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大爆発

「さて、僕の可愛い、この少年探偵団の皆がね、どうしても、君のことが憎くて許せない、もう一仕事、何かがしたいと、僕に訴えてきたんだ。それで、君を捕まえるに当たって、こんな芝居じみた事をやらせてもらったんだよ。状況を見て、十分に危険がないのを確認した上でね。僕もこの捕り物劇は、実に楽しかったよ。こうして、盗まれた美術品については、全て取り返したし、あとは、君と駆け落ちした不二子嬢だけなのだが、残念ながら、彼女はここには居なかったようだね」アケチが、快活に、喋り続けた。

 だが、その最中、黄金仮面は、突如、立ち上がり、走り出したのであった。と言っても、この部屋の入り口には、アケチが陣取っていたので、そこからは逃げられないのだ。黄金仮面は、部屋の奥の方へ駆け出したのであった。そして、部屋の隅の床にあった、四角いフタに手をかけると、そのフタを持ち上げて、その下にあった空間へと飛び込んでしまったのである。

 アケチも、素早く、そのフタのもとへ駆け寄り、フタの上へと飛び乗った。

「無駄だよ、黄金仮面。この隠し部屋の存在も、当然、僕は知っていた。本当は、抜け穴でも作る予定だったのかも知れないけど、間に合わなかったのだろう?この地下の小さな隠し部屋からは、どこにも逃げられないのは、僕も分かっているよ。まさに、墓穴を掘ってしまったんだね」アケチは、フタの下へと話し掛けた。

 しかし、フタの下の小部屋にいるはずの黄金仮面は、ずっと沈黙しているのだった。

「言うまでもなく、この館を包囲しているのは、僕とこの子供たちだけではない。外では、警官隊だって待機している。もう、君は完全に袋のネズミなんだよ。おとなしく逮捕されたら、どうなんだい。でも、その前に、僕は、もう少し、君と会話をしたいと思っている。それは、君の正体について、語りたいからだ」

 この場は、ちょっとした緊張した空気となった。

「ナミコシ警部から聞いたけど、君は、国立博物館に置いてきた国宝のニセモノにも、一つ一つ、ご丁寧に、A.L のサインを記していたそうだね。この A.L こそが、君の正体だ。実は外国人だった事は、すぐに気付いたよ。L が付く日本人の名前なんて無いからね。こうして、じかに会ってみて、そのタドタドしい喋り方なのを聞いて、さらに、君が外人であると言う確信を持ったよ」

 アケチは、黄金仮面を追い詰めるかのように、淡々と話し続けたのだった。

「君が、自分自身で黄金仮面のウワサを流行らせたのか、あるいは、黄金仮面の都市伝説を知ってから、それに便乗して、黄金仮面に化け出したのかまでは分からない。しかし、君は、まんまと、この黄金仮面を利用して、日本での怪盗デビューを果たした訳だ。君が、常時、黄金仮面の姿で居続けたのも、その外国人の素顔を隠す為だったんだろう?銃規制の厳しい日本で、やたらと気安く銃をぶっ放していた点も、君が、銃規制の緩い国から来た人間だった事を示唆していた」

 アケチはニヤリと微笑んだ。

「さあ、そろそろ、君自身の口から、自分の正体を明かしてもいいんじゃないかな?僕の憶測では、君は、とんでもなく有名な犯罪者だ。これまでの華麗な盗みの手口からも、それが想像できるんだよ。どうだい、君のその偉大な姿を、僕たちにも拝ませてくれないかな。後学の為にも、この少年探偵団の子供たちに、君のその生の勇姿を、ぜひ、見せてあげたいのさ」

「まだ、わたくしは、負けた訳では、ない」

 ようやく、フタの下の地下室から、黄金仮面が言葉を返したのだった。

「負けてないだって?君には、もう逃げ場はないじゃないか」と、アケチ。

「ならば、刺し違えだ」

 黄金仮面のその一言に、アケチはハッとしたのであった。

「アケチくん、君は、間違えたのだ。この部屋は、抜け穴などでは、ない。最初から、わたくしの、最後の切り札だったのだ」

「どう言う事だ、それは?」

「アケチくん。君は、この地下の部屋の、壁も、きちんと、調べたかね?」

 言われてみれば、アケチは、そこまで、この地下部屋の壁までは注意していなかったのである。この部屋の四方は、むき出しの岩肌の状態であり、いかにも、抜け穴を掘っている途中にしか見えなかったからだ。

「わたくしは、この部屋の壁に、大量の爆薬を、埋め込んでおいた。これに、火をつければ、この館は、いっぺんに、粉々になるのだ。君たちも、わたくしの道連れと、なるのだ」

 その言葉を聞くや、アケチは、目を見開き、バッと走り出したのだった。

「みんな、危険だ!早く、この家から逃げ出すんだ!」彼は、コバヤシや探偵団の少年たちへ向かって、叫んだのであった。

 その掛け声で、子供たちも、わあっと走り出した。彼らは、いっせいに、この館の外へ逃げ走ったのである。

 黄金仮面の今のセリフは、もしかすると、ただのハッタリだったのかも知れない。しかし、もし、事実であれば、取り返しのつかない事になるのだ。少なくとも、アケチ探偵としては、未来ある少年たちを、こんな場所で死なせる訳には行かないのである。

