第41話 英雄の凱旋
「レイト……さん……?」
アリッサは目の前にレイトが現れたことが、信じられないと言った様子だ。半ば放心状態のアリッサに門兵たちが気がつく。
「アリッサ様!!?」
「この者をご存じで!?」
この二人はまだレイトのことを勇者だと信じていないようだ。
「アリッサ。こいつらに俺が勇者だって言ってくれよ」
レイトは門兵二人を指差す。アリッサはフードを外し、ゆっくりとレイトに近づいた。
「本物ですか?」
アリッサはレイトの頬に右手に当て、感触を確かめる。まるで、ここに居ることを確認するように。
「もちろん」
「幽霊じゃないですよね?」
「生身だよ」
「証明してください。黒の波動を出して下さい」
何時の間に彼女は、こんなに疑い深くなったのだろうか。それほど、自分の生存は信じられない、サプライズと言うことか。レイトは言われた通りに黒の波動を発動させる。右の掌に黒い球体を出現させ、消した。
「な! これで本物だって、分かった……アリッサ?」
レイトの頬から手を離した彼女は顔を伏せ、肩をプルプル震わせている。どうしたのかと、レイトが彼女の顔を覗きこむと、バッと顔を上げた。
「今まで何処をほっつき歩いていたんですか!!? 散々人のこと心配させておいて!! 勝手に何処かへ行かないでください!! 寂しかったんですよ!! バカぁ!!!」
アリッサの怒涛の口撃にレイトは思わず後退りしてしまう。彼女は目尻に光るモノをため、上目遣いで睨んで来る。
(やべぇ……相当怒ってる……)
彼女の機嫌をかなり損なっている。喜んでくれると勝手に思い込んでいた、こっちの見込み違いのようだ。
「俺にも色々とあったんだよ。だから、許してくれ」
レイトは顔の前で両手を合わせ、日本式で謝罪の意を示す。しかし、彼女の怒りは収まらない。両腕を組み、王族特有の威圧感を発する。
「色々!!? どうせ、小さな女の子と色々していたんでしょう!! 少しはその変態な所を治したらどうですか!!」
「俺だって命がけだったんだぞ!! 確かにロリフィには世話になったが」
「ほ、ホントに小さな子と色々あったんですか!!? どうしてすぐ、そうやって小さな子に手を出すんですか!! 勇者としての自覚をちゃんと持っているんですか!!」
「おい待て! 小さな子に手を出したことなど一度もない! 勝手に話を捏造するな!」
「何時も嬉しそうに鼻の下伸ばしてるくせに!! 言い訳しないでください!!」
二人の痴話喧嘩を見かねた門兵や、近くにいた兵はレイトをとりあえず取り押さえた。「俺は無罪だぁぁあ!!」と叫ぶレイトは数十人の兵に連れられ、連行されてしまった。
取り残されたアリッサは怒りが冷め、一度冷静になって考える。。
(しまった……嬉しさやら、怒りやらで意味の分からない事を言ってしまった……早くレイトさんを解放しないと)
アリッサはレイトが連行されたであろう、騎士団の寮へと向かった。
「で、俺が来なかったら独房にぶち込まれていたと」
「危ない所を助けていただき、感謝しております。ガノ総隊長」
レイトはおどけて舌を出した。兵たちの騒ぎを聞きつけて、ガノがやって来なければ、今頃冷たい独房にぶち込まれていたはずだ。本当に危なかった。
「良く、生きていたな。黒騎士と飛ばされたのだろう?」
「ああ。一応、勝ったけど結構重症でさ。死にかけた」
レイトは心から信頼を寄せるガノに大体のことを話した。ドラゴンが言っていた、アリッサの血縁関係以外のことは全て伝えた。話を聞いたガノは大声で笑い。腹を抱えていた。
「お前も悪運が強いな! ちょっとのことでは死ななそうだ!」
「いやいや、今回はホントに一回、諦めたよ」
「拾った命は大事に使えよ。では、行ってよし! 外に居るお嬢さんによろしくな」
ガノは書類の続きを書き始めた。自分が居る間は中断していたようだ。邪魔になっても仕方がないので、騎士団の寮にある、ガノの執務室から出た。
「ぁ……」
「ん?」
ドアを開けると廊下の壁にもたれかかっているアリッサと目があった。ガノ言っていたお嬢さんとはアリッサのことのようだ。
