魔王と勇者と魔法使いと騎士
気づいたら十代後半。
「ねぇ、そもそも魔王ってどんな感じだったの?」
「ん? なんか本で読んだとか言ってなかったか?」
「うーん、なんていうか、フワッとしてたのよね。クライマックスなはずなのに客観的というか、意識して手を抜いてた感じで……」
「それは……まぁ、しょうがねぇな。俺でもそうするかも」
「え? そうなの?」
オルに背を向けていた私は、後ろから彼の鍛え抜かれた胸筋に包まれウトウトしながら話していたが、思わぬ情報に目が冴える。
ちなみに背を向けて寝ている理由は、オルが寝る時は全裸派だからだ。ぶふぁ(鼻血)
「魔王と勇者のアレコレって、戯曲の神が創ったんだ。魔王は邪の塊であり、それに対抗できるのは精霊の力。それは分かるか?」
「うん。勇者の剣も精霊から授かったんだよね」
「そうだ。んで、邪は全ての感情ある生き物から少しずつ溜まっていって、それが魔王になる。はずだった」
オルは当時の事を思い出したのか深いため息を吐いた。それが私の耳に入り、ハフンとなりそうなのを気力で抑える。空気が読める女エンリ。
「今代の魔王は純粋な邪ではなく、何故か混じり物があった。そのせいで今のような事態に陥っていやがる。魔王を制したが倒しちゃいねぇんだ」
お腹に回された腕を少し持ち上げられ、さらに密着するように抱き寄せられる。
「俺やクラウスに多くの加護があるのはそれが理由だ。勇者は精霊の加護一択しかねぇ。俺たちが加護を多く受けて、混じり物の魔王に対抗するしかなかったんだ」
「オル……」
「ま、そのお陰でエンリに会えた。多すぎる加護も悪くねぇよ」
多すぎる加護は、周りの人間に良くない影響を与えることがあるらしい。だからクラウス君は王都から離れた辺境の領地にいるようにしてたし、オルも姪御さんを育てながら田舎の村長をしていた。
そして、そんな加護に耐えられる魂を持つ人間、私やマイコちゃんが異世界に呼ばれた。
……で、良いのかな?
「あ、それじゃ魔王の邪以外の力はどうなったの?」
「良くないものや強すぎるものは、俺やクラウスが何とかしたが、そのまま残ってしまったものもある。喜怒哀楽とかそういうヤツな」
「ん?それって……」
思わず起き上がって、オルを見る。
「それって普通の人間みたいじゃない?」
城に蔓延していた『精神が安定しすぎて正常な判断がし辛くなる魔法』は、クラウス君が大型魔道具で対処した。でかい空気清浄機みたいなヤツだという。
吸い込んだ力を分析したクラウス君は、それが魔王の残滓である事を割り出すと、オルに『何かあったら呼べ』と言って領地に戻っていった。色々と魔法や魔道具を作るとの事だ。
先代国王と王妃は意識不明のまま。現国王は回復したものの灰色の呪いのようなものを受けていて、(クラウス君経由で渡した)私の作ったお札を貼って過ごしているらしい。
魔王の力のこもった呪いは本当に厄介で、今回の呪いは術者が死ぬまで消えないようなものみたい。私のお札で呪いの進行は止まっているけど、そのままなら一ヶ月保たなかっただろうって、クラウス君がお礼を言いながら涙ぐんでた。国王は優しいお兄さんなんだね。
それに比べて、あの女……!!
クラウス君とは同腹の姉弟にも関わらず、何やってんだって感じ。
今の私達は、二の姫シャルロッテを追っている。尻の痛くならない高機能馬車を、召喚した狛犬に引いてもらっている。あの女の匂いを嗅ぎながら追う狛犬のアーちゃんとウーちゃん、流石です。
あの女は親や兄を傷つけた挙句にクーデターみたいな事を起こしたものの、クラウス君達が来ると知って早々に国外へ逃げ出したのだ。
なんだそれ!
アホか! アホなのか!
オルの膝の上で、むふーっと鼻息を荒くし、心に怒りを宿す私。
……ん? オルの膝の上?
「エーンリ。今は冷静にならなきゃダメだぞ」
「え、う、うん。それは分かるけど、なんで私は膝に乗せられてるの?」
「あ? そりゃ昨日オアズケだったからな。さ、始めるか」
「何を?」
「ナニをって、ナニだろ?」
「何がナニよ!! オルのバカ!! 下品!!」
ポカポカ叩いてもラスボス級の筋肉に私が敵うはずもなく、叫ぶ口は塞がれて、馬車は表面上は静かに進んでいくのでした。
なむー。
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