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最高級の最下級少女  作者: 剣竜
第一章 不思議の少女 メノウ
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第六話 悪夢に刺す光

 あれからどれだけの時間が経ったかわからない。

 爆発に飲まれ、行方知らずとなったメノウ。

 だが、今そのメノウがショーナの下へ戻ってきた。

 たき火の前で待ち続けていたショーナがメノウの元へ駆け寄った。


「メノウ!無事だったんだな!よかったぜ!」


「あぁ、大丈夫じゃったよ」


 満面の笑みを浮かべながら抱きつく二人。

 そしてメノウは自身の纏っていた白いローブなどを脱ぎ捨てた。

 彼女の素肌が露わになる。


「お、おいメノウ!?」


「んふふふ~」


 たき火の揺らぎ続ける明かりのためか、どうも彼女の顔かはっきりとは見えなかった。

 …不思議な違和感を感じるショーナ。


「何だ…この感じ…」


「ショーナァ…ワシの身体、ボロボロになってしまってのぉ…」


 ローブの下から現れたメノウの素肌は、爆風によって焼け爛れていた。

 顔の半分も焼け、右半分はもはや顔と呼べるような状態ではなかった。

 右腕の神経が機能を無くしたのか、だらりとぶら下がっている。

 さらに、指も数本が消失していた…


「な、なんで…!さ、さっきまでは…そんなんじゃ…」


「なんであの時、ワシを助けなかったんじゃ…」


「探した!俺は探したんだ!でも…」


「でも…?なんじゃぁ…?」


 ショーナに覆いかぶさり、顔を近づけるメノウ。

 焼け爛れた醜い顔に、思わず目を逸らす。


「誰のせいでこうなったと思っている…」


「ご、ごめ…でも探した…俺は…」


「何故お前はワシを助けなかった!」


 メノウが右腕で殴り掛かろうとする。

 だが、腕としての機能を失ったソレはただの肉塊。

 殴り掛かることすらできなかった。


「メノウ…お、俺…ご…」


「謝ってももう何もかも遅いわ…」


 メノウがショーナを突き飛ばす。

 いつの間にかたき火の火が消え、辺りは暗闇になっていた。

 今、この場にいるショーナ以外の生物たちの気配は一切無かった。


「ご、ごめ…」


 尻もちを突きながら、地面を後ずさりするショーナ。

 幾らか下がったところで、ショーナは何かにぶつかった。

 木か何かだろうか?

