噂と思惑
アレス視点です。
「なあなあ、アレス聞いたか?ヴィオレット様の噂」
「いつものか?」
楽しげにフィサリスが俺に話しかけてくる。
ここ数日のヴィオレットはいつもと様子が違ったが、前のような噂でもあるのかと一瞬思ってしまう。
「いや、なんか転入生の子と仲良さそうにしてたらしいぜ?あのヴィオレット様が」
「ああ、そのことか」
確かに昨日ジェイド子爵令嬢と一緒にいたのを見た。
ヴィオレットが楽しそうに他の令嬢と話しているのを見るのは初めてだった。
「オレさー、転入生ちゃんに興味あるんだよね。たぶんヴィオレット様と一緒にいるし、話しかけにいくの付き合ってくれよ」
「……自分でどうにかしろ」
「ああいう子はオレみたいな奴、絶対警戒するんだよー。それに、前にヴィオレット様にゴミを見るような目を向けられたことあってさ…」
「それは自業自得だろう?」
フィサリスは良くも悪くも誰に対してもほとんど態度を変えない。さすがに目上の者には敬意を払っているようだが。
こんな男だからこそ、俺も友人として信頼しているのかもしれない。
一つ問題があるとすれば、……軽薄な態度だろうか。
確か昔、一度ヴィオレットを口説こうとしていたことがあった。ゴミを見るような目の原因は絶対それだろう。
ただ、彼自身は本気で言っているわけではないし、あれでも(そうは見えないが)、特別な関係の女性はいたことがないらしい。
「なあなあ、別に良いだろ?お前もヴィオレット様と話せるぜ?」
「……婚約者だから、いつでも話せる」
「え、“仮”婚約、でしょ?しかも今、地味にヴィオレット様に避けられてるだろ」
「何故それを…」
「さあ、何でだろうなー」
…フィサリスにはお見通しらしい。何処からあんなにたくさん情報を仕入れてくるのだろうか。
どうやら俺には最初から断るという選択肢は用意されていなかったようだ。
「……で、二人は何処にいるんだ?」
ため息を吐きたい気持ちを抑えて問いかけると、フィサリスはほくそ笑んだ。
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