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黒の波動を携えて  作者: 達
第3章 帝国生まれの傭兵たち
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第25話 ラムザにて

「ぅん……?」


 ミフアが目を覚ますと見慣れた天井があった。背中の感触から自分の家のベッドのようだ。


「お嬢! 身体は大丈夫ですか!?」


 顔を横にするとロスブルクが情けない顔をしている。身体を起こし、額に手を当てる。


「あたしはなんでここに……」


「昨日夜、オイラたちが襲撃した王国人が運んでくれたんです」


 ロスブルクの話によると、昨日自分を倒した王国騎士団は今朝、ラムザに入り、自分とロスブルクの身柄を、ミフアが属する自警団に返した。舐められたものだ。


 自分はあの黒髪の勇者とやらに魔装具を握らされ意識が途絶えた。「俺の勝ちだ」と言ったあの顔が脳裏に浮かぶ。あんな卑怯な手による敗北などプライドが許さない。何より、一度命を狙った相手に情けをかけられるなど、屈辱以外のなんでもなかった。


「ロス! あいつを探し出して復讐するよ!」


「えええ!? レイトの兄貴をですか!? あの人、めちゃくちゃ強いらしいですよ!」


「敵を兄貴と呼ぶんじゃないよ!」


「だって……あの人、オイラ達を庇ってくれたんですぜ……街に入るときに色々と便利かもって……あと、噂の女神様が超キレイでした。もう一回、怪我治してくれないかなぁ」


「男が敵の女に落とされるなんて情けない!! その女神様とやらも勇者に抱かれまくってんだ。変な妄想しないことだね」


「あ、兄貴は硬派っすよ! 女神さまも清楚だし、お嬢とは違うんです!」


「人をビッチみたいに言うんじゃない! とにかく行くよ!!」


「へ、へい!」















「結構、人で賑わってるんだなぁ」


 レイトはラムザの中心にある広場にいる。商業都市ということもあって、人の交通量はこっちの世界で、今まで見たことのないほど多い。人混みに巻き込まれ知人とはぐれると再度合流するのは困難だと思える。


 少し中の道に入れば露店が並び、見たことのないアクセサリーや食べ物、武器なども売っていた。基本的に街で何を売るのも自由なので本当になんでもあった。しかし、自由が故に時に品質の悪いものや、嘘の品が混じっていることもある。何かを買うときは信用できる店で買うのが基本だと、ガノに教えてもらった。


 そのガノはネセリンを連れて、昨夜、レイトとルルを襲った、自警団のトップと話をしてくると言って、何処かへ行ってしまった。騎士団の面々は宿に到着すると、夜まで自由時間が与えられた。ここまで来るのに魔物が来ないか、絶えず緊張感がある中で生活をしていたので、身も心もほぐす意味合いで与えられたのだろう。


「大きな街ですからね。亜人の人も多いみたいですし」


 横に居るアリッサは黒い外套にフードをかぶり、周りに気づかれないようにしている。どうやら『王国の蒼い女神』の噂はかなり、広い範囲で噂になっているようだ。昨日捕らえた二人は、帝国出身の傭兵集団で今は自警団として、この街の領主と契約している。ロスブルクと名乗った、大剣を持つ大柄な男はアリッサのことを知っていた。


(変な輩に狙われないように気を付けよう)


 王国の王女と言うだけで、賊からは魅力的な存在だろう。人質にすれば多額の要求ができる。医療魔法の使い手として脅し、その力を借りるだけでもかなりの利用価値がある。おまけに美人だ。


(俺がちゃんと守らないと)


 一人で決意を新たにするレイトはアリッサの手を握った。彼女の手は小さく、柔らかい。


「ふぇ!? レ、レイトさん!?」


「人が多いから、はぐれないようにな」


「は、はいっ」


 二人は多くの人で賑わう街を並んで歩いて行った。









 王国騎士団、総隊長であるガノと五番隊隊長のネセリンは2階建てのとある人物の家に来ていた。ガノがドアをノックすると出てきたのは、オレンジ色の髪をした大人の女性だった。事情を話すとその女性は快く家の中へと入れてくれた。リビングであろう場所に案内され、木製の椅子に腰を下ろした。