 いや、違う。

 ショーナは恐る恐る、後ろを振り返った。


「よぉ、クソガキが…」


 そこに立っていたのは、かつてメノウに倒された四重臣の一人ブルーシムだった。

 全身が黒く焼け爛れ、かつての隆々としていた筋肉は失われていたが…

 メノウほどでは無いにしろ、非常に痛々しい姿となっていた。


「そやつが…いや、他にも何人かお前に言いたいことがあるヤツがいるらしくてのぉ…」


 そう言うメノウの横には、二人の男が立っていた。

 以前、遺跡の森の近くで遭遇した賊、そしてブルーシムの配下のD基地の隊長の男だ。


「俺の馬を奪いやがって…おかげで家業は廃業…どうしてくれるんだぁ…」


「俺はお前のせいで何もかも失ったんだ…お前さえ現れなければ…」


 血の気を失った顔でショーナに詰め寄る二人。

 そして…


「アタシも…アンタさえ来なければ…」


 メノウと共に爆発に巻き込まれた四重臣の一人、『猫夜叉のミーナ』。

 あの時、メノウと同じく爆発を受けたのか身体は凄惨な状態になっていた。

 武器として使っていた棒を杖代わりにし、もはや辛うじて人間の体の状態を保っている状態だ。

 ミーナも血の気の引いた顔で馬賊、隊長、ブルーシムと共にショーナに詰め寄る。


「お前、かなり怨まれとるのぉ…酷い奴じゃ…」


 ミーナ、ブルーシム、D基地の隊長、馬賊、そしてメノウ。

 それぞれがショーナに対し怨念の言葉を吐き続ける。


「アンタさえ来なければ…」


「ガキが…」


「返せ、すべて…」


「俺の馬ぁ…家業…返せ…」


 それを聞き。その場に蹲るショーナ。

 それを見たメノウが最後に言い捨てた。


「お前は最低の屑じゃ」


 メノウの言葉がショーナの言葉に刺さる。


「(メ、メノウ…)」


 だがその時、ショーナはあることに気が付いた。


「(ま、まて…そういえば…アゲートはどこだ?)」


 基本的にショーナ達が野宿をする際、アゲートの手綱は近くに結んでおく。

 木や破棄された電柱、看板、標識などにだ。

 今日も同じように手綱を木に結んであった。

 今まではメノウたちに気を取られて気が付かなかったが、そのアゲートがいない。


「(奴らが逃がした…いや…違う…)」


 何かが違う。

 決定的な何かが。

 ショーナはあることを確信した。

 そして、蹲るのを止め立ち上がる。

 その眼は今までの死んだ魚のような眼から、生きた人間の眼へと変わっていた。


「ほぉ~、お前は…」


「黙れ!」


 そのショーナの叫び声が辺りに響き渡る。

 それを聞き後ずさりするブルーシム達。


「メノウ。いや、『お前』!」


「ワシかぁ?」


 メノウが自身を指さす。

 顔の半分が失われてはいるが、その顔は邪悪な笑みを浮かべていた。

 いつものメノウからは想像できないほど邪悪な笑みを…


「お前は…誰だ?」


「何を言い出すかと思ったら。ワシはメノウ…」


「違う!」


 はっきりと、それでいて堂々としたすっきりした口調で叫ぶ。

 ショーナにはある『確信』があった。

 それは…


「メノウは…本物のメノウは…

 一度も俺のことを『お前』などと呼んだことは無い!」


 その言葉と共に、ショーナの周囲の空間に亀裂が走る。

 亀裂の間から差し込む光が『メノウ』や『ブルーシム』、『ミーナ』達だった『モノ』に降り注ぐ。

 呻き声をあげながら消滅する『モノ』達。

 そして…


「早く来い!戻れなくなるぞ!」


 その声と共に、その空間にさらに大きな一筋の裂け目が現れた。


「メノウ…いや、この声は…!?」


 やがて周囲が光に包まれていく。

 電気の光などでは無い、太陽の光だ。

 あまりの眩しさに眼を閉じるショーナ。

 やがてその輝きが収まった時、その場にいたのは…


「良かった、気が付いたみたいだな」


「お前は…猫夜叉のミーナ!」


 昇る朝日を背にして立っていた少女、南ザリィーム四重臣のミーナ。

 先ほどショーナの前に現れた『モノ』達とは違い、その姿は以前のままだ。

 ただし、背中は爆風を受け火傷を負い、片腕を負傷している。

 そしてその横には、黒尽くめの服を着た気絶した中年の女がいた。


「お前はコイツの妖術にかかっていたんだ」


「こ、こいつは…?」


「『幻術師のサヨア』、アタシの部下だった女だよ」


「アンタの部下…どういうことだよ」


 ショーナの問いにミーナが答える形で語りだした。

 まだミーナは十四歳、C基地を治めるには実力があるとはいえ幼すぎる年齢だ。

 それに反感を持ったC基地の者たちがC基地の副司令官の指示の元、ミーナの抹殺を企んだのだ。

 …メノウ抹殺作戦中の事故に見せかけて。


「全部このサヨアから聞き出したんだ。さすがのアタシも少しショックだよ…」


「軍も結構大変なんだな…」


「こうなったら、C基地に乗り込んでアイツら全員に目にモノ見せてやる」


 そう言いながら、サヨアを少し遠くへ投げ飛ばすミーナ。

 殺してこそいないが、骨を複数箇所おられている。

 サヨアはしばらくは再起不能だろう。


「…ミーナ、メノウは!メノウはどこにいるんだ!?」


「メノウか…」


「アンタが無事ならメノウも、メノウもきっと無事なはず…」


 メノウよりも至近距離で爆発を受けたミーナが無事だったのだ。

 それならばきっとメノウも無事なはずだ。

 それを聞き、ミーナは頷いた。

 サヨアからメノウに関する情報も聞き出していたのだ。

 爆破された橋の向こうの、小高い山の上にある洋館を指さすミーナ。


「あの洋館はC基地の副司令官、『マイホム』の館。あの館にメノウは運ばれていったんだ」


「あの館に…メノウが…」


 暗い夜は去り、太陽と共に朝が来た。

 メノウを救い出すためショーナ闘いが、そしてミーナの復讐劇が始まろうとしていた。


「…まさかこれも幻術じゃねぇよな?」


 それを聞いたミーナは多節混でショーナを殴り飛ばした。

 木に叩きつけられるショーナ。

 その衝撃で、木に結ばれていたアゲートが目を覚ました。

 アゲートがショーナに息を吹きかける。


「へへへ…幻術でも、夢でもないか…」


 ショーナは一人、満面の笑みを浮かべた。


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