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【WEB版】姉の代わりの急造婚約者ですが、お相手の王子とは仲良くやれてるみたいです  作者: 新道 梨果子
二巻発売記念SS

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

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番外編. ひよこ豆のスープと、王子の未来の展望について

二巻の発売に伴いまして、講談社ラノベ文庫編集部ブログにて、特別短編が無料公開されました。

ぜひ行ってみて、楽しんでください!

http://blog.kodanshaln.jp/blog-entry-96211066.html

 マルシアルがコルテス領に滞在していたときに、ブツクサとこの土地の文句を言っていたのを聞いたことがある。ヤツが泊まっていた宿で、私たちが隠れて不法滞在者の確認をしていたときだ。


 正直なところ、私もこの地が理想郷だとは思ってはいないし、まったく不足を感じないと言うと噓になるが、他人の口から不満の声を聞くと、なぜか腹立たしく思えたのを覚えている。


 とはいえ、マルシアル自身がコルテス領に乗り込んできた、という衝撃のほうが大きすぎて、そんなことはすぐに頭の中から追い出されていた。

 それを思い出したのは、馬車の中で向かい合って座っているプリシラが、窓の外を指差して、声を掛けてきたからだ。


「レオさま、あの店、パンが美味しいんですよ」


 窓から顔を覗かせてみると、何人かの客がなにかを口にしながら、談笑しているのが見えた。どうやら繁盛しているのだろう。


「それから、あっちの店はソーセージが絶品だって、ホセさんたちがよく出入りしてます」


 指先を動かしたプリシラに倣って視線を移動させると、夜に営業している店なのか、扉が閉まっている店舗があった。


「それと、もう少し進んだら、ひよこ豆のスープがすっごく美味しいところがあって、私もたまに出入りしてるんですよ」

「そ、そうか」


 突然始まったプリシラの店紹介に面食らっていると、彼女は少しして、また口を開いた。


「コルテス領にも、美味しいお店はいっぱいあるんです」


 そう力強い声で主張してくる。

 どうしてそんなに必死に飲食店について語り始めたのか、と首を捻っているうち、思い出した。


 あのとき、マルシアルが言っていたのだ。『ロクな店がないところだな』、と。だからプリシラは、その発言を否定しようとしているのかもしれない。


 とすると、私がコルテス領に失望するのではないかと心配して、なんとかあの戯れ言を取り消そうとしているのだ。あんな男の言うことなど、気に病むものではないのに。


「もう少し進んだら、ひよこ豆のスープとやらが美味しい店があるんだな」

「あ、はい」


 プリシラは私の返答に、コクコクとうなずいた。


「では行ってみよう」

「えっ」


 ちょうど小腹は空いている。屋敷に帰ればすぐに夕食だろうから、あまりたくさんは食べられないが、スープくらいならいいだろう。


 しかしプリシラは若干上目遣いで、両手の指を弄びながら訊いてくる。


「えっと、いいんですか、毒見とか」


 確かに、外で気軽に食べ物を口にするものではない。コルテス家の屋敷内ならクロエの目も光っているし、そこまで神経質にはなっていないが、王城ですら人の出入りが多いため、毒見役は必須だ。

 だが、急に決めた外食、しかもプリシラもよく行く店ということなら、心配はないのではないか。


「プリシラも同じものを食べるんだろう。それで毒見ということにしてくれ」


 苦笑交じりに答えると、プリシラは表情を輝かせた。そしてさっそく、御者台に向かって道案内を始める。

 しばらくして店に到着すると、店主は王子である私が来店したことに驚いたようだが、バタバタと慌ただしくしながらも、プリシラ一押しのひよこ豆のスープとやらをテーブルに置いた。


「お、王子殿下のお口に合うかどうかわかりませんが……」


 店主が、おどおどとそう声を掛けてきて、私は目の前にあるスープに視線を落とした。

 質素な木の椀に注がれた黄金色のスープに、ゴロゴロとした芋や人参などのたっぷりの野菜とひよこ豆が浸っていて、湯気が立ち昇っている。玉ねぎのいい香りが、鼻をついた。


「美味しそうだ」

「美味しいですよ」


 プリシラは私の向かいに座って、そう胸を張る。店内にいた他の客たちも、固唾を飲んでこちらを見守っているようだった。


 脇に置かれた木製のスプーンを手に取ると、スープをひと匙すくい、口に運ぶ。

 ほろほろと口の中で崩れる野菜と、じわじわと広がる豆の旨味。なるほどこれは、自慢したくもなるだろう。


「うん、本当だ、美味しい」


 ポロッと私から漏れ出た言葉を拾うと、プリシラは頰を緩ませる。


「よかった」


 ついでに店主も、店内の客たちも、胸を撫で下ろしながら同じように、「よかった……」とつぶやいていた。


 それからプリシラは安心したように自分もスプーンを取ると、スープを味わっていた。

 だが少しして、口元を押さえて慌てた声を出す。


「あっ、毒見、忘れてました」

「そういえばそうだな」


 毒見と言うのであれば、私より先に食さなければならなかった。


「でもまあ、今回はいいだろう」


 たまにはこういう、気が抜けた食事もいい。

 これから私が彼女とともに生きていくこの土地には、まだまだたくさんの私の知らないことがあるのだろう。

 それらをひとつずつ知っていきたい。そして足りないものがあるのなら、私ができる限り手を貸していきたい。


 だからこれからもときどき、こうしてプリシラと出掛けられたらいいな、とそんなことを思ったのだった。

編集部側の都合により収録できなかった、先日発売された二巻の電子特典SSとして書いた番外編、『第二王子の婚約者と、そのお披露目会の騒動について』が、今回特別に、講談社ラノベ文庫編集部ブログにて特別短編として無料公開されることになりました!

http://blog.kodanshaln.jp/blog-entry-96211066.html


一巻の電子書籍をご購入いただいた方には、これが対になっている話だとわかると思います。

本編では名前しかでてこなかった謎の第二王子、フェルナンドが主役の話です。約12000字です。

ぜひ見にいってみてくださいね!


二巻の詳細は、↓ このずっと下の、ランキングタグ欄から告知ページに飛んでくださいませ。

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★ 2025/10/31頃 二巻発売! ★

講談社Kラノベブックスf告知ページ ↓ 

『姉の代わりの急造婚約者ですが、辺境の領地で幸せになります! 2 ~私が王子妃でいいんですか?~ 』

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― 新着の感想 ―
SS追加うれしいです! ひよこ豆デート、楽しそう。地元を好きになってもらおうとするプリシラがかわいいです。 フェルナンド殿下のお話も読んできました。王家の血筋を感じますw 本編でレオ様が否定してまし…
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