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黒の波動を携えて  作者:
第1章 力の覚醒
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第1話 落ちつけ俺

 家族はいない。厳密には居なくなった。小学校の時、休日に友達との遊び終え、帰宅すると血を流して倒れる両親の姿。二人は家に押し入った強盗に襲われその人生に幕を下ろした。逮捕された犯人の動機は「金が欲しかったから」で、自分の両親は犯人の金を生む道具として殺された。


 それから中学時代は、感情を失った3年間となった。それでも周りの人に支えられ徐々に感情を取り戻したが何をしても達成感や充実感は得られない。本当なら自分を見てくれる両親はもういない。自分を必要としてくれる人は何処にも。


(だからかな、俺がここに呼ばれたのは)


 レイトは自分が異世界トリップと言う、不思議な経験をしている理由を何となくそう思った。これが自分の運命なのだと、どんな形であれここには自分を必要としてくれている人たちがいる。それがレイト自身の本質とは無関係だとしても。


「レイトさん?」


 横に居るアリッサが心配そうに顔を覗き込んだ。


「大丈夫だ。王様とこれから会うと思ったら少し緊張しただけ」


 今、レイトとアリッサは王都の中心に位置する城内部にいる。異界人の召喚に成功したことを王に報告しなければならないと、アリッサはレイトを召喚された小部屋から連れだし今は王のいる謁見の間へ2人で歩いている。


 レイトが召喚された部屋は城の地下に位置しており、王族しか入れない秘密の部屋らしい。床に書かれていた円は召喚する際に使用する魔法の陣らしく、彼女が言うにはそれはもう複雑で凄い陣らしいのだが、レイトには当然理解できないことだった。


 城の謁見の間に行くまでの間に何人かの兵にすれ違う。彼らは皆、レイトのことを興味を含んだ目で見てくるが、声をかけて来る者は1人もいなかった。彼らがレイトのことを異界から来た人間だと理解していたのかは分からないが、少なくとも風貌がこの世界では珍しいのだとレイトは考えた。


 


 巨大な扉の前でアリッサは立ち止まる。この先が謁見の間になっていることは雰囲気から察しがついた。両脇にいる長い槍持った兵士が扉を開ける。大きな部屋の両脇には何人もの人が並んでいた。ちかちか光る服や宝石を来た人、鎧を身にまとった屈強な男たち。この国の兵士や貴族が来ているようだ。そして、その真ん中に堂々と居座る初老の男。


(あれが国王か)


 逆光で差し込む光のせいか男が光って見える。一国の王としての威厳がそう錯覚させるほど、男の周りにはピンと張りつめた雰囲気が立ちこめている。横に居るアリッサに促されレイトは足を前に出す。堂々と歩くレイトへ、両脇に居る人々の視線が動きの一つ一つに集められる。


 期待や不安を含んだ視線を投げつけられても、レイトは淡々と足を前へと勧める。そして、王たる男の前まで辿り着いた。


「我が国へようこそ。異界人よ、我の名はイェノム・エフェレフ。この国の現国王である」


 レイトは事前にアリッサに言われていたと通りに、膝をつき頭を下げた。


「レイト・イノウエです。第一王女、アリッサ様の命によりこの度、この国にお力をお貸しすることとなりました。お役にたてるかは分かりませんがこの身を王に捧げると誓います」


 実際に捧げるかどうかは別にして、こうゆうのは雰囲気と形が大事だと考えていた。事前にアリッサと言うことを打ち合わせしておき、今はそのセリフ通りに口を動かしているだけだった。


「事態は切迫しておる。そなたの働きに期待する。くわしい説明はアリッサに聞くとよい」


「はっ!」


 思っていたよりもあっさりと王との謁見は終わった。兵に自分が使う部屋に案内され、レイトはベッドに背中から身を預けた。今度は後頭部に痛みが走らない事を確認して。ベッドに寝転び、無気力に天井を眺めていると扉をノックする音が聞こえた。


「どうぞ」


「失礼します」


 入ってきたのは部屋着である、白いドレスに着替えたアリッサ。上品さと気品を感じさせるその風貌は彼女が一国の姫であることを示していた。思わず魅入ったレイトの視線を恥ずかしく思ったのか、彼女は照れくさそうに笑みを浮かべる。


「隣、いいですか?」


「ああ、もちろん」


 レイトは身体を起こし、ベッドに座りなおす。その隣にアリッサはチョコンと座った。何を話すべきなのかレイトは思考をフルに使い考える。これがもし以前の世界で自分の部屋で起こっているイベントならこんなにおいしいシュチュエーションは無い。自分が美少女と思う女の子が隣に座っている、しかもベッドでだ。


(落ちつけ俺、これはゲームのイベントじゃないんだぞ)


 一度、ダメな方に傾いた思考を正常な方へと戻す。この世界の法がどうなっているのかは分からないが相手は一国の姫だ。欲情して襲ってしまいました類の言い訳は、当然ながら通用しないと考えるべきである。


 視線をアリッサの方へと向けた。身長はレイトの方が少しだけ高いため上から覗きこむ形となる。白い首筋から視線を下に下げると胸のふくらみの間が、視線に入ってきた。それは男としての本能かレイトの視線はそこで止まった。


「ど、何処見てるんですか!?」


 視線に気がついたアリッサが胸を両腕で隠すと距離を開けた。


「待ってくれ! 覗こうと思ったわけじゃない!」


「覗いてたんですね……」


 やってしまった。自分で墓穴を掘ってしまったと悟る。アリッサが警戒心を上げて見て来る。不可抗力とはいえ女性に嫌われるのは気持ちのいいものではない。好感度を上げることを諦めるとしても、これ以上下げることは断固として阻止しなければならない。


「そういえば、俺は明日からどうしたらいいんだ? いきなり、魔物倒しに行けとか言われても無理だぞ」


 レイトが出した結論は、当たり障りの無い話題で今の話をそらすだった。


「それなら、明日から騎士団長が直々に鍛えてもらえるそうです。魔法は私がお教えします」


「アリッサって、教えられるほど魔法凄いの?」


「これでも王族ですから。魔法を使える人は今はもう数が少なくなっているので、私で我慢して下さい」


 アリッサが浮かべる笑顔に何故か背筋が寒くなるレイト。彼はこの時の悪寒の理由をすぐに知ることになる。


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