「話は終わったのですか?」
「おう。釈放されて来たぜ」
「なんて、軽いノリ……」
彼女はため息をついた。話したいことは色々とあるが、ここではゆっくり話すことが出来ない。
「とりあえず。城に戻ろうぜ」
「そうですね」
アリッサと並んで歩き、騎士団の寮を出ると大勢の兵たちに囲まれた。
「勇者様!! よくぞご無事で!!」
「黒騎士を倒したってホントですか!!?」
「私も勇者様のハーレムに加えて下さーい」
「私も私も~~!!」
称賛の声に混じって、とんでもない発言が聞こえる。兵に囲まれ、アリッサとはぐれてしまった。彼女も彼女で兵に囲まれ、質問攻めにされている。
「姫様! 勇者様とはどこまでいかれたんですか!!?」
「勇者と姫のカップルなんて、素敵です!!」
「たまには私たちにも勇者様貸して下さい!!」
耳まで赤くして、アリッサは困惑した顔で兵の質問に答えていた。パニックで何を言っているのかさっぱり分からないが。
「おいみんなーー!! 今日は勇者様の帰還祝いに宴らしいぞ!!」
何処からかそんな声が聞こえる。
「城の方でもパーティーがあるらしいよーー!!」
どうやら、城と騎士団のパーティーは別開催のようだ。レイトがどちらに出るべきなのか考えていると、騎士団の女隊員が右腕をからめてきた。
「勇者様は、城のパーティーには出られるのですか?」
茶髪のショートカットで明るい笑顔は元気な印象を与える。胸は残念なことになっているが、気にしない。
「まぁ、立場的に出ないとマズイよな」
今度はロングの紫色の髪を持った、女の子が左腕に抱きついてきた。腕に柔らかい感触がする。気になってしまう。
「そんなこと言わずに、私たちの会にも参加して下さい」
吐息の混じった色っぽい声だ。彼女は俺の耳元に口を近づけ。
「スキがあったら、二人でいいことしましょ♪」
妖艶なその笑顔に思わず首を縦に振りたくなる。
(勇者って役得だなぁ)
戦いの最中は前線で戦い色々と大変かもしれないが、それが終われば優遇されるオイシイ立場だ。レイトが平和とは素晴らしいと思っていると、背後から殺気がする。両腕に人が居るので振り返ることは出来ないが、きっとそこには鬼が居る。
「楽しそうですね。レイトさん?」
振り向いては行けない。それは存在を肯定すること、そして自らの死を招くだろう。背中に冷たい汗を感じつつ、レイトはそのままの格好で震えた声を出す。
「ど、どうしたんだ? 今のこの状況に関しては不可抗力だ。ちょうど二人には、離れてもらおうと思っていたんだ。二人とも離してもらえる?」
「「嫌です」」
見事なハモリだった。
「いや、姫様怒ってるよ? 俺は超怖いんだけど?」
ショートカットの子の締め付けが強くなる。
「アリッサ様はいつも勇者様と居て、羨ましいです!! たまには私たちにも貸して下さい!!」
確かに今思うと、騎士団で面識があるのはヌーイを除く隊長と、ルルだけだ。他の隊員に関しては話したことの無い人の方が圧倒的に多い。
「そうですわ。勇者様だって、たまには遊ばないと。英雄の世継ぎを欲しい女は、たくさんいるでしょう。姫様が独占なんて、女として黙っていられませんわ」
女と言う生き物はつくづく好戦的な生き物だ。レイトはそう確信する。なにせ、両腕に絡んだ二人は一国の王女であるアリッサに対して、一歩も譲らない。きっと、普段は王族に対し敬意を払っているのだろう。しかし、今はアリッサという一人の女性と会話している。
「二人の言い分は分かりました。本当にそんな勇者でいいんですね?」
何故かアリッサには余裕が見える。勝者としての余裕が。
「もちろんです!」
「もちろんですわ」
外野の男たちから羨望と殺気を含んだ視線を投げつけられ、女たちからは「私も参戦するーー!!」などのヤジが聞こえるが、今はスルーする。アリッサが一呼吸置いた。彼女は何か言う気だ。
「なら、そんな黒の勇者レイトの本当の姿を教えましょう」
レイトは理解した。
(俺を社会的に抹殺する気か!!?)
