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黒の波動を携えて  作者:
第3章 帝国生まれの傭兵たち
31/58

第28話 知りません!


 ガノの乱入によりレイトとベルソスの模擬戦は終わった。今は自警団本部で互いに治療を受けている。自警団の本部はまるで酒場のようになっていて、依頼を受注する受付もある。レイトが抱いていたギルドのイメージに近いそれだった。


「動かないでください」


 治療をするアリッサが、本部内をキョロキョロと見渡すレイトに注意をした。彼女はレイトの腹の部分に向けて魔法を発動しており、痛みはほとんど取れて来ている、あともう少しで治るだろう。


 ベルソスは嫁であるアルサレナに魔法で治療を受けた。レイトが削った肩の筋肉はアリッサが再生させたので、小さな怪我を彼女が治している。アリッサが公開した術式を利用した医療魔法を使う人物がいると知って、アリッサは嬉しそうな笑みを浮かべていた。自分のした事が役に立ったと知って、嬉しかったらしい。


「レイトの兄貴! あんた、ホントにすごい人だったんですね!」


 興奮気味のロスブルクが目の前の席で、しゃべっているが、早口で何を言っているのかよく分からない。ただ、褒めていることだけはなんとか分かる。


「ロスブルク、ありがとうな。そんなに言われたら照れる」


「兄貴、ロスって呼んでくだせぇ! 仲間はみんなそう呼びやす! もうオイラは一生、兄貴について行くっす!」


 こいつはきっと少し馬鹿なのだろう。愛すべき馬鹿というやつだ。


「そんなこと言ったらミフアが怒るぞ」


「大丈夫っすよ! お嬢は兄貴に心を折られて、身も心も捧げやすから! ここだけの話……お嬢って結構Mなんですぜい」


「なに? それは本当か?」


 実は勝気で強気な女性が受ける側だった。男としてこれほどの萌える展開はない。


「だから、今度押し倒して「誰の話をしてるんだい?」ひぃ!!」


 ロスブルクを見下ろすのは料理を運んできてミフアであり、頭に白い三角巾をしている。


「レイトに変なこと吹き込むんじゃないよ。あんたも、信じないで」


「お、おう」


 信じないで言われるが想像はしてしまう。赤いタンクトップから見え隠れする、悩まし二つの山を揺らし、ショートパンツから伸びる白い足を赤裸々に晒し、色々とねだる彼女の姿を。


「なに、考えてるんですか?」


 アリッサが治療中の場所をキュっと指でつまんだ。


「いてっ! アリッサ、そこは怪我……」


「やらしいこと考えていましたよね?」


「……誤解だ。考えたのではない、浮かんだんだ。男なら当然の反応だ。なぁ、ロス」


「そうっすよ、女神様。兄貴は普段、女神様の恥ずかしい姿を想像して楽しんでるですぜ。だから、お嬢の恥ずかしい姿を想像するのは必然の流れっす」


「フォローになってない! むしろ状況が悪化しとるわ!」


「レ、レイトさん……そうゆうことは2人の時に……」


「誤解を招く発言をするな! それになんで、ちょっと喜んでんだ!!?」


「あんた、ホントに女神に手を出したのかい?」


「ミフア!? 手を出したなんて一言も言ってないだろ!!」


「すげぇ……さすが兄貴!」


「お前らは話を聞けぇぇぇえ!!!」


 レイトの弁解の叫びをよそに自警団本部での宴会は始まった。居るのは自警団の一部の面々と、王国側はガノとネセリン、レイトとアリッサだけが出席していた。他の隊員も読んでみたが、ベルソスがいると聞いて来なくなってしまった。ルルはネセリンが押し付けた仕事が残っているとか。


 長椅子に座った面々は好きに料理を頼み、飲み物を自由に飲んでいる。レイトたちから一番遠い端の席では、ガノとベルソスが何やら会話をしている。昔話にでも花を咲かせているのだろう。


「レイト、何かとろうか?」


 何故か左隣の席に座っているミフアが訪ねてきた。いつの間にか呼び方も呼び捨てになっており、ハタから見れば仲良く見えるのか、自警団の屈強な男たちの視線が突き刺さる。当の本人はいつまた襲ってくるだろうかとビクビクしているのに。


