祝福
絶頂からの転落ですわ。
わたくしは独房で1日、過ごしました。
裁判はすぐに開かれ3年間の島流しが決定します。
軽い罪で済んだのは被害者が被害届を取り下げたからですわ。
世界中から減刑嘆願書が届いたのも大きいです。
わたくしは愛されてますわ。
ほかの受刑者とわたくしをいっしょにすると悪い影響があるという理由で孤島が監獄の代わりになりました。
わたくしは政府の用意した無人島に1人ぼっちで置き去りにされてしまいます。
巡視船が24時間365日監視しているのでお手製のイカダで脱走もむずかしいです。
3年後に迎えにきてくれる約束です。
わたくしは島を探検しました。
半径1キロ程度しかない小さな島ですわ。
バナナとパイナップルとヤシの実を見つけました。
とってもおいしいですわ。
ヤシの実は岩場の岩に固定して持ち上げた大きな岩を上から落として砕いて食べました。
ヤシの実の皮は器にも使えますわ。
木とツルと魚の骨で釣り竿を作ります。
水は川で汲めます。
葉っぱと枝で三角形の寝床も作りました。自然のテントみたいなもんですわ。
南の国で気候も温暖ですし、素人のわたくしでもなんとかサバイバルできそうですね。
火おこしはかなり苦戦しました。
手製の火きり棒ときり板を用意してなんとか火を点けました。
夜は浜辺で起こした火を利用して魚の丸焼きを作りました。
味気ないので明日は塩作りもしないといけません。
モグモグ食べながら孤独を感じます。
食べ終わったらすることがないのでゴロンと横になります。
今夜は浜辺で星を見ながら寝ることにします。
温暖ですし大きな葉っぱをつないで作ったお布団もあるので寒くありません。
波音を聴きながら眠りました。
目を覚ますと朝になっていました。
立ち上がってどこまでも続く青い海を見つめます。
いい風が吹いてきました。
青い空に白い雲、輝く砂浜。最高の景色ですわ。
「あ〜〜い!」
どこからかわたくしを呼ぶ声がします。
振り返るとヤンキーファッションのかわいい女の子が笑顔で両手を広げて走ってきました。
「ミミさんっ!?」
わたくしはミミさんとハグをします。温かい感情が流れ込んできて多幸感に包まれます。
からませた両手を胸の前に持ち上げます。
「いろいろありがとな!」
「どういたしましてですわ♩」
「お月様からずっと見守ってるぜ!」
「心強いですわ!」
答えた瞬間、パチリと目が覚めました。
「なんだ・・・夢でしたの」
リアルなゆめでしたわ。
身を起こして立ち上がります。
グーっと背伸びしてふと寝ていた場所に目を落とします。
砂浜に指で描いたような小さなうさぎちゃんマークが描かれてます。
まさか、本当にミミさんが来ていたのでしょうか?
