挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

ブックマークする場合はログインしてください。
<R15> 15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕 が含まれています。

黒猫お嬢様とネズミ執事シリーズ

黒猫お嬢様とネズミ執事3ー晴れと雨ー

作者:黒杉くろん
ある時、猫の王国では何日も何日も雨が降りました。
雨が嫌いな猫はウンザリしています。
機嫌が悪くて、クッションに寝そべってはダラダラと。
王族血筋の美しい黒猫お嬢様も同じ状態でした。

朝、お嬢様がベッドで目覚めます。
最近は寝すぎていて身体がダルいので、もそもそと動きました。

「おはようございます。リーゼルダお嬢様」

「セルネリアン」

お嬢様が手を伸ばしたので、専属執事が屈みます。
首筋に顔を近づけると、ちゅう! とキスマークを付けました。
毎朝の日課です。執事も同じ仕草を返します。この二人、主人と使用人という間柄ながら婚約者でもあるので。
黒猫お嬢様が17歳になれば、結婚式が行われます。
式典がその日と決まっているだけなので、今、猫の夫婦のように触れ合っていてもまるで問題はありません。

猫とネズミ、という点が問題、というか面白い点ではありますが。

「猫人様の触れ合い方にはずっと慣れません……」

執事が小さな声で溢します。
お嬢様はクスクスと。

「だってあなた、ネズミだものね」

ほんのりと赤みを増したネズミの耳をつつきます。

「いいじゃない。ずっと面白く感じていられるでしょう?」

ぺろり! お嬢様は執事の耳を毛づくろいしました。
執事は満足そうに頷きました。


お嬢様が着替えます。今日のドレスは締め付けがないゆったりワンピース。執事が着付けました。

「どうせ雨だもの」

拗ねたように窓際で頬杖をつきます。
外に出かけるためのおめかしをする気にもならない、と言いたいのでしょう。

空を眺めると灰色の雲がひしめき合っていて、ため息。

「あの雲の色、ネズミのようだわ。私のネズミは太陽のようなのに。ああ、いやだ」

あの雲がすべて太陽に変わってくれないかしら? と、お嬢様が夢のような文句を言います。
地面が干からびてしまいますよ、と言いながらも、執事の心は(お嬢様の太陽が複数あるだなんて冗談じゃない)と嫉妬しています。

お嬢様がくるりと回って、執事の匂いを嗅ぎました。
くんくん。
そして猫耳をピンと立てて、まんまるの瞳で見上げます。

「あなた、太陽の匂いがしないわ」

「!?!?!?!?」

大変なことでした。
お嬢様は執事の太陽の匂いがお気に入りなのです。
ずっと雨続きで日向ぼっこができなかったので、太陽の匂いが薄くなってしまったのでしょう。

「今すぐ天気を晴れにして参ります」

「なぁに、それ! どうやるの!?」

つかつかと歩き出した執事の後ろを、お嬢様が追いかけます。
いつもとは逆の順番。
執事の揺れるネズミ尻尾を見続けたお嬢様は、ぺろりと舌舐めずりしました。
猫の本能です。


執事が訪れたのはクリーニングルーム。
たくさんのかけ布シーツや毛布が集められています。
お城中の汚れ物がここに集められて、使用人によって清潔に洗われるのでした。

「お疲れさまです」

「雨なのでなかなか洗濯物が乾かなくて……」

執事は仲間の使用人に挨拶をしながら、つかつか前に進みます。
執事の後ろにいる黒猫お嬢様に気付いたネズミたちは、ぎょっとしました。
ここは下々の使用人が雑用をする場所で、とても高貴な猫が潜り込む場所ではありませんので。

「ねぇ、ねぇ、セルネ」

親しげに愛称を呼んで執事と手を繋ぐお嬢様を見て、ネズミが感嘆の息を吐きます。
本当に、この二人は夫婦なのだと理解しました。
ネズミの待遇が良くなったことを感謝して、そっと頭を下げます。
お嬢様は首を傾げて、ひたすら自分の執事を追いかけました。

