怪しいロボット
大トーキョー・シティのセタガヤ区に住んでいる小学六年生の天野勇一くんは、地域の少年野球チームにと所属していました。
今日も、その野球チームであるキリン・チームの対抗試合があって、ライバルのカンガルー・チームを相手に奮闘して、大活躍してきたばかりだったのです。試合は、18対15の接戦で、かろうじて、天野くんのチームの僅差の勝利で終わったのでした。
そして、夕方に試合が終了した後、子供の選手たちはそのまま解散となったのです。選手の皆は散り散りになって、自分の家へと帰って行ったのでした。
天野くんも、最初は、同じ方角に帰る数人の友達といっしょに歩いていたのですが、一人二人と別れていき、しまいには、天野くん一人になってしまったのです。
それでも、天野くんの家まではあと少しでしたし、天野くんは心細くなんかありませんでした。彼は、野球のユニフォームを着たまま、口笛など吹きながら、のん気に一人で歩き続けていたのです。
天野くんは、八幡さまのお社のそばを通りかかりました。ここは、彼の家までの道のりの中では、他の通行人とすれ違う事もほとんど無くて、もっとも淋しい場所なのです。今日だって、この広い道には、まるで人影もなかったのでした。
いや、このヒッソリとした道を、向こうの方から、何かがヒョコヒョコ歩いてくるのを、天野くんは、ふと見つけました。
よおく目を凝らして見てみますと、その何かとは、ロボットなのです。人間の大きさのロボットなのでした。そのロボットが、ヨロヨロとした足取りで、天野くんの方へ近づいてくるのです。
だとしても、それは、なんて古くさい形をしたロボットだったのでしょう。四角い体の各部があからさまに角ばっていて、体色だって、どす黒い鉄の色のままなのです。目はまあるい電球だし、手の先は大きなハサミになっていました。とても今の時代のロボットには見えません。天野くんだって昔のマンガや少年雑誌でしか目にした事のない、昭和の頃のロボットのデザインにそっくりなのです。
そんな滑稽なロボットが、とうとう、天野くんの目の前にまで、歩いて、やって来てしまいました。
最初は、これって本当の機械のロボットなのだろうか、と思った天野くんでしたが、こうして近くで観察してみますと、どうやら、これは中に人間の入った着ぐるみのロボットだったらしい事が、彼にも分かってきたのでした。
このロボットが、何やら、紙の束を抱えていました。恐らくは、このロボットは、何かの宣伝をしているチラシ配りの人間だったのです。
ロボットは、ハサミの手を上手に使って、天野くんの方へも、一枚のチラシをバッと差し出しました。天野くんも、その紙を何となく受け取ってしまったのです。
すると、このニセのロボットは、天野くんの前を通り過ぎる事もなく、クルリと半回転すると、そのまま、今来た道を戻っていってしまったのでした。
やっぱり、どこか、とても奇妙なロボットなのです。チラシ配りの宣伝マンだったとしても、なぜ、こんな人気のない場所でチラシを配っていたのでしょうか。天野くん一人にだけチラシを渡したのでは、あまりにも効率が悪すぎるのです。
天野くんは、何となく、貰ったばかりのチラシにも目を向けてみました。
すると、このチラシの紙がまた、何とも、変てこりんなものだったのです。そのチラシには、大きく矢印しか書かれていなかったのでした。上の方に三角の先が向いた矢印なのです。
これを見て、ますます不思議に思った天野くんは、ハッとして、例のロボットが今は何をしているのかを確認する事にしたのでした。
天野くんが、道の前の方にと視線を移すと、ロボットは、まだ少し先の場所の路上にいました。なぜだか、そのロボットは、その場所で立ち止まっているのです。
この場所の一方の道沿いには、それほど高くはない塀がずうっと伸びていました。でも、高くはないとは言っても、普通の人が乗り越えるのには厳しいぐらいの高さはあるのです。その塀の方を、ロボットは、ピタリと停止して、じっと見上げていたのでした。
天野くんの方も、そんなロボットの様子を、ひそかに伺い続けていました。ロボットの方は、こんな風に天野くんに見られていても、まるで気にしていないような様子なのです。
やがて、このロボットは、にわかに行動を始めたのでした。こいつは、ヨタヨタと歩いて、目の前の塀へと寄りかかりました。よく分からないけど、塀へと自分の体を押し当てたのです。
それから、いきなり、とても奇妙な事が起きました。
塀にくっついていたロボットが、その状態のままで、すうっと浮かび上がったのです。つまり、空を飛んだのでした。ロボットが手足を動かしていなかった以上は、塀をよじのぼっていたのではありません。だとすれば、それは、やっぱり、飛行したと言うしかないのです。
そんな不思議な光景が、天野くんの目の前では広がっていたのでした。
やはり、このロボットは、なんとも怪しいロボットだったようなのです。




