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黒の波動を携えて  作者: 達
第1章 力の覚醒
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第2話 甘いわ!

 ストレニア王国の主力である王国騎士団。一から五番までの隊に分けられ、強い者がそれぞれ隊長を務める。現在は多方面に展開し、各地で魔物の侵攻を受ける地域の主力の戦力として活動している。そして、最重要区である王都にも当然隊はいる。王国が誇る5つの騎士団の中で精鋭中の精鋭が揃い最強とうたわれる一番隊である。一番隊の隊長は騎士団の総隊長として公の場に出ることもあり、騎士団の代表にして王国最強の称号。それが一番隊隊長でありレイトの教官でもある。


「どうした坊主! もう終わりか!」


 城から少し離れた騎士団寮の前に広がる訓練場に、野太い男の声が響く。騎士団の総隊長ガノ・ヨラザルは手に持った木刀の切っ先を目の前に横たわる、物珍しい黒髪を持つ少年へと向けた。


「クソ……手加減とかしらないのかよ」


 膝に手をつき木刀を杖にして異界人の少年、レイトは立ち上がる。こっちの世界に来て三日目、午前中はガノによる体術の訓練。午後はアリッサによる魔法の訓練と二部制でレイトの訓練は進んでいた。この三日間の訓練で分かったことはレイトには高い魔力と身体能力があるだけということだ。身のさばき方、魔法に関する知識は当然ながら素人同然であり、戦場に出れば真っ先に死んでしまうだろう。


「貴様には運のいいことに体術系の魔法の才能はある。イメージを固めろ」


 この世界の戦闘方法には大きく分けて二つ、体術系か魔術系か。身体能力を上げるなどの魔法は体術系、火を出すなどの魔法は魔術系。個人の力量や訓練に左右されるが一般的には魔術系の才能を持ち合わせている人は少ない。


 そして、体術系の魔法は戦闘中にイメージを固め発動するのが遅れる場合がある。そのためある程度の経験を積むまでは防具やアクセサリーに魔法を施し、最初から身体能力を上げておくなどの手法がとられる場合がある。


 レイトも初日は腕に身体能力を上げるブレスレットをつけていたが、ガノの判断で不要とされ、今では何の補助も無しに体術系の魔法を使っている。


(今日こそ一撃を入れてやる!)


 レイトはガノとの距離10m弱を一歩で縮める速度をイメージする。身体の中の魔力が足にたまって行くのを感じる。力と魔力を足に溜め踏み出すと同時に解放。解放された魔力は爆発的な速度を与え、鋭い踏み込みを可能にする。


 あっという間にガノの懐にレイトは潜りこむ。左斜め下からガノの頭部を狙って右手に持った木刀を振り上げる。ガノは頭を後ろに少しだけそらし木刀を回避した。常人の比にならない早さで木刀が鼻先をかすめたのに、彼は眉一つ動かさない。


 この三日でレイトは普通の動きではガノに当たらない事を察していた。スピードで勝っていても予備動作で狙いが全てばれると教えてもらった。今のレイトが目線などのフェイントを含めた駆け引きで、ガノの裏をかくことは不可能。完全に予想外の動きで彼の虚を突くしかない。だから、レイトは右手に持った木刀を手放した。


 ガノの目線が一瞬だけ離した木刀に集中する。その一瞬を狙って左手をガノが持つ木刀へと伸ばす。ガノの持つ木刀を奪い一撃を加える、それがレイトの考えた手段だったがガノが木刀を動かし、レイトの左手を避けた。


「甘いわ!」


 ガノが木刀を振り上げた。このままでは、木刀を頭に入れられ終わってしまう。何とか回避するために、レイトはガノの腕に視線を集中させる。アリッサとの魔法の講義で、魔力を目に集めれば動体視力などを上げることが出来ると教えてもらった。


 イメージによる魔力の操作では無く、魔力そのモノを操作する。技術的には1段階上のことだが、身体の一カ所だけ、それも目に集中させるのであれば出来るのではないかと試してみた。


(結果は……成功!)


 目の内部にモヤモヤっとした熱いモノを感じる。そしてレイトの目にはガノの筋肉の動きがハッキリと見える。力の入り方、動き方から次の動作がイメージできる。今までは反応出来なかったガノの木刀による振り下ろしの斬撃を最小限の動きで回避した。


 至近距離で繰り広げられるコンマ数秒の攻防。ガノは当たると確信していたのか大振りで体勢を崩している。チャンスと判断したレイトは、ガノのガラ空きの顔面に向かって右拳を繰り出す。拳はガノの顔面を見事に捉えた。しかし、同時に違和感を悟る。


(固い!?)


 まるでコンクリートを殴ったような感触が右拳に走った。人の顔面を思いっきり殴ったのは初めての経験だが、少なくとも今右拳から発せられる感触は、人間のモノではない。レイトは動揺した。そして同時に動きが一瞬止まってしまう。それをガノは見逃さない。


「らぁあ!」


 木刀を横に払いレイトの腹部を狙ってきた。


(まずい!)


 目に魔力を集中させ軌道を見切る。つき出した右腕によるガードは間に合わない。レイトは左腕を木刀の軌道上に置いて腹部を守ろうと試みる。見切ったことにより、木刀と腹部の間に正確に左腕が入りこむ。


(守って、反撃だ!)


 木刀が左腕に触れる瞬間。レイトは来るであろう衝撃に耐えるため歯をぐっとかみしめた。痛みに耐えて即座に反撃の態勢を整えるためである。しかし、左腕に当たった木刀は勢いを落とさずに左腕ごとレイトの腹部を押しこんできた。


(この馬鹿力がぁああ!!)


 足がふわっと浮き、木刀に対する抵抗が完全になくなった。ガノが木刀を振り切ると、レイトの身体は弾き飛ばされた。地面に叩きつけられ何回も転がり、寮の壁に背中からぶつかる。全身が痛むが左腕が一番痛みを発していた。薄く眼を開け左腕を見ると、木刀が当たった個所が青紫に腫れあがり力が入らない。


(折れたかな……)


 そう思った瞬間。視界が真っ暗になり意識を失った。







「ガノ総隊長!! やりすぎです!!」


 訓練場の脇でレイトの訓練を見学していたアリッサが声を上げた。


「あっ」


 ガノは思わず我に帰る。レイトを魔法を使った状態で、思いっきりぶっ飛ばしてしまった。部下たちとの訓練では決して使わない。ガノの動きについてゆける騎士団員は各部隊の隊長くらいだ。


(なのにあの小僧は……)


 ガノはアリッサに治療されるレイトを見た。彼は攻撃を完全に身切って避けたうえに反撃は的確にガノを捉えた。魔法で身体を固くして防げたのは。まぐれに近い。最後もレイトが動揺してスキが出来なければ模擬戦とはいえ負けていたかもしれない。


 この事実が与える影響は大きい。レイトが一瞬の判断が命取りとなる戦場で、どれほど平静を保ち、力を発揮できるかはその場に行かなければ分からない。しかし、もし平静の力を発揮すれば騎士団長であるガノに匹敵する力を発揮することになる。戦力不足で一般人にすら剣を握らせ魔物と戦わなければならないこの状況では大きな戦力であることは間違いない。


「お前は希望なのか……それとも……」


 ガノが呟きは誰の耳には届かず空へ消えた。


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