第八話 猫夜叉、舞う!
一方その頃、ショーナと猫夜叉のミーナは山の上のマイホムの館を目指していた。
ロープでぐるぐるに縛ったサヨアも一緒だ。
「おいサヨア!本当に罠とかは無いんだろうな!」
「ありません、ありません!だから許して!」
元部下のサヨアを多節混で叩きながら歩くミーナ。
そのたびに変な声を上げるサヨア。
メノウが館に運ばれたという事実をサヨアからきいている。
今から館に乗り込み、彼女を助けるという訳だ。
「本当にメノウはあの館にいるんだな?」
「は、はいぃぃぃ」
「嘘ついてたら許さないからな!」
ミーナが叫ぶ。
多節混の先端でサヨアを突きながら。
その様子を見たショーナは…
「(最初はこの二人が仲間割れした『演技』でもしてるかとも思ったが…)」
ミーナとサヨアが結託し、ショーナの信用を得る。
最初はそのような作戦かとも疑ってはいた。
しかし、どうやら今の二人を見る限りそれは違うようだ。
二人が結託しているにしては、ミーナのサヨアに対する扱いが酷すぎる。
それに、一歩間違えばミーナ自身も大怪我を負うほどの作戦を決行するとも思えない。
「(少なくとも、このミーナって姉ちゃんは信用できるな…)」
アゲートに乗りながらショーナはミーナの方を見る。
以前からメノウに教わってきたおかげで、彼も馬の扱いがかなりうまくなってきた。
「も、もうすぐです!もうすぐで館です!」
サヨアが叫んだ。
いつの間にか、館の近くまで来ていたのだ。
近くには湖がある、小高い山の上にそびえる洋館。
「そうか、ここからならアタシでもわかるよ。ありがとう」
そういうと、ミーナはサヨアの縄を解いた。
「油断したなパーカ!このままマイホム様に言いつけてやるからね!」
そういうと、サヨアはとても重傷者とは思えぬ動きでその場を去ろうとする。
だが…
「うるせぇ!落ちろ!」
ミーナが思い切り多節混でサヨアを殴り飛ばした。
勢いよく吹き飛ばされ、館の下の湖に落ちていった。
数秒後に恨みの声と水音が聞こえた。
「(あのサヨアってやつも意外と丈夫だなぁ…)」
改めてマイホムの館へと目をやる二人。
囚われのメノウを救う。
今まで彼女に頼りきりだったショーナが、逆に彼女を救おうとしていた。
「行こう、メノウを助けに」
「へっ、お姫さまを助ける騎士気取りか?」
「うるせー!」
そう言いながら、マイホムの館へと乗り込んだショーナと猫夜叉のミーナ。
基地ではないため、衛兵もほとんどいない。
数人が襲い掛かってきたが、全て返り討ちにした。
「こいつら、アタシだとわかってて攻撃してきやがった…」
「やっぱり屋敷内は全部あんたの敵ってわけか」
襲ってきた衛兵の持ち物を物色しながらショーナが言った。
以前から手に入れた剣だけではこの先不安だ。
衛兵の持っていたショートソードと小型のナイフを回収しておいた。
倒れた衛兵の付けていたレザーグローブもついでに回収する。
「ついでにこのグローブももらっていくぜ」
「おい、早くいくぞ!」
「あ、ちょッ…待てよ!」
そう言いながら先に進む二人。
広い屋敷ではあるが、この程度の広さなら少し時間をかければしらみつぶしに探せるだろう。
また、屋敷の外に置かれていた馬車や車はあらかじめ破壊しておいた。
これでマイホムがメノウを連れて逃げることもないだろう。
「アイツの愛用の馬車は置いてあったからな、必ずこの館にいるはずだ」
辺りのドアを片っ端から開けていく二人。
鍵のかかっているドアは破壊していった。
その途中、ショーナは前からずっと気になっていたことをミーナに尋ねた。
「なぁ、質問あるんだけど…」
「ん?なんだい?」
「なんでアンタは南ザリィーム四重臣なんてやってたんだ?」
ミーナは今まで出会ったザリィーム側の人間とはどこか違う感じのする人間だ。
少なくとも、権力を振りかざし弱者を虐げるようなタイプではない。
どちらかと言えば、力を磨く武人に近いだろう。
「アタシか?『軍閥長』直々にスカウトされたんだよ」
『軍閥長』…
この南ザリィームを治める、ザリィーム帝国直属の者だ。
だが、ショーナはまだこの南ザリィームに来て日が浅い。
南ザリィームの軍閥長がどのような存在で、誰なのかはあまり知らなかった。
「まぁ、時間があるときにまた話すよ。それよりも今は捜索が先だ!」
やがて、二人は食堂と思われる部屋にやってきた。
食堂には趣味の悪い料理が所狭しと並べられている。
それを無視し、ミーナとショーナは辺りを見回す。
「ついさっきまで食事してたみたいだな…」
そんな中、ミーナは置かれていた椅子に注目した。
置かれている椅子は二つ、大きなテーブルに二つということは食事をしていたのは二人。
一人はマイホム。
そしてもう一人は…?
