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黒の波動を携えて  作者:
第3章 帝国生まれの傭兵たち
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第26話 ご飯に行こう!


 ミフアは幼少期から抜きん出ていた。『鬼人』と呼ばれる父と帝国では珍しい魔術師の母を持つ、サラブレッドっとしてその才能は早くから光り輝いていた。同年代では他の追随許さない早さで、魔物を討伐したりなんかもした。父が帝国騎士団を抜け、親しいものたちを引き連れて自警団を発足、傭兵として腕を磨く毎日を過ごしても、その輝きは増すばかりだった。


 20年生きる中で、各地で数々の魔物を討伐し、自警団が有名になり傭兵としての地位が上がってゆく。それに伴い、入ってくる者、狙ってくる者の強さも上がってゆく。終わらない闘いの日々で出会った男たちは全て自分の前に屈した。


 自分より強い男がいるわけがない。いつかそう思うようになった。唯一の例外は自分の父であるベルソスだけだが、自分の娘に本気を出す父親など居ない。自分が父を超えたと確信を得るには父と唯一肩を並べた『爆炎のガノ』を殺すしかない。


(なのにあいつは……)


 突然現れた黒髪の少年。『黒の勇者』と呼ばれるあの少年は、正攻法ではないが自分に勝った。持っていた魔装具を一度も使うことなく、まるで自分が圧倒的に上だと言わんばかりの戦い方は初めての屈辱だった。


 自分より上の男が居るなど認めたくない、認めることなどできない。どんな手を使ってでも勝利し、爆炎のガノと戦いそして勝つ。打倒レイトに執念を燃やすミフアの作戦は奇襲だった。奇襲で負けたのだから、奇襲でやり返す。それが負けず嫌いのミフアの決意だった。


「見つけた……」


「隣は女神様ですかね?」


 人ごみに居ても黒髪は目立つ。人の流れが最も盛んな広場に最初に来て正解だった。隣のフードをかぶった人物は、体格から女に違いない。勇者に変な属性がなければ手をつないでいる相手は女性であるはずだ。


「お嬢……どうしやす?」


「勇者も男だろう? 女の武器を見せてやるよ」


 ミフアは黒い笑みを浮かべ、勇者たちに近づいていった。












 レイトは困惑していた。


「勇者様、昨日はごめんね~、お詫びに街を案内してあげる♪」


 目の前には昨夜、自分とルルを襲ってきたミフアとロスブルクが居る。自分が見逃したのだから、生きていることもこの街に居るのも知っている。街中でバッタリ会うのは不思議ではない。問題はミフアの態度が豹変していることだ。


 上目遣いでレイトを見上げ、甘えた声で男の欲望を掻き立てる身体をくねらせている。もし、これが初対面ならば、なんでも言うことを聞いてしまいそうな魔性の雰囲気を彼女は纏っている。


(この豹変した態度……昨日の戦闘狂はどこにいった?)


「レイトの兄貴! 昨日はすいませんでした!」


「いや、そんな謝らなくても……お互いに命あったんだし」


 ものすごい勢いで頭を下げるロスブルクをなだめる。横ではアリッサがミフアから目を逸らさない。思っていることはレイトと同じだろう。昨日まで敵だったというのにあまりに態度が違いすぎる。


「そんな警戒した目で見ないでよ~。それとも、ヤキモチ?」


「な! そんなことありません!」


 女同士の腹の探り合いが始まっている。王族として固く育てられたアリッサにとって、自警団として自由に育ったミフアは相性が悪いようだ。アリッサが少し押され気味に見える。


「じゃあ、4人でご飯に行こう!」















 ミフアの強引な提案と勢いに促され、レイトとアリッサはとある店へと連れて行かれた。適当な4人がけのテーブル席に案内され、レイトとアリッサが隣同士で座り、向かい側にミフアとロスブルクが座った。


「レイトさん、絶対に怪しすぎます」


「分かってるよ。だからって、断れないだろ? あの勢いじゃ……」


「そこは男らしく断ってくださいよっ」


 ミフアたちに聞こえないよう、ヒソヒソ声で話すレイトたちを見て、ミフアは策を考えていた。レイトと二人きりになるには、王女であるアリッサを引き剥がす必要がある。しかし、彼女は自分に相当な警戒心を抱いている。敵として女として。


(どーするかなぁ……何かいい手はないのかい?)


 一瞬でいい、少しの間だけレイトと二人っきりになればその瞬間に勝負をつけることができる。もしくはアリッサの視線を別の何かにそらすことが出来れば、そのスキにレイトに攻撃できる。


 突如、店の外で歓声があがった。それにつられて客が店の外へ視線を移す。それはアリッサとレイトも例外ではなかった。


「なんか盛り上がってるな」


「なんでしょうかね?」


 二人の注意は完全に店の外に向いている、勝負をかけるならチャンスは今しかないと判断した。


「ロス! 女神を抑えな!!」


 指示を受けたロスが慌ててアリッサを抑えにかかる。ミフアは腰から暗剣を取り出しレイトの首に狙いを定める。右手に持った短剣で首筋を狙った一撃はまっすぐ、レイトの白い首へ伸びてゆく。


(もらった!)


 そう思った次の瞬間、木で出来た机の表面を突き破って、黒い光の筋が現れた。黒い光の筋はミフアの右の手のひらを貫き、彼女の手から力が抜ける。暗剣が床にカランカランと音を立てて転がった。






 レイトは反射的に動いていた。ミフアが自分に短剣を伸ばしていると分かった瞬間には黒い波動を発動させ、彼女の右手を貫いていた。次にアリッサを抑えようとするロスブルクが視界に入る。


 自分の左隣に座るアリッサを強引に引っ張り、自分の後ろへ隠す。そして、ロスブルクの顔面に右拳を一発入れると、巨漢のロスブルクは二つとなりのテーブルまで吹っ飛んでいった。ミフアに視線を戻すと、彼女は残った左手で短剣を拾おうとしている。


 レイトは黒い波動を発動させ、短剣の刀身に向かって黒い光の筋を出した。刀身を砕かれた短剣に驚き、動きが止まったミフアの首をつかみ、壁に叩きつける。


「が!」


 背中を強打したミフアが苦しそうな声を上げる。レイトは右腕で彼女の首を掴み、力を込めた。


「俺を殺そうとしたのか? それとも、アリッサが狙いか?」


 彼女たちを殺したくはない。しかし、アリッサを巻き込もうとしたのであれば見逃すわけにはいかない。レイトの表情に殺気が浮かび、まるで血に飢えた獣のような緊張のある顔つきに変わる。


 ミフアはそんなレイトの顔を見て、生まれて初めて自分が食べられる側に居ることを理解した。この少年は自分とは違う次元で生きている。勝てるとか負けるとかそうゆう問題ではない。自分はこの男の前では、捕食者に食べられるのを恐れる小動物に成り下がる。


 恐怖が身体を駆け巡り、歯が震えカタカタと音を出す。怖い、逃げたい、この男に勝負を挑んだ自分がそれだけマヌケか責めたところで、何も変わらない。目を閉じて現実逃避をしようにも、黒い瞳に吸い込まれるように視線が彼から離れない。恐怖で自分を支配することのできる、この男に見入ってしまったようだ。


「黒の勇者とやら。娘を離してはくれんか?」


 その声は、昔から聞き慣れた声だった。


「パ……パ……?」


 突如始まったレイトたちの抗争に騒然とする店内に現れたのは、父であるベルソスだった。


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