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第1話

俺は、いつも異邦人だった。


アメリカのJPモルガン系列の銀行に勤めていた時も。

2008年の金融危機が勃発した時も。


ビットコインが乱高下し、多くの人々が仮想通貨に泣き叫んでいた時も。

ドルが弱含み、ユーロと金が時代を支配するようになった瞬間も。


俺は沈黙していた。


その代償が、これだった。


「くそっ!」


腹の下部。

隠しようのない傷口から流れる血を見て、今日が最後だと直感した。


常に誠実をモットーにクライアントと向き合ってきたが、彼らはそう思っていなかったらしい。


『難しいな』


いつだって、世界が思い通りに進んだためしがない。

揺れる視界の中で、神に切に願った。


もし次の機会があるなら。

その世界では、どうか死ぬほど上手くいく人生であってほしいと。


目を開けた。


見慣れない天井だった。

違和感はなかった。

ただ、目に映る光景があまりにも現実離れしていたからだ。


一瞬、最近リリースされたVRゲームをプレイしているような錯覚に陥った。

巨大なシャンデリアではないが、富を象徴する品々が部屋の至るところに存在していた。


「坊ちゃま!」


誰かが俺を呼ぶ声がした。


「そろそろ卒業式の演説のお時間となりますが。行かれなくても、よろしい……でしょうか?」


迷いが生じた。

今、演説の順番はおそらく最後あたり。

ならば。


『俺が死ぬほど嫌っていたマックスの番のはずだ』


何故、幼い頃にあんな青臭いことを考えていたのか。

だが、時間がなかった。


俺は部屋を飛び出し、走り始めた。

そしてこの身体の記憶が、息をするように俺を支配し始めた。


それほど裕福ではないが。

ささやかな夢を抱いて王国アカデミーへ留学し。


それなりに好き勝手生きてきたが、友情も積み重ね。

この卒業式という関門に辿り着いた。


『満足したか? レイン・アークウッド』


答えは返ってこなかった。


少し急いだおかげで、マックスの演説の一部だけでも聞ける機会を得た。


「……これをもって王国に栄光を捧げ。私をここまで導いてくれた」


その時、マックスの目が俺に向いた。


「正当な好敵手に、捧げます」


パチパチパチ――!


その言葉が、なぜか俺に向けられているような気がした。

だが彼の本心は分からない。


今となっては俺も、不自然でなく拍手をする以外にできることはなかった。


演説者の周りに多くの学生が集まり始めた。

どうやら彼と話をするのは難しそうだった。


しかも昼食の時間でもあり、親しくもないマックスと飯を食うのはなおさらだった。


俺は苦い笑みを浮かべ、踵を返した。


『物語の結末を確認することも必要だ』


もし来ていなければ。

マックスは演説の最後の言葉を、俺に向けて放つこともなかっただろう。


彼は優秀卒業者。

俺はせいぜい20位以内に入る上位卒業者止まり。


身分は違ったが。

これからの人生がどう展開されるかは、見えていた。


近づいてきた数人と挨拶を交わし。

元々いた自分の部屋へ戻ろうと、人の多いここから出ようとしたところに、誰かが俺を呼び止めた。


彼女は、レイナだった。


「元気……ね」


卒業評価試験で忙しくて、ようやく会えたのだから気まずいかと思ったが。

彼女は思いがけないことを口にした。


「私、帝国に就職したの」


王立アカデミーを卒業した者は、その事実そのものが身分の『証明』を意味する。


もちろん王国に残り、主要な施設で働くこともできたが。

実力があれば、帝国で働くことも可能だった。


彼女は俺と婚約を考えるほどの、かなり上位の家門。

様々な条件を考慮した上で進路を選んだ可能性が高かった。


どの部署なのか聞きたかったが。

いずれにせよ、彼女の言葉は一つのことを意味していた。


『婚約破棄だ』


レイナは気まずいのか、赤いストラップシューズのつま先で、床をいじっていた。

だが俺も男だ。


言ってやらなければならなかった。


「おめでとう、レイナ」


「ありがとう……」


彼女は躊躇いながら踵を返し、一言残した。


「財務大臣と、王国を率いる有望な学生たちとの午後のティータイムがあるんだけど……? 一度、私の代わりに行ってみない?うちの家門に優先推薦権が来てるんだけど、それを私からあなたに譲ろうかと思って……」


思いがけない機会だった。

本来ならば優秀卒業者と名門七、八家程度しか参加できない、限られた機会。


それを手に入れたのだ。


俺は彼女を見て、ふっと笑いかけた。


「また会う時には、笑顔で会えるといいな」


もしかしたら、彼女と会うのはこれが最後になるかもしれない。そう思いつつも、心の中で真心を込めて彼女の未来を祈った。

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