わたくしは空を見上げます。
白い雲がゆっくりと流れていました。
わたくしは微笑んできびすを返します。
大きな木に石で傷を刻みます。まず1日目ですわ。
大木はカレンダーがわりにすることに決めました。
木登りも得意だし上まで行けます。
3年後、大木は傷だらけになりました。
わたくしのお気に入りのワンピースはボロボロでところどころ破れています。
金髪は黒髪になり青い目は黒くなりました。
美白が売りでしたが、健康的な小麦色の肌になっています。
これはこれで人気が出るかもしれません。
刑期を終えたわたくしは迎えに来た船で3年ぶりに母国へ帰還しました。
誰にも知られずに帰ったので盛大な歓迎は受けません。
港まで迎えにきてくれた鈴木は号泣していました。
「たくましくなられましたね」
「たいしたことありませんわ」
わたくしは伸び放題になった髪をかきあげてみせました。
鈴木の持ってきてくれた服に着替えます。
3年ぶりに車に乗ります。窓から見る風景はそんなに変わっていませんでした。
無人島から都会に戻るとタイムスリップしたみたいな不思議な感覚になりますわね。
「あいおねーちゃ〜ん!」
「会いたかったよ〜!」
うちに帰るとケンくんとハナちゃんが抱きついてきます。
2人とも背が伸びてます。
「おねーちゃん、これ観て!」
ケンくんがテレビをつけます。
七三分けの中年キャスターがニュースを解説しています。
「いま世界では貧困をなくす取り組みが大ブームです。有名人たちが先頭に立って活動しています」
画面に映し出された有名人を観てわたくしはびっくりします。
「オイラだけ毎日、たらふくごちそう食ってふかふかのベッドで寝るのは目覚めが悪いからよ。わけ愛するぜ♡」
テロップで世界的アクションスターと紹介された少年は手でハートマークを作って見せる。
あの目つきの悪さと野生的な雰囲気は間違いなくキンローくんですわ。
身体能力を活かしてアクションスターになっていたのですね。
わたくしの教えも実践して広めているようですしすばらしいですわ。
「独り占めすると嫉妬されて嫌われちゃうからさ。わけ愛するね♡」
続いて画面に映ったのは無造作ヘアのまつ毛が長い美少女ですわ。世界中を魅了する歌姫と紹介されています。コッコに間違いありませんわ。
次々に知っている顔がテレビに映し出されます。
「1番大事なんはわけ愛やで♡」
「わけ愛大好きにゃん♡」
「死ぬまでわけ愛じゃ♡」
「みんなでわけ愛しよぉ♡」
「好きな言葉はわけ愛っち♡」
「わけ愛推し♡」
みんなそれぞれの才能を活かして世界的な大成功をおさめたようですわ。貧しくて夢にチャレンジできなかっただけで環境さえ整えればいつでもブレイクする可能性を秘めていましたからね。
成長して成功者となりわたくしの教えを世界に布教してくれてるなんて大感激いたしました!
「みなさまに感謝ですわ♡」
わたくしはテレビに向かってハートマークを作ります。
わたくしの行動は無駄じゃなかったですわ。
「それだけじゃないよ〜」
ハナちゃんはにししと笑います。背中に何か隠してます。
ケンくんは興奮気味に語ります。
「怪盗キッズはドラマ・マンガ・小説・アニメ・映画・ミュージカルになって大人気なんだ!」
「キャラクターグッズも爆売れだよ♩」
ハナちゃんはウサミさんとタマさんのフィギュアを取り出しました。
かっこいいポーズとかわいいポーズを取ってます。
やはりウサギとネコが人気みたいですね。
まさかわたくしが無人島にいる間に世間ではこんなことになっていたなんて、すごすぎますわ!
「これアニメ映画の予告だよ」
ケンくんがスマホで予告編を見せてくれます。
かっこいい映像が流れます。キャッチコピーも最高です。
「世界を変えるためにたった1人で立ち上がった少女の勇気に全世界が泣いた!」
「ハンカチのご用意を忘れずに」
わたくしはジーンとしました。
わたくしの人生が映画になって全世界のみなさまに届くなんて夢のようですわ。
監督はモグモグになっています。あの子、映画監督になりましたの?
脚本だけじゃなく演出も口出ししていたから才能はあったんでしょうね。
モグラは取材も得意そうですわ。上手に根掘り葉掘り聞きそうです。
感動で体がぽかぽか温まります。そこへ鈴木がやってきました。
「お嬢様。お手紙が届いております」
鈴木から渡されたかわいいお手紙をペラリと開きます。
ウサミちゃんへ
アジトのパーティルームに来てください
怪盗キッズより
怪盗キッズからですわ!
