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断片・眼窩

 あんまり話したらいけないんだけど。

 消防やめてずいぶん経つけど、守秘義務ってのがさ、ほら、やめてもさ。あるから。


 でも二十年以上も前だし、あの当時もどこかから洩れて女性週刊誌に載ったりしてたから、もういいかなあ。ああ、俺の名前は出さないでよ。問題になったりするの嫌だからね。


 消防やって、二年目か三年目だったよね。すごい雷でさ。民家に落ちて燃えてるって通報があったんだって。うん、消防車がね。雨がひどくて道が川みたいになっててさ、なかなか進めなかったらしい。


 昭和にさ、東京の会社が山を買って作った住宅地だから。バス会社と提携して駅まで路線作らせたけど、それまでは何にもなかったって。山だよね。山。今でもタヌキだの出るっていうもの。


 それで時間がかかって。宅地に入ってからも道が狭くてね。やっと現場に着いたら、ぼうぼう燃えてたってよ。大雨が降ってるのに、火柱が高く上がってたんだってさ。


 隣りの家の人が、燃え移ったら困るから早く消してくれってうるさかったらしいけど、手がつけられないよ。ざあざあ雨が降ってるのに火勢が衰えないなら、水をかけても簡単には消えないだろ。


 それでも日付が変わる頃には何とか鎮火して。おかしな話だけど、雨足が弱まるのと一緒に火も弱まったんだってさ。いや、関係ないんだけど、普通逆だろって思って。


 それで俺、翌日、現場検証に先輩と行ったの。うん、夜勤じゃなかったからね、消火はやってない。後でそっちのほうが良かったなと思ったけどね、夜勤だったほうがね。


 台所は丸焼けで、壁や屋根も半分くらいなくなっててね。

 流し台や冷蔵庫が焼け残ってたから、それで台所だってわかるくらいで。


 そこのさ、冷蔵庫の前にさ。寄っ掛かるようにしてさ。

 あったのよ。崩れた建材の陰にさ、真っ黒になったご遺体が。


 うん、俺が見つけたの。見つけちゃったの。最初さ、炊飯器が変なところにあるなあと思ったのよ。

 床に近いところで、ゴミに埋もれてるみたいに見えたからさ。


 何だろうって建材をちょっとどけたらさ、うわあって叫んじゃったよ。

 だってご遺体がさ、炊飯器を抱えるようにしてそこに座ってたんだよ。


 もう丸焦げ、丸焦げ。男か女かもわからない。逆にそれで良かったかもしれないけどね。ほら……。二階のさ、焼け残った部屋を見に行った人はさ、後で吐いてたもん。


 うん、頭はね、なかったの。あったらもっと早く気づいてたよ。見えてたはずだから、建材の隙間から。


 なかったから、そんなところにご遺体があるなんて思わなくてびっくりしたんだよ。


 炊飯器がね、おそらくね、飛んだんだよ。落雷が屋根を突き抜けた真下辺りにね、たぶん置いてあったの。で、衝撃でびゅーんと飛んで。ぐしゃりと。


 さあ、もう死んでたんじゃないの? 医者じゃないからさ、無責任なことしか言えないけど。焼死体の形じゃなかったしね。


 それでさ、最初はそこの家の奥さんだと思ったけどさ、近所の誰かが見かけたんでしょ? だから、そのひとは生きてるはずって、そういう話だったよね、確か?


 うん、頭蓋骨ね。下半分は粉々で歯の照合も出来なかったけど、上のほうはあったの。お鉢のところだけだったけどね、丈夫だね。やっぱりね。


 それもね、俺が見つけたんだけどさ。


 離れた壁にね、屋根の破片が突き刺さってたんだけど。

 その上にね、うまいこと乗っかってたんだ。乗っかってたんだけどね。


 頭蓋骨のさ、目のところ。ちょうどそこのところから、屋根の破片が突き出ていてね。

 いや、先に建材が壁に突き刺さって、そこに後から骨が乗っかったんだろうけどね。


 なんていうか、まるで誰かが狙って目のところに突き刺したみたいにさ……。


 息子さんの死にかたも死にかたでしょ。で、何だかちょっと。

 気味が悪いっていうのかね。自分の中に残っちゃってね。


 まあ、それだけの話で、他の事件には関係ないんだけど。


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