執事はハンカチを手に取り、選別します。
小さめで薄い布が欲しいのです。
それから、まだほぐしていないまんまるの綿花も。

「材料が揃いました」

「やっと答えが聞けるのね! 何をするの?」

「晴れを誘うネズミのおまじないです」

お嬢様が見たことも聞いたこともないお遊びなのでしょう。
執事の故郷の風習は、時にお嬢様を大変楽しませてくれるのでした。

「綿花に布を被せます」

「にゃあ!」

「綿花を転がして遊ばないで下さい・・・ませ。どうか。私は真剣なのです」

「にゃあぁ……」

様子を見守っていたネズミたちは震えあがりました。あんなに強く猫を注意するだなんて!
しかもお嬢様はしょんぼりと遊ぶのをやめました。なんということでしょう。

お嬢様はスリスリと執事にすり寄り、じーーっと手元を見つめます。二人は夫婦なのです。
ネズミたちは納得しました。

お嬢様につけられた首輪は執事が手を加えてアクセサリーのように綺麗にしていたので、注意が向くことはありませんでした。

執事の不思議な作品が複数できあがりました。

「てるてるぼうず、というのです。これを窓際に吊るします」

「そして揺らして遊ぶのね!」

「お戯れはどうかご勘弁を。てるてるぼうずが逆さまになったら、ふれふれぼうずとなり、逆に雨を降らせるのです」

「それは……いやだわ……」

お嬢様がうんざりと頷いたのを確認して、執事はクリーニングルームの窓にてるてるぼうずを吊るします。
他の部屋だと猫が気付いて遊び始めるかもしれないからここにしました。

「てるてるぼうず、てるぼうず…………晴れなきゃその首ちょん切るぞ」

まるで呪詛のように執事が唄いました。
てるてるぼうずのおまじない、ドブネズミ式究極版です。
執事のあまりの気迫に当てられたクリーニングルームのネズミたちが震えあがりました。

黒猫お嬢様は執事の尻尾に夢中です。
だって小刻みにピクピク動いているのです。猫が一番そそられる動き方。
にゃあ! と飛びかかりました。


尻尾を咥えられて仲間に思わぬ痴態を見せてしまった執事は、慌てて駆け出し、黒猫お嬢様を彼女の部屋に誘導しました。
お嬢様が目を光らせて追いかけます。


「……猫なら毛づくろいくらい普通だもの」

叱られたお嬢様が唇を尖らせて拗ねています。

「ネズミには目の毒なのです」

「いろんなところで猫が毛づくろいや口付けマーキングをしているじゃない?」

「猫人様ですから。しかしネズミがそのような姿を見せる前例はなく……」

「あっ。さっき驚いて変な声を出したのが恥ずかしかったの?」

「お、嬢、様」

「なぁにセルネリアン」

ぐっ、と執事が言葉を詰まらせました。
ここで名前を呼ぶのはとてもずるいです。

「ここで二人きりの時なら、触れて頂いても」

「……お願いじゃないのね?」

ぐいっと執事がお嬢様を引き寄せたので、お嬢様は驚いて耳をパタパタさせています。ほんのりと頬が赤くて照れている。
して下さい、と言われていないのでこれは”お誘い”です。
拒否することもできますが、お嬢様は雨降り続きで退屈していたので。

「ネズミの尻尾、とっても美味しそう。噛まないように気をつけるわ」

贅沢なふかふかソファーに倒れこんで、ぺろぺろと至福のキャンディネズミのしっぽを舐めました。


そんな時間を過ごしていると、部屋の外が明るくなってきました。
雨音もほとんど聞こえません。
執事の殺気…………いえ、てるてるぼうずのおかげです。


毛づくろいされながら「あなた、太陽の匂いがしないわ」とまた言われていた執事はホッと胸をなでおろしました。
ソファに寝転がりウトウトとネズミの尻尾をんでいるお嬢様を起こします。

「日向ぼっこ日和ですよ」

「にゃあ!」

お嬢様は飛び起きました。
窓に直行。明るい世界を眺めて、黄金の瞳がキラキラと輝きました。


お嬢様がおでかけドレスに着替えて、執事はシャツの胸元を正してブーツを履き、二人が外に出ます。
ネズミたちが「今のうちに!」と大量の洗濯物を外に干していきました。
たくさんの白いシーツが風になびいています。

