第六話 悪夢に刺す光
あれからどれだけの時間が経ったかわからない。
爆発に飲まれ、行方知らずとなったメノウ。
だが、今そのメノウがショーナの下へ戻ってきた。
たき火の前で待ち続けていたショーナがメノウの元へ駆け寄った。
「メノウ!無事だったんだな!よかったぜ!」
「あぁ、大丈夫じゃったよ」
満面の笑みを浮かべながら抱きつく二人。
そしてメノウは自身の纏っていた白いローブなどを脱ぎ捨てた。
彼女の素肌が露わになる。
「お、おいメノウ!?」
「んふふふ~」
たき火の揺らぎ続ける明かりのためか、どうも彼女の顔かはっきりとは見えなかった。
…不思議な違和感を感じるショーナ。
「何だ…この感じ…」
「ショーナァ…ワシの身体、ボロボロになってしまってのぉ…」
ローブの下から現れたメノウの素肌は、爆風によって焼け爛れていた。
顔の半分も焼け、右半分はもはや顔と呼べるような状態ではなかった。
右腕の神経が機能を無くしたのか、だらりとぶら下がっている。
さらに、指も数本が消失していた…
「な、なんで…!さ、さっきまでは…そんなんじゃ…」
「なんであの時、ワシを助けなかったんじゃ…」
「探した!俺は探したんだ!でも…」
「でも…?なんじゃぁ…?」
ショーナに覆いかぶさり、顔を近づけるメノウ。
焼け爛れた醜い顔に、思わず目を逸らす。
「誰のせいでこうなったと思っている…」
「ご、ごめ…でも探した…俺は…」
「何故お前はワシを助けなかった!」
メノウが右腕で殴り掛かろうとする。
だが、腕としての機能を失ったソレはただの肉塊。
殴り掛かることすらできなかった。
「メノウ…お、俺…ご…」
「謝ってももう何もかも遅いわ…」
メノウがショーナを突き飛ばす。
いつの間にかたき火の火が消え、辺りは暗闇になっていた。
今、この場にいるショーナ以外の生物たちの気配は一切無かった。
「ご、ごめ…」
尻もちを突きながら、地面を後ずさりするショーナ。
幾らか下がったところで、ショーナは何かにぶつかった。
木か何かだろうか?
いや、違う。
ショーナは恐る恐る、後ろを振り返った。
「よぉ、クソガキが…」
そこに立っていたのは、かつてメノウに倒された四重臣の一人ブルーシムだった。
全身が黒く焼け爛れ、かつての隆々としていた筋肉は失われていたが…
メノウほどでは無いにしろ、非常に痛々しい姿となっていた。
「そやつが…いや、他にも何人かお前に言いたいことがあるヤツがいるらしくてのぉ…」
そう言うメノウの横には、二人の男が立っていた。
以前、遺跡の森の近くで遭遇した賊、そしてブルーシムの配下のD基地の隊長の男だ。
「俺の馬を奪いやがって…おかげで家業は廃業…どうしてくれるんだぁ…」
「俺はお前のせいで何もかも失ったんだ…お前さえ現れなければ…」
血の気を失った顔でショーナに詰め寄る二人。
そして…
「アタシも…アンタさえ来なければ…」
メノウと共に爆発に巻き込まれた四重臣の一人、『猫夜叉のミーナ』。
あの時、メノウと同じく爆発を受けたのか身体は凄惨な状態になっていた。
武器として使っていた棒を杖代わりにし、もはや辛うじて人間の体の状態を保っている状態だ。
ミーナも血の気の引いた顔で馬賊、隊長、ブルーシムと共にショーナに詰め寄る。
「お前、かなり怨まれとるのぉ…酷い奴じゃ…」
ミーナ、ブルーシム、D基地の隊長、馬賊、そしてメノウ。
それぞれがショーナに対し怨念の言葉を吐き続ける。
「アンタさえ来なければ…」
「ガキが…」
「返せ、すべて…」
「俺の馬ぁ…家業…返せ…」
それを聞き。その場に蹲るショーナ。
それを見たメノウが最後に言い捨てた。
「お前は最低の屑じゃ」
メノウの言葉がショーナの言葉に刺さる。
「(メ、メノウ…)」
だがその時、ショーナはあることに気が付いた。
「(ま、まて…そういえば…アゲートはどこだ?)」
基本的にショーナ達が野宿をする際、アゲートの手綱は近くに結んでおく。
木や破棄された電柱、看板、標識などにだ。
今日も同じように手綱を木に結んであった。
