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No.30 助かったぁ

「えぇーじゃあ、説明やり……ます……」


 不本意ではあるが、ルルス先生の要望通りに解説を始める。

 僕が言ったところで理解してもらえるかは分からないが、とりあえず根本的なとこから正していく事にした。


「そもそもこれが暴発するのは……原因? は色々あるんですけど、う~ん、それじゃあ……まず始めにこれ。この線、魔術陣への魔力の供給線じゃないですか? これ、細過ぎです。このままだと、流した魔力の量がここの耐久力を超えて、線が切れます。ここまでは……分かります?」


 クラスメイトとルルス先生の顔を交互に見比べる。

 クラスメイトの方は……初っ端からもう脱落している人もいるけど、半分くらいは納得してる……ような気がする。

 ルルス先生は……まあ流石に大丈夫か。


 にしてもこれ……恥っっっずい。

 黒板に書きながらの説明だから、自分の一挙手一投足を全部見られてるような気がして、ものすんごく恥っずい。


 緊張をごまかすようにグリグリと線をチョークでなぞって、説明を続ける。


「それで……ここを太くしたら、周りの横道みたいにぐちゃぐちゃしてるところ、全部必要なくなりますよね? だからこれはもう消しちゃいます」


 一度チョークを置き、必要無い線を片っ端からダイナミックに消していく。

 これだけでも、だいぶ術式は綺麗になってきた。


「……っと。はい、これでちょっとすっきりしてきたから、供給線は一旦これで良くて、次にルーンを見ていきます。じゃあまずは外側から」


 魔術陣の縁に近いところのルーンを黒板に書き出す。


「これらのルーン、どこかで見た事ありませんか?」


 書き出したルーンを指し示し、振り返ってみんなに問う。


 脱落者が増えてきた影響もあるだろうが、視線の強さは、さっきよりは幾分マシになってきた。

 それでもまだ『面白くない』みたいな顔でこっちをにらんでくるやつはいるけれど。


「炎系統の魔術に必ず存在するルーン。その術式が火や炎に類するものだと定義する為の記号」


 誰もいないのかと思えるほど静まり返った教室。

 そんな中僕の質問に答え、静寂を切り裂いたのはエレオノーラだった。

 エレオノーラは凛とした表情で、『そうでしょう?』とでも言うかのように僕の目を見つめる。


 ああ、やっぱりこういう時に真っ先に答えるのはエレオノーラか。

 他のやつらは、手を上げようとする気配すら無い。

 単に僕が気に食わないってのも理由の一つではあるだろうけど、やっぱり一番大きいのは『話の内容が理解できない』ってところだろう。


 そもそも、専門家が長い間研究しても分からなかった未解決問題を、子供に解説するってのがおかしいんだ。

 いくらAクラスが優等生の集まりだからって、所詮子供は子供。理解させようってのが間違ってる。


 そう考えたら、流石エレオノーラとでも言うべきか。

 ちゃん説明を理解した上で質問にも答えるなんて。

 僕はこいつの事ははっきり言って嫌いだけど、そこは素直に凄いと思う。

 まぁ、でも……


「そう……ではあるけど不正解。本質はそこじゃない」


 ……答えられたところで、それが合ってるかどうかはまた別の話だ。


「このルーンにそんな大層な意味は無い。いや、そもそもルーンに意味なんて無い」

「……? ルーンに意味が無い?」


 あー……そうだった。

 この世界では、ルーンにはそれぞれ一つ一つに意味があるものとして認知されてるんだったな。


 あー、そこからかぁ。

 ……どうしたもんか、このままいくと、この解説自体が成り立たなくなるぞ。


「……今その話をされちゃあもう何も……先生、どうします? そこから話した方が良いですか?」

「……やはりその件も絡んできますか?」

「はい、そりゃぁもうガッツリと」


 内容に絡んでくるも何も、そこんとこの理解が無かったら話にすらならない。


 ルルス先生は唇に手を当て考え込む。


「そうですね……本当なら今すぐに全て解説して欲しいところですが、まずそこの概念を根底から覆さねば、話にもならないときましたか。ふむ……」


 するとルルス先生は唇から手を放し、顔を上げて僕に聞いた。


「ルーンの意味がうんぬんの話は抜きにして、他の情報だけだと、何割くらいの説明がつきますか?」


 先生は僕の目をじっと見つめる。

 相変わらずその顔から感情を読み取る事は出来ない。

 だけどこの目は知っている。飽くなき探求心を持つ、研究者の目だ。


 僕は遠くを見るように目をそらし、答える。


「……うーん、何割も説明出来ないと思いますよ。魔力供給線を整理した後は、もうほとんどルーンの話しかしません」

「そうですか……」


 小さくつぶやき、ルルス先生は残念そうに目を伏せる。

 ルーンがどういうものかについてはもう感覚的概念の話になってくるから、そうなるともはや説明して理解出来るか否かの問題ではなくなる。

 ルルス先生もそれが分かってるからこそ、今こんなに悩んでいるのだろう。


 でも僕にとっては好都合だ。

 だってこれでこの公開処刑から解放されるかもしれないんだから。


 ほら先生、早く僕を解放してください。

 だった一言、言ってくださるだけで良いんですよ。


「ふむ……既存の概念では説明不可ときましたか……」


 そう、そう、説明不可でしょ?


「となるとこれを理解するには、圧倒的に時間が足りませんね……」


 うんうん、後もう一息、時間がないから?


「……残念ですが仕方ありません。やはり今日この解説をしてもらうのは、無しにしましょう」


 お、良いぞ……


「無理を言ってここまで話していただいたのに申し訳ありません。私ですら理解しきれないとは、不甲斐ない限りです。拘束してしまいすみません。どうぞ、席に戻ってください」




 やったああああああ!!




 『席に戻れ』。そう、僕はその言葉がずっと聞きたかったのだ!

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