「お散歩、いつぶりかしら? 日の光がとっても気持ちいいわ!」

お嬢様がご機嫌に言って踏み出そうとしましたが、石畳の上で踏みとどまります。

「どうなさいましたか?」

「草がまだ濡れているのよ。猫は濡れるのが嫌いなのだわ」

「雨の日用のレインシューズをご着用ですが」

「それでも! なんだかいやなの! 猫ですもの!」

確かに猫たちはこの濡れた芝生で活動していません。
ネズミは雨が好きです。濡れネズミ、なんて言葉もあるほどですから。
ちなみにセルネリアンは今日から雨が大嫌いになりました。お日様の香り、最高です。

(猫人様とネズミには様々な違いがありますね)と執事が考えます。
お嬢様の隣で猫の視点で見てみる世界は、とてものんびりと奇妙で、同じように過ごしたいは思いませんでした。
お嬢様の思いつきで部屋で猫のマネごとをしたことがあるのですが、上げ膳据え膳はネズミの体質に合わず、早々に使用人としての業務に戻ったことを思い出します。
これからもこの国で、ネズミが猫に取って代わることはないでしょう。

「抱っこ」

お嬢様が手を伸ばしてきます。
執事であるセルネリアンは従います。
膝の裏に素手を差し入れて、柔らかい肌に触れることができるのは婚約者の特権です。
とろける黄金のチーズを独り占め。

「あそこがいいわ」

「承知いたしました」

お嬢様が指定した場所に執事が向かいます。
丸くて黄色い花がたくさん咲いているガーデンです。
太陽がたくさんあるみたいで、執事は嫉妬しました。

執事が指を一本立てて合図をすると、他のネズミが椅子を持って現れます。
執事はお嬢様をいったん石畳の床に降ろしました。
この辺りはもう乾いているので、お嬢様は歩き回って花や葉についたしずくを覗き込んで楽しみます。

「さあ、どうぞ」

「……?」

せっかくクッションを敷いて支度した椅子に、執事が座っています。お嬢様に向けて手を広げて。

「さあ、どうぞ」

「ああ! あなたの膝に座るのね? 変なの」

変なこと、新しいことがお嬢様は好きです。
毛布が置かれた執事の膝に座って、先ほど抱っこされていた時と同じようにくっ付き、肩に頭を預けました。
執事は太陽に背を向けているので、執事の影が柔らかな白い肌を守り、お嬢様が日焼けすることはありません。
それにしても。

「……あなた、また大きくなったかしら?」

お嬢様がつつつ……と執事の肩を指でなぞりました。

「ネズミの成長は早いですから。一緒に歳を取れなくて、申し訳なく思います……」

執事はずっと気にしていました。
お嬢様よりも老いるのが早く、先に死んでしまうこと。
猫同士ならこうはならない。セルネリアンはどうしようもなくネズミなのです。

「それでも手放す気はありませんから」

首輪を見つめながら言われてしまうと、お嬢様はもう逃げられません。
執事の首筋に赤い跡をつけてあげて、瞳孔を細くした瞳で見つめました。

「あのね……。猫からは、ネズミの顔がほとんど同じに見えるのよ。背丈が小さな子どもの時には違いに気付くけれど、青年もおじいさんもあまり変わらないわ。老いることなんて気にしてたのね?」

「………………」

「でも寿命は、そうね。あなたが先に亡くなるのでしょうから、雲になって空で待っていてちょうだいな」

「追いかけてきて下さるのですか」

「今日、あなたを追いかけるのとっても楽しかったわ!」

執事はそれでいいような気がしました。
もう、死んで小さなネズミになったらどうかお腹の中に、なんて考えません。
お嬢様を空に引き寄せなくてはいけないのですから。
必要なのは脚力を鍛えることです。

「あっ。雲だったら、他のネズミと間違えてしまうかも?」

「絶対にいやです」

「セルネリアン、太陽になって」

「おおせのままに」

お嬢様はすうっとセルネリアンの香りを吸い込みました。
ああこのネズミは太陽になるわ、と確信します。
お嬢様は永遠に太陽を独り占め。
ぽかぽか陽気の中で、ウトウト、心地よく眠り始めました。



読んで下さってありがとうございました!

予想外に好評だったので嬉しくて、早くも続きを書いてしまいました。

評価や感想は作者の原動力となります。
読了後の評価にご協力をお願いします。 ⇒評価システムについて

文法・文章評価


物語(ストーリー)評価
※評価するにはログインしてください。
感想を書く場合はログインしてください。
お薦めレビューを書く場合はログインしてください。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