今まではメノウたちに気を取られて気が付かなかったが、そのアゲートがいない。
「(奴らが逃がした…いや…違う…)」
何かが違う。
決定的な何かが。
ショーナはあることを確信した。
そして、蹲るのを止め立ち上がる。
その眼は今までの死んだ魚のような眼から、生きた人間の眼へと変わっていた。
「ほぉ~、お前は…」
「黙れ!」
そのショーナの叫び声が辺りに響き渡る。
それを聞き後ずさりするブルーシム達。
「メノウ。いや、『お前』!」
「ワシかぁ?」
メノウが自身を指さす。
顔の半分が失われてはいるが、その顔は邪悪な笑みを浮かべていた。
いつものメノウからは想像できないほど邪悪な笑みを…
「お前は…誰だ?」
「何を言い出すかと思ったら。ワシはメノウ…」
「違う!」
はっきりと、それでいて堂々としたすっきりした口調で叫ぶ。
ショーナにはある『確信』があった。
それは…
「メノウは…本物のメノウは…
一度も俺のことを『お前』などと呼んだことは無い!」
その言葉と共に、ショーナの周囲の空間に亀裂が走る。
亀裂の間から差し込む光が『メノウ』や『ブルーシム』、『ミーナ』達だった『モノ』に降り注ぐ。
呻き声をあげながら消滅する『モノ』達。
そして…
「早く来い!戻れなくなるぞ!」
その声と共に、その空間にさらに大きな一筋の裂け目が現れた。
「メノウ…いや、この声は…!?」
やがて周囲が光に包まれていく。
電気の光などでは無い、太陽の光だ。
あまりの眩しさに眼を閉じるショーナ。
やがてその輝きが収まった時、その場にいたのは…
「良かった、気が付いたみたいだな」
「お前は…猫夜叉のミーナ!」
昇る朝日を背にして立っていた少女、南ザリィーム四重臣のミーナ。
先ほどショーナの前に現れた『モノ』達とは違い、その姿は以前のままだ。
ただし、背中は爆風を受け火傷を負い、片腕を負傷している。
そしてその横には、黒尽くめの服を着た気絶した中年の女がいた。
「お前はコイツの妖術にかかっていたんだ」
「こ、こいつは…?」
「『幻術師のサヨア』、アタシの部下だった女だよ」
「アンタの部下…どういうことだよ」
ショーナの問いにミーナが答える形で語りだした。
まだミーナは十四歳、C基地を治めるには実力があるとはいえ幼すぎる年齢だ。
それに反感を持ったC基地の者たちがC基地の副司令官の指示の元、ミーナの抹殺を企んだのだ。
…メノウ抹殺作戦中の事故に見せかけて。
「全部このサヨアから聞き出したんだ。さすがのアタシも少しショックだよ…」
「軍も結構大変なんだな…」
「こうなったら、C基地に乗り込んでアイツら全員に目にモノ見せてやる」
そう言いながら、サヨアを少し遠くへ投げ飛ばすミーナ。
殺してこそいないが、骨を複数箇所おられている。
サヨアはしばらくは再起不能だろう。
「…ミーナ、メノウは!メノウはどこにいるんだ!?」
「メノウか…」
「アンタが無事ならメノウも、メノウもきっと無事なはず…」
メノウよりも至近距離で爆発を受けたミーナが無事だったのだ。
それならばきっとメノウも無事なはずだ。
それを聞き、ミーナは頷いた。
サヨアからメノウに関する情報も聞き出していたのだ。
爆破された橋の向こうの、小高い山の上にある洋館を指さすミーナ。
「あの洋館はC基地の副司令官、『マイホム』の館。あの館にメノウは運ばれていったんだ」
「あの館に…メノウが…」
暗い夜は去り、太陽と共に朝が来た。
メノウを救い出すためショーナ闘いが、そしてミーナの復讐劇が始まろうとしていた。
「…まさかこれも幻術じゃねぇよな?」
それを聞いたミーナは多節混でショーナを殴り飛ばした。
木に叩きつけられるショーナ。
その衝撃で、木に結ばれていたアゲートが目を覚ました。
アゲートがショーナに息を吹きかける。
「へへへ…幻術でも、夢でもないか…」
ショーナは一人、満面の笑みを浮かべた。
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