No.102 reverse
「なぁ、お前はどう思う!?」
「どうもこうも……」
メルトの勢いに押され、ラーファルは一歩後ずさる。
あの、大貴族の嫡男であろうメルトが、こんな話題を口にするだなんて。
ラーファルにはこの異様な状況が飲み込めなかった。
「十二歳でそういうのは、ちょっと早すぎると思うんだけど……」
「そうか? 平民はそういうものなのか?」
「うぅ、僕だって経験無いから分からないよ……」
ラーファルはメルトから顔をそらす。
正直、こういう話をされると弱い。
村と言えるのかすら怪しい規模の小さな集落で育ったラーファルには、恋愛うんぬんといった関係になるような相手も、そのような話が出来るような相手もいなかった。
ゆえに、“こういう事”には耐性が無かった。
翼の羽がブワリと膨れ上がる。
ラーファルは雑念を振り払うように首を横に振った。
「いや、いやいや。そもそもあの人、女の子じゃないでしょ!」
「いいや、どう見ても女だったろ。声も――」
「――それこそ違うでしょ!! 僕には男の子にしか見えなかったよ!?」
「はぁ? まさか……」
ふと、メルトとラーファルは顔を見合わせた。
どうも話が噛み合わない。
「俺達、同じ人間を見てたよな?」
「そのはずだよ。背が低くて、緑の髪に水色の目の、たぶん、オオカミの獣人の――」
「――女」
「――男」
……やはり、見事に最後の情報だけが食い違った。
当然ながら、どちらも嘘はついていない。
セルマリエスと話すゼムルードの姿が、メルトの目には少女のように、ラーファルの目には少年のように映った。
正しい正しくないとは関係なしに、そのどちらもが真実である。
だからこそ二人には、事実が何であるかは分からない。
もし、事実を知っている者がいるとするならば……
「……もう、本人に直接聞くしかないよね」
「あぁ。あれが誰で、どんな関係なのか、洗いざらい話してもらおう。――――セルマリエスには」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
暇だ。
そして、虚しい。
一人で祭りをまわる事ほど、虚しい事は無いと思う。
もちろん頭の上のハトは、人数にはカウントされない。
鳥だもの。
仮にこいつが話せでもしたら、変わっていたかもしれないけれど。
いや別に、もはや何を考える事もなく歩き回っている内に、ただ一人として知り合いと合わなかったという訳ではない。
見覚えのある顔とは何度もすれ違った。
でも……
――声をかけようとは思えない!
僕の交友関係はとんでもなく狭いのだ。
ただでさえ性根陰キャのコミュ障なのに、『学年首席』なんて肩書きのせいで、周りにビビられてる節もある。
難儀なものだ……
「――ん?」
「あ」
「うげっ!!」
……だからといってだね。
話せるやつなら誰でも良いって訳じゃない。
特にお前の事だよ、エレオノーラ!
「あなた、一人?」
「そうだよ。見たら分かるだろ…………さっきまでは違ったんだけど」
なんなんだこいつは。
ぼっちな僕をいびりにでも来たのか?
僕と違ってこいつが一人じゃないってのは見たら分かる。
あ~あ。三人、四人とお仲間を引き連れて。
流石は第二王女殿下。
慕う人間は多いってか?
知ってるぞ、お前に友達が多いって事は。
見るからに陽キャってタイプではないのに、不公平な。
「友達とまわってるんだろ? じゃ、邪魔すると悪いから僕はこれで――」
「――待って」
「……なんだよ」
なぜ止める?
せっかく僕が、お前と友達との仲良し空間から出ていってやろうとしているのに。
それに、実際あまり近くにいたくもない。
エレオノーラ率いるは女子グループ。対して僕は、中身男の見た目……ほぼ男。
一緒にいて気分のいいものではない。
あわよくば、逃げ出してしまいたい。
ゼムルードのように。
「僕なんてどうでもいいだろ。お前の友達を優先しろよ」
「友達………………違う。みんなうわべだけ。王女の私と仲が良ければ、自分の立場が良くなると思っている。頭の中にあるのは、自分の事ばかり……」
「何?」
「……なんでもない」
エレオノーラは何かをボソボソとつぶやいた。
だが、この騒ぎではいくら僕でも何も聞き取れない。
ふとエレオノーラの後ろに視線を移すと、少女達はひそひそと内輪で何かを話していた。
こちらも話の内容はさっぱり聞き取れない。
でも、聞こえないままで良いだろう。
どうせよからぬ事だ。
私服だってのに……いや、だからこそか。やたらと身なりが良い。
きっと貴族の令嬢達だ。
大好きな王女と僕みたいな平民(笑)が話していたら、まぁ、思うところはある。
学園では、身分の差は関係無い。
たとえルールでそう決まっていたところで、人の感情はそう簡単に制御出来るようなものではない。
「用が無いならもういいだろ」
「用ならある。でもあなたが逃げるから、なかなか言い出す機会が無かった」
「……」
――違う。
僕は逃げているんじゃない。
近づかないようにしているだけだ。
抑えきれる自信が無いから。
「あなたが私の事を、あまり良いように見ていないのには気づいている」
“あまり”だって?
そんなもんじゃない。
この嫌悪感がどれほどのものか、この体になってみなければ分からないだろうな。
「でも……お願い。あなたと、話がしたい」
話…………ね。
――まさか、『話せば分かる』とでも?
そんな短絡的な思考でどうにかなると本気で思っているのなら、こいつは一体、どれほどまでにお気楽なのだろうか?
ああ、エレオノーラ。
僕は、お前の事がどうしようもなく…………
――――嫌いだ…………