 アケチと少年探偵団の一同は、たちまち、館の外へと走り出ていた。そこでは、ナミコシ警部ひきいる警官隊も、館を包囲する形で陣どっていた。

「警部!早く、ここから退いてください!この館は危険です!爆発するかも知れません!」アケチが叫んだ。

「え?どうしたのだね、一体?」と、ナミコシ。

「だから、黄金仮面が自爆しようとしているんです!ここにいる全員を巻き込んで!」

 アケチの話に、ナミコシもびっくりしたのだった。彼らも、慌てて、アケチたちと一緒に、洋館よりも少しでも離れた場所へと避難を始めたのだ。

 彼らは、洋館からだいぶ距離を置いた場所まで退避した。洋館の全景が一目で見えるほど遠くまで、撤退したのである。

 皆は、かたずを飲んで、館の方を見守っていた。だが、なかなか、洋館に変化はなかったのだった。やはり、爆破予告は黄金仮面のハッタリだったのだろうか。

 しかし、そう油断しかけた瞬間、館の方からは、地響きのような、ものすごい鈍い音が聞こえてきたのだった。地面も、心なしか、小さく揺れたようなのだ。

 そして、凄まじい爆音とともに、黄金仮面のアジトの洋館は、本当に爆発したのだった。それは、壮絶な光景であった。かなりの量の火薬が使われたらしく、文字どおり、洋館の表面は破裂して、思いっきり吹っ飛んだのだ。その破片は、火の粉となり、四方に飛び散ったみたいだった。そのあと、恐ろしい炎を天へと吹き上げて、この洋館はごうごうと激しく燃え上がったのである。

 さすがのアケチも、この光景を見ながら、冷や汗をかいていた。もし、黄金仮面の脅しを笑い飛ばして、あの館の中に居続けていたら、今ごろ、ここに居る全員はあの世に行っていたのである。

「盗まれた美術品こそ、あそこから先に回収していたから、無事だったものの、残念だな。これで、黄金仮面に関わる証拠品も、全て、灰になってしまった訳か」ナミコシが呟いた。

「僕たちは死なずに済んだんです。それだけでも良かったと考えましょう」アケチが言った。

「果たして、黄金仮面は本当に死んでしまったのだろうか」

「どうでしょうね?分かりませんよ。あの館が爆発するまでには、けっこうな時間がありました。もし、黄金仮面が時限装置でも用意していたならば、爆発の前に、こっそりと脱出していたかも知れませんよ」

 怖がっている少年探偵団の子供たちを優しく庇いながら、アケチもナミコシも、なんとも気難しい表情を浮かべたのだった。


 アケチの悪い予感は的中していた。

 黄金仮面の怪盗は、やはり、死んではいなかったのだ。彼は、アケチが想像した通りの方法で、爆発する寸前の洋館から脱出し、洋館を包囲していた警官隊の目も巧みにかいくぐって、はるか遠い場所にまで、すでに逃走していたのである。

 今の黄金仮面は、悪の結社・暗黒星の仲間が集うプラネタリウ会場にと顔を出していた。

 ほうほうのていで逃げてきた黄金仮面は、中央の投影機の横に立っているニジュウ面相に向かって、激しく、文句を申し立てていたのだった。

「あの、アケチコゴロウ、という探偵は、何者なのだ。あいつのせいで、わたくしの野望は、ことごとく、阻止されてしまった。あんな奴が、日本にいたとは、わたくしは、聞いていなかったぞ」黄金仮面は訴えた。

「まあまあ、黄金仮面くん。落ち着いてください」ニジュウ面相は、冷ややかに言葉を返した。

「あなたは、あいつを、知っていたのか?なぜ、詳しく、わたくしに、教えてくれなかった?」

「黄金仮面くん。私たちの忠告も聞こうとせず、勝手に一人で計画を押し進めてしまったのは、君の方じゃありませんか。君こそ、もっと小まめに、私たちと連絡を取り合うべきだったのです。そうすれば、少なくても、そこまでブザマな敗北もしなかったでしょう」

 ニジュウ面相にたしなめられて、黄金仮面はちょっと黙り込んだのだった。

「いいですか。ここに集っている悪党たちは、いずれも、あのアケチくんにヒドい目にあった者ばかりなのです。彼に勝てなかったのは、君だけじゃないのですから、そこまで恥じる必要はありません」ニジュウ面相は言った。

「そうは言っても、あの探偵がいたら、わたくしの仕事は、いっこうに、進められない。ニジュウ面相よ、あなたの方で、あの探偵を、どうにか、出来ないのか?」

「ふむ、そうですね。分かりました。君の要望、考えておきしましょう。それに、私も、君をこれほどまでに苦しめた少年探偵団とやらに、少し興味が湧いてきました」ニジュウ面相は、そう告げて、怪しい笑みを浮かべたのだった。「それでは、皆さん、次の議題について、話し合いたいと思います」

  <解説>

ここまで(黄金仮面あらわるの章)は、原作小説からは、

「黄金仮面」「怪人二十面相」「少年探偵団」をベースに用いて、

ところどころの小ネタとして、

「奇面城の秘密」「湖畔亭事件」などを使用しました。

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