今だけは
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「───ヴィオレット、話がある」
「……申し訳ございません。時間が…」
もう何度目かもわからない殿下の言葉に、今日も同じように答えて立ち去ろうとした。
「……っ、ヴィオレット、待ってくれ!」
「…!?」
今日はいつもとは違った。いつもの殿下なら、私が拙い嘘で断ろうともすぐに引き下がるのだ。…何度も話し掛けてこようとはするけれど。
しかし、今日の殿下は私の腕を掴み、余裕の無さそうな顔をしていて、必死さを感じた。そんな殿下の顔を見た私は、つい彼に向き直ってしまう。
「…何、でしょうか」
「もうすぐ、精霊祭があるな」
「…そう、ですね」
精霊祭は、この世界でかなり大々的に祝われる日だ。おそらく、前世で言う七夕にあたる。この時期、一際精霊の力が強くなる。そんな精霊に感謝を伝え、祈りを捧げる日なのだ。
私たちが魔法を使う時には、彼らの力を借りる。だから魔法学院では特に重要視されており、卒業パーティーと並ぶ程の盛大な舞踏会が開かれるのだ。
ちなみに精霊祭は、ゲームでも一、二を争う重要なイベントでもある。
確か、今年の精霊祭まであと二週間くらいだった筈だ。しかし、何故そのような話をするのだろうか。この前の件について何か言われるのだろうと、覚悟していたのに。
「……精霊祭までは、婚約解消は待ってもらえないだろうか」
「?どうしてでしょうか」
「……どうしてもだ」
殿下は理由を口にしない。精霊祭に何かこだわる必要があるのだろうか。しかも、私には言えない理由で。
(……ああ。そういうことね)
殿下は、舞踏会で婚約解消を公表したいのだろう。そしてきっと、私を断罪するのだ。
……結局、私は何も変えられなかった。何をしても、私が悪役令嬢だということは変わらない。今までの努力も、気付いてしまった想いも。全て、何の意味もなかった。
だが、それも仕方のないことだ。私は所詮、殿下の邪魔にしかなり得ない存在なのだ。私は、ヒロインになどなれないのだから。
(でも、それなら)
どうせ叶わない想いだとしても、最後まで縋るくらい許されるのではないか。悪役令嬢らしく、彼の隣に居座ればいい。向こうが待って欲しいと言ったのだ。私が気にする必要などないではないか。
そう自分に言い聞かせ、平然と答える。
「…ええ、了解致しました。構いませんわ」
「…ありがとう」
(……どうして)
殿下はほっとしたように笑う。何故、どうして。貴方はそんな安心したように笑うのだろうか。
もう、やめて欲しい。その笑顔を、私に向けないで。苦しくて、また涙が零れてきてしまうから。貴方の笑顔を受け取る資格など、私にはないから。
…少しだけ、殿下の隣にいられる時間が増えた。そのことが嬉しくて、苦しくて。
痛みも、苦しさも、未来も。何一つ変わることはない。そんなこと、わかっているけれど。それでも、今だけは。今だけは、貴方の隣にいたい。
……ただ、それだけだから。
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