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羞恥心との戦い

本当は飲み物も用意するべきなんだろうけど、それを用意しようとしたらまた一悶着が起こるだろうし、ここで下手にコーヒーとか紅茶、お茶を飲むとカフェイン入っているからぐっすり眠れなくなりそうなので、さっさと話を終わらせて眠らせるために飲み物無しで本題に入らせてもらう。


「あの、昨日はすみませんでした。」

「えりがなぜ謝るのですか!私が、えりの嫌がることをしてしまったのですよ!えりは罵倒し私を嫌うことはあっても、私に謝ることなんて一つもありません・・・!」


せっかくソファに座らせたのに、ソファから降りて、再び正座になる。

コラ、何のためにソファに座らせたと思ってる。

さっき立ち上がるときに足の動きが鈍かったし足が真っ白だったからだよ。何時間正座してたんだってくらい足が酷いことになってたからなんだけど。


「向井さん、ちゃんとソファに座ってください。足が辛いでしょう。」

「私のことは気にしないで下さい。えりが不愉快に思った気持ちと比べたら、私のことなど、取るに足らないことです。」


いやだから、そういうことじゃなくてですね。取りあえずなんで私が謝ったのか説明させて欲しい。


「ちゃんとソファに座ってください。向井さんの足が気になって、話しづらいですし。」


そう言って困った顔をすれば、向井さんは渋々ソファに座り直す。

私、この世界に来てから三日目だけど、三日目にして、物を少しはっきり言うことを覚えてしまったよ。

昔は頭に血が上っていないかぎり、男の人にこんなこと言えなかったな・・・。

って今はそれどころじゃない。


「昨日のアレは、怒っていたわけではないので、まず謝らないでください。それと、私の反応や態度を気遣いすぎるのもやめて下さい・・・。よっぽどのことがない限り嫌ったりしません。」


こちらをまずはっきりと言わせてもらう。毎度毎度予想以上の反応を示されると、私としてもどう反応して良いかわからない。

しかし、これに対して予想外に反論が返ってきた。


「そうは言っても、俺たちとしては、何をしたらえりが困るのか、ってところが分からないし、俺たちの常識がよっぽどのことって可能性もあるだろう。気遣いすぎるのをやめてと言われても、夫の立場からやめることはできないんだ。」

「ちょ!石川さん!」


予想外に石川さんがはっきりと発言した。でも、正論だ。常識が違うのだから、私が何をすれば怒るのかも分からないし、昨日の出来事もそれが発端である。

夫の立場からやめることはできない、っていうのも、その通りなんだろう。昨日の話を聞いている限りでは、私の行動一つで彼らの今後が決まると言っても過言ではないし。

でもなぁ・・・。この生活が続くと、私も疲れるけど、夫たちの方が辛そうだ。


「ちょっとずつお互いのことを知れたら良いと思ってたが、そんな悠長なことを言っていたらお互いの関係がこじれそうだ。昨夜のことについて、えりが憤った理由を教えてくれないか。」


石川さんも、流石に疲れた顔をしていた。私が怒っていると思ったら怒っていないし、三人の心配が取り越し苦労だったということで、一気に疲れが出たのだろう。武田さんと向井さんは私の反応に未だびくびくしているが、石川さんは私が怒っていなくて三人の誤解だったと知って、早々にこの件について片を付けたい様子だった。

そりゃあそうだ。

振り回してしまったようで、余計に罪悪感を感じる。そこで少しでも「誤解を生むような態度をとるな」と怒ってくれれば少しは私の気持ちも晴れるのだけど、石川さんは安心したような表情しかしていない。合理的に行動しているだけだ。

そしてこの三人、本当に嫁に対して優しいというか・・・。

性格が良いというか・・・。


ただ、昨日怒った理由を正直に話してしまいたいし、そうすると丸く収まるのだけど、理由が理由なだけに、羞恥心が再び邪魔をして説明しづらい。


「私が怒った理由は、その・・・。」


ブラジャーはまだいい。一番の問題は下の布だ。イケメンの旦那に、ソレを素手で握られて、手洗いをしますと言われたから恥ずかしくなったなんて、言えない。

かなり私に対して遠慮しまくって目の隈も酷いことになっているけど、それでも格好良い。そんな夫にこれほど気を遣われて心配されてる中で、「私の汚れているかもしれない下着を握りしめられてその綺麗な手に妙なものが触れてしまったら羞恥心で死ねると思ってしまったから思わずあんなことを言ってしまった」と正直には言えないし。

でもさ、この世界の常識が、夫が嫁の衣服も洗濯することなのだとしても、「じゃあお願いします」なんて言えないよ!これがおじさんとかだったらまだマシだよ。いや、それも嫌だけどさ。洗濯物は母親か自分しかしてこなかったし。夫たちに衣服を洗われることに自分が慣れる未来が想像できない。

なんて説明しようか。

ここで妙なことは言わずに、「ちょっと恥ずかしかったの~」なんて言えたらいいんだけど、キャラじゃないし、そんなこと言ったら鳥肌ものだよ。

反対に「私の下着で一体何するつもりよ!」ってツンデレみたいにも言えたらいいんだけど、私の下着にそんな価値は一切ない。思わず吐いてしまいそうだ。

ああああ、言い訳が思いつかない。


私がなかなか話し出さずに、沈黙が続いたからか、向井さんが恐る恐る声を出した。


「えり、私が悪いのです・・・。えりに出会ってから、私は何度もえりを困らせてきました。もうこれ以上、えりを困らせたくない・・・。」


そこで言葉を一度切って、深呼吸をしてから私に真剣な眼差しをむける。

いやいや待って、これ嫌な予感が・・・。


「私のことは気にせず、別の男を夫に

「向井さんが、私の下着を素手で触っていたから!」

・・・え?」


ええい、もうヤケクソだ!

こんなくだらないことで離縁なんて言わせるか!!


「そもそも、向井さんだけじゃない。武田さんも石川さんも、もっと自覚してくださいよ!自分がイケメンってこと!スタイルも良いし、優しいし、声も顔も完璧だし、私のいた世界だったら確実に女の子を侍らせてるような人が、どう考えても平凡な私の下着を触って素手で洗いますとか言われて、動揺しない方がおかしいって!!使用済みの下着が綺麗なわけないじゃん!そんなの洗われて、うわ汚れてるわーとかもし思われたら、立ち直れないし一生心の傷になるわ!羞恥心で死ぬ!!」


一気にまくし立てたあと、私の息が切れる音だけがリビングに響いた。

三人とも硬直している。

思わず心の声を全部言っちゃったわ・・・。

もう今の時点で恥ずかしいし穴に入りたい・・・。

誰かスコップ持ってきてくれないかな・・・。


耐えられなくなり、現実逃避をしようとしていたら、ぽつりと向井さんが呟いた。


「恥ずかしかった、ということですか・・・?」


そ、う、受、け、止、め、る、な!!!



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