「変な物、盛らないだろうな?」


「もう、あんたに勝負を挑んだりしないから安心してよ。パパとあんな戦いするあんたに勝てるわけない」


「そっか……前の時は色々と痛いことしてすまなかったな」


「いいよ、いいよ。正当防衛ってやつだよ」


 ミフアはサラダを木の取り皿に入れると、レイトの目の前に置いてくれた。


「ありがと」


「こ、こんくらい当然さ」


 そっぽを向くミフアに思わず笑みが出る。右腹を誰かがつついた。触ることができるのは右隣に座る女神様しかいない。


「なんだ?」


 アリッサの方を向くと、頬を膨らませご機嫌斜めと言いたげな表情だ。


「レイトさん、なに、普通に食べてようとしてるんですかっ。怪しすぎますっ」


「でも、もう勝負は挑んでこないって言ったし。せっかく、取ってもらったし、食べないと悪いかなって」


「取って欲しい物がるなら、私に言えばいいじゃないですかっ。なんでも取ってあげますよ」


「? どっちでも結果は一緒だろ?」


「もう、知りません!」


 アリッサは自分で取り皿にサラダをいれ、食べ始めた。心なしか、暴食気味に見える。


「女神も色恋沙汰にはさっぱりのようだね」


 ミフアの挑発的な声にアリッサの方がピクっと反応した。


「何の話をしてらっしゃるか、さっぱり分かりません」


 レイトを挟んで始まる女二人の口撃戦。レイトは首を突っ込めば大変なことになると本能で察し、食事の続きを始めた。


「女神さんにはハッキリと言っておくことがあるんだけど」


「なんですか?」


 ミフアがレイトの左腕に腕を絡めた。


「レイトの世継ぎはあたしがもらうから」


 ミフアの衝撃発言に場の視線がレイトに集まる。


「あいついつの間にお譲と……」


「ベルソスの旦那ぁぁ! 娘が嫁に出ちまいやすぜ!!!」


「ビックカップル誕生だぁぁあ!」


 盛り上がる自警団の男ども。レイトは、ミフアがアリッサのことをからかっていると思い、動く右手で食事を続ける。本当は左腕に当たる柔らかい二つの感触をもう少し、楽しみたいからだと悟られないように。


「な、なに言ってるんですか!!? レイトさんは王国の勇者なんですよ! そんな、勝手に決めないでください!!」


「でも、女神のあんたはレイトの彼女でもないんだろう?」


「そ、それは……そうですけど……」


「なら、レイトがあたしの方がいいと言えば問題ないわけだ」


 レイトの腕に当たる柔らかい感触が強くなる。思わずにやけてしまいそうなるが、そこは無表情でなんとか誤魔化す。


「でも、でも……なんで、レイトさんなんですか!? 昨日あったばかりなんですよ! それにレイトさんは幼い子に発情する変態で、今だってミフアさんに抱きついてもらえるのが嬉しくて、何も言わない変態なんですよ!!」


「少し当たってるけど、ボロくそだな、おい!!」


「クス、レイト……あたしの身体がそんなにいいのかい?」


 ミフアがさらに強く腕に抱きついてくる。


「まぁ、悪いといえば嘘になるが……アリッサをからかうのはその辺にして、離してくれないか?」


「あたしは本気だよ?」


「え?」


 レイトが右手に持ったフォークを落とした。床に落ちたフォークが「カラン、カラン」と音を立てる。


「だって、あたしより強い男と子供をつくりたいって思ってたし……それに、首を絞められてレイトに睨まれたとき……正直、怖かったけど支配されてるって感じで、ゾクゾクした! 見下ろされて、蔑まれながら苛められると思うと、全身がゾクゾクして興奮しちゃんうんだよ!」


 どうやら、レイトが必要以上の恐怖を与えたせいで、ミフアの脳のネジが外れてしまったらしい。


「ねぇ……レイト。あたしをこんな風にした責任はとってくれるんだろ?」


 ミフアが腕をレイトの首に回しそのまま近づいてくる。後退りで距離を開けようにも、後ろにはすでにアリッサがいて、これ以上は下がれない。


「落ち着け! 変な性癖に目覚めるのは勝手だが、ここは公共の場だ!」


「二人になったら苛めてくれるのかい? それなら我慢するよ!」


「とにかく、レイトさんから離れてください!!」


 





 大騒ぎの反対側では大人たちが静かに酒を飲んでいた。


「おい、お前の娘がとんでもないこと言ってるぞ」


「好きにさせておけ。そのうち、落ち着くだろう」


ベルソスは自分の娘に対し放任主義らしい。木のコップに入った酒を飲むとつまみで置いてある、枝豆を手に取り、中の豆を指圧で押し出して口に入れた。


「ところで、報酬の件は本当なんだろうな?」


「もちろん。今回、自警団が協力してくれたら王国の魔法技術を提供しよう。お前はここに新しい街を創るんだろう? 王国と協定を結べば、依頼も受けやすいし、帝国の魔装具製造技術を教えてくれれば互いに利のある話だと思うが?」


「どうして、俺がこの街を拠点に新しいことを始める気だと分かった?」


「カン……かな」


 ベルソスは魔物討伐を中心とした新しい組織を設立するつもりだった。王国や帝国に頼らず、苦しんでいる人たちを救うために。様々な人が出入りする商業都市ラムザと言えど、得体の知れない自警団への依頼は数多くない。


 しかし、王国の協力を得ることが出来れば騎士団では手の回らない仕事や、魔法技術の提供により、飛躍的に組織の規模を大きくすることができる。ガノ以外の人物がこの話をしても、ベルソスは乗らなかっただろう。戦場で幾重にも戦った相手だからこそ信頼した。部下を第一に考え、時には自分が囮となり危険を省みないこの男を。


「まっ、それもこれも今回の作戦が上手くいったらの話だがな。とにかく、今は飲もうぜ」


 ガノは笑顔でコップを掲げた。後に『ギルド』と呼ばれる組織の創設者はやや呆れ顔でそのコップに乾杯した。


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