わたくしは鈴木に送ってもらって3年ぶりにアジトへ向かいました。
エレベーターが開いた瞬間、パーン!大きな音がします。
「ウサミちゃん!おかえりぃ!」
パーティクラッカーを持った素顔のみなさまがわたくしを大歓迎してくれます。
天井にハートの風船が浮いてあったりして飾り付けもしっかりしてますわ。
「ただいまですわ♩ビシッ!」
わたくしは敬礼をしてみせます。本日は出所祝いでしたか。ありがたいですわ。
「座って座って!」
「ケーキ用意してあるよ!」
みなさまにうながされて主役の席に座ります。
スイーツ好きのわたくしのためにケーキを用意してくれてるなんて気が利きますわ。
3年ぶりのケーキなので食べる前からよだれがジュルジュルですわ♩
ケーキはウサギちゃんの形でした。
1番好きな動物と大好きなケーキが一体化しているので気分は爆上がりです。
ホールケーキをフォークでひと口食べます。
「おいしいですわ♩」
今まで食べたケーキの中で間違いなく1番おいしいケーキでしたわ。
完成された上品な香りにふんわりとした口溶け甘すぎない完璧な味付け。作った人は天才ですわ。
わたくしは食べるのに夢中になります。ガツガツ食べているとカチッと口の中に何か固いものがあたりました。取り出してみるとウサギの形の指輪ですわ。目はルビーですね。
すごいおしゃれでかわいいですわ♩
「ウサミちゃん」
後ろからだれかが声をかけてきます。
「ぼくのこと覚えてる?」
振り返るとシェフ姿の犬顔の少年が立っていました。
「ポチではありませんか!もちろん覚えてますわ♩」
わたくしは喜んで立ち上がります。
忘れるはずがありません。うたげにスイーツがないのは不満なのでわたくしが熱を入れてスカウトしたお菓子作りの天才少年ですわ。ポチは顔を真っ赤にして言いました。
「世界一のパティシエになったよ。ぼくと結婚して!」
突然の求婚にびっくりです。
タマさんが後ろでトロフィーを掲げています。
わたくしは顔が熱を帯びてくるのを感じました。
断る理由を考えますが、ポチに希望を与えたのはわたくしですし、犬顔も嫌いじゃないですし、スイーツも大好きですし、年齢も同じなので、断る理由がぜんぶなくなってしまいました。
「毎日、3時のおやつを作ってくださる?」
「もちろん!」
「よろしいですわ。結婚しましょう」
わたくしは結婚指輪をくすり指にはめます。
このセンス抜群の指輪を手放したくない気持ちもありました。
パーティルームは大盛り上がりです。
「タマは誓いのキスがみたいにゃん♩」
タマさんがネコマスクをかぶってふざけた要求をしてきます。
かわいいネコちゃんになればおふざけも許されると思ってますね?
「いえ、わたくしたちまだ手も握ってませんし」
「握手会で握ったって言ってたよ?」
タマさんは逃げ道をふさいできます。
「キースキース♩」
タマさんの音頭でみんなはさらに盛り上がっています。
わたくしはトップアイドルとしてみなさまの期待にはすべて応えてきました。
このエンターテイメント体質からは逃れられません。
わたくしはポチに近づいて軽いくちづけをしました。
背丈が同じなのでキスしやすいですわ。
拍手喝采が起こります。
やはり観客の期待に応えるのは快感です。
正真正銘、ファーストキスでした。
いつまで続けるものなのでしょう?
ポチは耳まで真っ赤ですが、わたくしも同じかもしれません。
ぱしゃっと音がしたので振り向くとタマさんが笑顔でカメラを持っていました。
やられましたわ。
わたくしは写真を回収しようとタマさんを追いかけました。
舞台にまでのぼりましたが、ネコは逃げ足が早いので捕まえられませんでしたわ。
その写真が流出してしまい世間が大騒ぎになるのはまた別のお話です。
これにて怪盗キッズの物語はおしまいです。
では、みなさまごきげんよう。
ウサギは自らの体を火の中に投じるほど自己犠牲の精神が強い動物なので主人公も自己犠牲の精神が強いキャラにしました。神様はその尊い行いを後世まで伝えるため、ウサギの姿を月に昇らせ、皆が見えるようにしたとされています。私も月を見るたびに自己犠牲の精神を思い出します。
って言うのはウソです。まず自分の命を優先にすることが大事だと思います。
火に身を投じるうさぎはブッダの前世のひとつの話らしいですね。この話自体は好きです。