「(この椅子、少し小さいな…)」
片方の椅子は少し小さめの椅子だった。
ミーナが考えている一方、ショーナは…
「たくさんあるな。一つくらい…」
そう言いながら、テーブルの上に載っていた料理を一つ手に取る。
昨日は結局なにも食べていなかった。
少しくらいはいいだろう。
そう考えていたショーナ。
しかし…
「まて、食うな!」
「え?」
「たぶんここで食事をしてたのはマイホムとメノウだ…」
小さい椅子の方にメノウは座っていた。
そして、ここでマイホムに薬か何かを盛られた。
ミーナはそう言った。
「アタシの推測だけどな」
「いや、案外当たってるかもしれないぜ…」
「とにかく、メノウはここにいたんだと思う。捜索を続けよう」
「ああ」
そう言って食堂を出ようとする二人。
だが、その時ミーナは食堂の扉の外から僅かな殺気を感じた。
だが、そのことにショーナは気付いていないようだ。
小声でミーナが話しかけた。
「ショーナ…」
「なんだよ?」
「少し離れてろ!」
そう叫ぶと、ミーナは多節混でドアをぶち破った。
その勢いのままに食堂の外にいた人物に棒形態の多節混で攻撃を仕掛ける。
だが攻撃を受けた人物はそれを間一髪で避けた。
ミーナにはその人物に見覚えがあった。
それはサヨアやマイホムと同じく、元は彼女の部下だった男。
「隊長のロビノか…」
「手負いのお前なら俺でも勝てると思ってな、それに上からの命令だ」
そこにいたのは、C基地の戦士『ロビノ』。
軽量の鎧を装着し、右手にサーベルを持ったロビノ。
ミーナが左腕を負傷していると知ると、即座に左側に回り込んだ。
一瞬反応が遅れるミーナ。
「爆発のダメージが結構大きかったみたいだな、ミーナ元司令官!」
「このくらいハンデにもならないよ…っと!」
そう言うと、ミーナは片手で棒形態の多節混を持ち、ロビノに向け一直線に突っ込む。
ここから多節混を展開し、一気に勝負をつける。
それが彼女の必勝パターンだ。
だが、そのことはロビノも知っていた。
彼は以前、演習試合の際にミーナは同じ戦術を何回か使用しているのを見たことがある。
「(いくら強くともしょせんガキ…戦術など無いに等しい…か)」
多節混の弱点は『超至近距離には攻撃不可能』という点にある。
広い範囲を攻撃できる多節混だが、懐まで踏み込まれると僅かに隙が生まれる。
ギリギリの接近戦には対応ができないのだ。
もっとも、普通はそこまでの接近を許すことは無い。
だが、今のミーナは手負いだ。
「この勝負、もらった!」
サーベルを構え、ミーナへ突進するロビノ。
ミーナはいつもの戦術で攻撃を仕掛けてくる、ロビノはそう読んだ。
だが、その一瞬の判断が命取りとなった。
多節混をミーナは展開せず、棒形態のままロビノに攻撃を仕掛けた。
リーチではサーベルよりも棒形態の多節混の方が圧倒的に上。
頭から多節混の打撃を喰らい、その場に倒れた。
「あッ…ぐ…」
「自分の戦術の弱点くらい理解してるよバーカ」
「ガキだと思って甘く…見た…か…」
起き上がろうとしても体に力が入らない。
頭部の兜により、ある程度の攻撃は防げるがこのミーナの一撃は重かった。
兜が完全に砕かれてしまい、そのまま頭部に攻撃を喰らったロビノ。
「おっと、まだ倒れるな。いろいろ聞きたいことがあるからな」
「あ、ああ…なんだ…?」
「メノウのことやその他いろいろだ」
そういうと、倒れているロビノの胸元を掴み問い詰めるミーナ。
まずメノウはどこにいるかということだ。
ロビノが言うには、先ほどまでは地下室にいたが今はどこにいるかわからないという。
「マイホム副司令官は戦いは苦手だからな…」
「まぁね、知ってるよ」
「女の子の方は知らんが…マイホム副司令官なら自室に…」
「アイツの部屋?」
「そ、そうだ」
それを聞き、ロビノの胸元を放す。
だが、ここまで聞いたところで一つミーナには気になることがあった。
何故ここまで彼は詳しく話したのか。
少なくとも今の話には嘘が含まれているとも思えない。
「一応、戦士としてのアンタは…尊敬してるからさ…」
「そうかよ、ありがとな」
それだけ聞くと、ミーナはショーナを連れマイホムの自室へと向かった。
メノウがそこにいる。
そう確信して。
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