No.43 心配すべきは……
「緊急事態だ二人共」
色々あったその日の夜、僕はメルトを部屋に招いて、いつもの三人で緊急会議を開いた。議題はもちろん、『サイラス失踪事件について』だ。
ベッドに腰掛け前のめりになり、手を組んで、いかにも深刻そうな声色で口を開く。
半分は本気、もう半分はただのカッコつけ。いや〜、一度こう言うのやってみたかったんだよね〜。胸の奥底にある厨二な衝動が疼いて、なんと言うかすごく楽しい!
そしてもちろん! 僕の頭の上には……
——ハトォォォォ!!
いぃや締まんねぇぇぇぇ!!
……ふぅ〜、一旦落ち着け……
……まさか僕が作ったこのシリアスな雰囲気が、たかがハト一羽でこんな馬鹿馬鹿しい構図になるなんて……フッ、悲しい。
それはそうとハトめぇ、あの時は早々にどっか飛んで行ったくせに、全部終わった瞬間あーっという間に帰って来て……よくも僕を置いて一羽で逃げたな、裏切り者め。
「おい、緊急事態ってんなら早く話してくれ」
「おぉっと、そうだったそうだった」
……フム、また思考が脱線したな。元に戻さなければ。
「サイラスのバ、ん゛っん゛ん。サイラスがいなくなってからまだ一日。だが! たった一日ながら、この件に関する重大な事実が発覚した」
「君、今サイラス君の事馬鹿って言おうとして……」
「言ってない。気のせい。サイラスクンハバカジャナイヨ」
「もうアイツの事は馬鹿で良いから。それで? 何が分かったんだ?」
……メルト、辛辣だねぇ。まぁだ昨日の朝の事根に持ってるのかな?
っと、ひとまずふざけるのはこれくらいにして。
緊急事態なのは本当なんだ。んな事やってる場合じゃない。
「……驚かないで聞いてくれよ。昨日、僕が挙げたサイラス失踪についての仮説は覚えてるだろ? ほら、『サイラスは何者かに誘拐された』ってやつ」
「うん。覚えてるよ」
「ああ、そりゃもちろん記憶に新しいからな。それがどうしたってんだ?」
「どうもあれは正しかったらしい」
「……は?」
……うんうん、やっぱそうなるよな。あんな馬鹿げた話、『こうなのかもしれない』の段階だったならまだ良いけど、『それが現実だぁ!』って急に言われても、まぁ普通は信じられんわな。
実際僕だったら信じないだろうし。
「だからさぁ、どうやらあの仮説が正しかったっぽいんだよね」
「……あの馬鹿が誘拐されたって?」
「そうだよ」
「……」
メルトは頭を抱え、大きく息を吐き出す。
よっぽど衝撃だったのか、もしくは呆れているのか。その表情には、何とも言えない苦々しさが滲んでいる。
「……メルト、大丈夫?」
「……大丈夫だ。続けてくれ」
ラーファルの問いかけに、メルトはうつむき加減にそう答えた。でも……大丈夫ったって、僕にはとてもそんな風には……
「……ねぇ、メルト、怒ってる?」
僕と同じ事を感じたのか、ラーファルは心配そうにメルトの顔を覗き込む。
「いや、そんな事……」
「ほんとに……?」
「……少し」
あ、認めた。
「別に……俺が何を思っていようがどうだって良いだろ。誘拐が真実だってんなら、証拠はあるのか?」
……今度はごまかしたな。サイラスが心配なら正直にそう言えば良いのに……
「……ツンデレかよ」
「あ? 何か言ったか?」
「いや、別にぃ~。ところで証拠ね。証拠なら……無いよ」
「は?」
あ、やべ。今の『は?』はキレてる時のやつだ。……でも、『誘拐されたのは事実だけど、証拠は無いよ』なんて言われちゃぁな……こっちとしては大真面目なんだけれども。
「まあまあ、落ち着けっての。確かに証拠は無い。だけど目撃者ならいた。サイラスが攫われる一部始終を見ていた、って人がね」
「目撃者? 信用出来るの?」
……信用、ね。ごもっともなご指摘だ。はっきりとした証拠が無い以上、どんな情報も鵜呑みには出来ないからね。
もっとも、人一人いなくなってるんだし。それで嘘の目撃情報を言う人なんて、普通ならいないだろうけど……まあ、世の中にはいろんな人がいるから。
「うん。誰から聞いたか……はちょっと訳あって言えないんだけど、とりあえず信用は出来る人だよ。それに……」
「それに?」
ラーファルは訝しげに首をかしげる。……さて、一体どう説明したものか。
「あー、いやね……えっと、なんて言うか……」
「おい、もったいぶらずに教えてくれ」
あ~も~、分かってるよ!
「……あのー……僕、会ったんだよね。その……誘拐犯に。……間接的にだけど」
「「……はぁぁあああ!?」」
うおっと、近い近い! 気持ちはわかるけどさぁ。
「会ったの!? 誘拐犯に!? なんだってそんな事に!?」
「展開が早ぇ。会ったって何だ? 説明しろ」
「いやだから、間接的にだって。それを今から説明するんだっつの」
僕に迫る二人をぐいと押し戻し、話を続ける。
「つっても、まず本当に会ったって事を証明しなきゃいけないんだよな。こんなん後からどうとでも言えるから、本来は証拠にすらならないんだけど……まあ無いよりマシか。二人共、これを見てくれ」
サイドに垂れる髪をかき上げ、昼間に負った傷を二人に見せる。流石にもう血は止まっているが、肌に残る赤い直線が生々しい。
「ちょっ、どうしたのそれ!?」
「昼間にやられた。そこまで深い傷じゃないし、この程度なら特に心配する事は無いけど」
「いや、心配するしないの話じゃないだろ! なんでそれをもっと早く言わなかったんだ!?」
二人は再び僕に詰め寄る。
なんでって、そんな事言われましても……
「だって……こんなのちょっと痛いだけで、実害は無いし……」
「痛いんなら実害あるだろ!!」
ん゛んー、それ、は……否定できないかも。いや、でもこんなのかすり傷……
「エス、君ね……もうちょっと自分の事大事にした方が良いよ」
うぇ……? 僕としてはもう十分大事にしてるつもりなんだけど……
……え、これもしかして僕がおかしいのかなぁ!?




