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エンリ、何だかイライラする!

遅くてすみません。

「そもそもさ、今代の王はクラウス君のお兄さんなんでしょ?」


「ああ、そうだな」


私は掠れた喉を果実水で宥めながら、程よく揺れる馬車の中で未だ怒りが持続しているのを感じる。この馬車の凄いところは、背もたれを取り外してベッドに出来るところだ。

そしてなぜこの真っ昼間からベッドモードにしたのかは、そこの万年盛り美中年に聞いてほしい。いや、聞かなくていい。報復が怖いから。


「二番目のお兄さんは外交やってるみたいだし、クラウス君は辺境の治政してるし、一番目のお姉さんは隣国に嫁いだわけでしょ?」


「おう、その通りだ」


「そのクーデターもどきの中途半端なことやらかした女は、二番目の王女としての責務も果たさず、迷惑かけるだけかけて逃げ出した引きニートじゃん。むしろ犯罪者なのに、一体何様なんだろ」


「本当にな」


ぶーたれる私に、オルは優しく撫でてくれる。イライラはおさまるけれど、なぜかお腹の一部が気持ち悪い。なぜか涙がポロポロ出てくる。


「何で自分がされたら嫌なことを人にするのかなぁ」


「エンリ……」


オルは私を後ろからそっと抱きしめ、柔らかいタオルで涙を拭いてくれる。オルの匂いに包まれた私は溜まった嫌な心を吐き出すだけ吐き出したら落ち着いてきた。


「ごめん。オル」


「謝ることはない。エンリは優しいな。皆お前のようなら平和な世界になるんだろうな」


「え、そんなのやだよ。オルがいないと」


「……っ!!」


あ、なんかやっちまった感がする。すごくする。

後ろのオルの気配が一気に変わって、私を愛おしいという全開オーラをひしひしと感じる。

何故か馬車の中は、ソファモードではなくベッドモードだ。

準備万端だ。

何がとは言わないが。


ウォン!

ワフン!


天の助けか、外で狛犬のアーちゃんとウーちゃんが鳴いている。

どうやら見つけたらしい。


「エンリ」


「うん。灰色の痕跡が見つかったみたい」


猫科の大型獣のように、足音を立てずに馬車から降り立つオル。音もなく双剣を手に持つと、腕をだらりとさせたまま走り出した。シナトベに馬車から外され、アーちゃんとウーちゃんもオルに並走して案内する。私はウーちゃんに乗せてもらっていた。

目線で「馬車で待ってろ」とオルは言ってるけど、ダメ。絶対行く。

あの女がいたら、一言物申してやる。


不意に、すごく気持ち悪い空気が流れる。

なんとも言えない、ねっとりして生臭い、不快な空気が私たちが進む方向から流れてくる。

景色は草原から土や岩が目立つ場所になり、岩場を器用に狛犬たちは避けて進む。オルもそれに遅れずついてきているにがすごい。あなた今日あんだけ運動して、体力底なしですか。四十代って全盛期じゃないってマジですか。凄すぎるんですけど。


「おぇ……」


乗り物酔いはしないタイプだけど、さすがにこの空気が気持ち悪い。


「魔王の力の残滓に、怨念みたいなものが混ざって最悪な状態だな」


「あの女が原因?」


「魔王教の奴らのも混ざってそうだな。エンリは結界張っとけ」


「ん。分かった」


神様たちも不快みたいだから、ガスマスクをイメージした結界を皆にかける。オルがビックリしている。うん。私もビックリしたよ。

呼吸が楽になる。我ながら良い結界を作れたと思う。

それにしても、この魔王の残滓ってどうにかならないのかな。


「魔王の存在自体が、元々存在自体がこの世界を負の感情を集めたものだからな。染まりやすいし混ざりやすい。特に人間は負の感情を作り出しやすい体質だから、どうしたって影響したりされたりしてしまうんだろうな」


「無くならないの?」


「無理だな」


「あのクラウス君の作った浄化(空気清浄機みたいな)魔道具でも?」


「……そうか。そうかもな。それなら……」


不意にオルが動きを止める。アーちゃんとウーちゃんも、オルの両脇に構えていて、私はいつの間にか現れたシナトベに後ろで待機させられた。最近シナトベはオルの命令も聞くようになってきた。私の加護が効いてるのかな?


「……どうやら誘導されたらしい。奴らは別の場所に逃げたようだな」


オルの目線の先には、禍々しい血の色の小さな箱のようなものが置かれている。

そこからあの嫌な空気が発生しているようだ。


「これって、もしかして北の山の竜族の所にもあったんじゃ……」


「多分な。普通の動物もこれで魔獣化しやすくなる。今回は追っ手を撒くために使ったようだが」


「こんなのたくさんあったら……」


急に気分が悪くなる。再びあのムカムカが蘇る。

何のために、何故、ムカムカする。なんかイライラする!!


【スクナビコナ】!!


私はたまらず呼び出す。


「おお、人の子エンリ。無事か」


「ごめん、胃薬ちょうだい。なんかムカムカイライラするの」


「おお、そうか。ならば優しいものを選ばねばな」


「どういう事だ」


オルがスクナビコナの物言いに引っかかりをかんじたみたいだ。うん、私も引っかかったよ。


「それは、人の子エンリの腹にややが宿っておるからな」


「……」

「……」






「「ええええええ!?」」





お読みいただき、ありがとうございます!

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