「アリッサ! ちょっと、落ちついて……」
レイトの制止の言葉も虚しく響いた。そして、彼女は今までの暴露を始めた。少しだけ誇張して。
「その勇者は10歳に満たない、幼女に発情する変態です。そして、女性を言葉や蔑みの目で、精神的に相手を責めて屈服させようとする、暴虐無人な一面も併せ持っています。さぁ! それでも、その勇者を貸せといいますか!!」
(終わった……騎士団内での俺の評判は終わった……)
否定しようにも、事実を元に誇張しているからタチが悪い。後半の部分はミフアとの一件だろう。確かに見方によってはそうとも見える。兎にも角にもとりあえず、解放されるかと思ったレイトは、何と弁解しようか考えていた。しかし、両腕の二人は離すどころか、より密着して来た。
「小さい子も大丈夫ってことは、勇者様は私の小さな胸でも満足できますか!!?」
ショートカットの子が鼻息荒く聞いてきた。
「まぁ……女性の良さは胸だけじゃないよな」
「やったぁぁぁあ」
握りこぶしを造り、彼女は嬉しそうな笑みを浮かべた。
「勇者様。私は責められるのが好きなので、どんなプレイでも受けますわ。何なら今ここで罵倒欲しいほどです」
ロングの髪の子は片手を顔に当て、恥ずかしそうに言った。周りが期待した眼差しで見て来るので、罵倒しなければいけない雰囲気だ。腕は使えないので、顔をグイッと近づける。
「皆の前で罵って欲しいとは、お前は相当な変態だな」
「あぁぁ」
出来るだけ威圧して言ったのが功を奏したのか。彼女は足をモジモジさせ、身体をくねらせ始めた。「勇者様すげー」とか「私もして欲しいなー」とか聞こえるが気にしない。楽しくなってきたレイトは調子に乗って、さらに言葉で責めてみる。
「ほら、しっかり立てよ。この淫乱な雌豚が」
「はい……私は勇者様のメスブタです……」
想像以上の効き目だった。垂れた目をトロンとさせ、惚けた表情でこちらを見つめて来る。これ以上は自分の理性が危ないと思ったので、そこで言葉責めをやめた。ちゃんと言葉責めになっていたかどうかは別にして、リクエストには答えることが出来ただろう。
「な……なんて、卑猥なことを彼女にさせているのですか!!?」
アリッサが顔を赤くして怒っている。声は若干上ずっており、焦っているようだ。自分が切り札と思っていたカードが、事態を悪化させただけとあれば、当然かもしれない。
「だって、リクエストされたから」
「だからって、ホントにやらなくていいんですよ!!」
レイトとアリッサが口論を広げていると、両腕の二人が割って入った。
「勇者様! 買いだしに行きましょう!」
「そうですわ。魔物の脅威が去って、品が一層充実しておりますわ」
二人はレイトの手を引いて、どんどん歩いてゆく。
「ちょ、ちょっと、待ってくれ! アリッサ! 助けてーー!! 連行されるー!!」
「知りません! その子たちと好きにすればいいじゃないですか!!」
アリッサは完全に怒っている。
「じゃあ、姫様! 勇者様をお借りしますね~」
「何があっても恨みっこなしですよ」
「どうぞ、ご勝手に!」
そんなこんなで、レイトは騎士団に連れられアリッサと離れてしまった。




