何だと思ってるの?」

「何って……控えめに言って……化物?」

「……あれ、ラーファル、君、前は『化物は流石に酷いよね』って言ってた気がするんだけど……」

「ああー……ごめん。気が変わった。大丈夫! もちろん『良い意味で』だよ!」


 ……化物に良い意味も悪い意味もあるのだろうか……? まあ、褒めてるつもりなんだとは思うんだが……


「……はぁ、もういいや」


 よし、これに関してはもう諦めよう。力をセーブしきれてない僕が悪いんだし。


「たとえば僕が化物だとして、まあ別に僕じゃなくても良いんだけど、空間干渉なんて大それたまね、どうやってすると思うんだ?」


 再度真面目トーンに戻り、二人に問う。


 二人は瞬きをし、さも当然の事だ、とでも言うように答えた。


「魔術でしょ?」

「魔術だろ」


 ……やっぱり、そう思ってたか。どうりで違和感なんか感じてない訳だ。


「いいや、魔術では不可能だ。自然の理から外れる事は、絶対にね。こればっかりは、才能は関係ないよ」


 二人の顔にクエスチョンマークが浮かぶ。


 そんな事など端から知らなかったのかもしれないが、昨日の『火付きの導火線』の件で、僕が二人に魔術に対する歪んだ価値観を植え付けてしまったのかもしれない。


「ならその『穴』とやらは何だって言うんだ?」


 メルトが問う。本当に他に何も出て来ないのか?


 ……いや、逆か。普通に生きていたら、魔術以外の”出来ない方が当たり前”の能力の事なんか、思いつきもしないのだろう。

 ましてや、誘拐犯がそんな高い能力を持ち合わせているなんて、絶対に考えたりはしないのだろう。


 二人の目を交互に見つめる。

 そして目を閉じ、ゆっくりとまぶたを開けて、僕はこう答えた。


「……『穴』の正体は…………魔法だよ」

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