 女性は家の奥に消えるとそこから、熱いお茶を持ってきてくれた。目の前のテーブルに出されたお茶をガノとネセリンは頂いた。


「あの『爆炎のガノ』と『最強魔術師』が来てくれるなんて、自慢できるわね」


「アルサレナ、うちのネセリンを知ってるのか?」


「もちろんですわ。これでも魔術師ですもの。賢く、強く、そして美人と聞いております。噂通りの方ですわね」


「そ、そんな……私なんて……」


 小柄なネセリンがさらに小さくなる。アルサレナはそんな彼女を見て、優しく微笑む。


「ところでアルサレナ。あいつは何処にいる?」


「主人でしたらまだ寝ています。すぐにお越してまいりますわね」


 アルサレナは立ちがり、一礼すると二階へ続く階段を登っていった。


「ガの総隊長、本当に協力を依頼するのですか?」


「もちろん。魔物領に入るんだ。少しでも強力な戦力が欲しい」


「一理ありますけど……なんでまた……」


 ネセリンがため息を漏らそうとした時、何かの殺気を感じた。出しかけた息を止め視線を感じる方へと顔を向ける。そこには坊主頭に左目に傷跡を持つ、男が立っていた。


 今にも飛びついてきそうな気を纏わせる男の圧倒的存在感。ネセリンが戦場でつんだ経験がなければすぐにでも意識が飛んでいた。呼吸が浅くなり、男への恐怖は冷たい汗となり額から出てきて、頬を伝い、顎から床へと落ちる。


(この人が……)


「ネセリン、大丈夫だ」


 ガノのいつもの声だ。平常心を取り戻したネセリンの呼吸が普段通りになる。


「おい、ベルソス。うちの隊長を怖がらせないでくれ。まだ、若いんだから」


「……貴様がオレに何のようだ? 『最強魔術師』まで連れて……戦争でもしに来たのか?」


「こんな非常時に戦争をしかけるバカはいねぇよ。まぁ、座れよ。話がしたい」


 男の名はベルソス。ガノのライバルにして元帝国の騎士だ。『鬼人』と言われる男の風格はまさに歴戦の猛者と呼べるものだった。ベルソスは自分の家なのに座れと言われたのが、少し不満だったのか、納得のいかない表情でガノの正面へと座った。その隣にはアルサレナが相変わらずの笑みを浮かべ座った。


 4人が座り、今から重要な話し合いが始まる。そんな緊迫した空気は2階からバタバタと降りてきた二人に壊された。


「ロス! 早くしな!」


「お嬢! 待ってくだせぇー」


 ミフアが後についてくるロスブルクに一喝している。ミフアがリビングでガノに気がついた。目を見開き、その場で硬直する。客人が自分の家に来るなど珍しいからだ。しかし、ガノの服装から王国の騎士だと理解したミフアはすぐにガノに詰め寄った。


「うちのパパに会いに来る王国騎士……まさか、あんたがあの『爆炎』なの?」


「まぁ、そうなるかな。気分はもう大丈夫か?」


「お陰様でね。あたしは今からあんたの所の勇者に報復に行くけど止めなくていいのかい?」


「威勢のいいお嬢さんだ。でも、お前にレイトは……『黒の勇者』は倒せんよ」


「言ってくれるね。じゃあ、勇者殺したらあたしと戦ってよ」


「いいぞ。実現はしないがな」


「約束だよ!」


 ミフアはロスを連れて勢いよく家を出ていった。


「あの子ったら……迷惑をかけてすいません」


 アルサレナが頭を軽く下げた。


「いえいえ、元気な娘さんだ。父親に似たのかな?」


 ガノがチラッとベルソスを見る。


「ガノ……ここで長年の決着をつけてもいいんだぞ?」


 ベルソスがその視線に対し、今にも飛び出しそうな獣のような視線を返す。


「おお落ちつてください!! お二人が、たた戦えば街が、か、壊滅しますよ!!?」


 この場で一番、パニックになっているのはネセリンのようだ。アルサレナがクスクスと笑い、場の空気を一度リセットする。


「可愛らしい魔術師さんね。あなた、そんな喧嘩腰では話はできないでしょう? ガノさんはお話に来たんですから。自警団のトップらしく、応じてください」


「むぅ、お前がそこまで言うなら仕方がない。よし、話せ」


「展開が急すぎませんか!!?」


「ネセリン、落ち着け」


 ガノがネセリンをなだめる。いつもならルルに突っ込まれるネセリンが思わずツッコミに回ってしまうほど、3人は自由人だった。ガノがコホンと咳払いをすると、本題を切り出した。


「これから、魔物領に入る。そこで、お前の力を借りたい」


 ガノは魔物領に入る目的を説明する。もしかするとこの魔物の大侵攻が終わるかも知れないと聞いた、ベルソスの顔つきが変わる。よく見ないと分からないほどの、僅かな変化だが興奮しているようだ。


 話を聞き終えたベルソスは腕を組んで目を閉じた。考えをまとめるためだ。魔物領に入るのはかなりの危険が伴う。今のような魔物が凶暴化し、魔物令から溢れ出ている、この非常時なら尚更だ。それをガノはよく理解している、その上で魔物領に入るということはそれなりの勝算があり、尚且つ見返りが大きいといことだ。


 見返りが大きいことは明白だ。上手くいけばこの大侵攻が終わりを告げるかも知れない。リスクがあっても、賭ける価値はあるだろう。問題はその成功の勝算となる根拠がどれほど明確なのか。


「ガノ、さっき『黒の勇者』と言ったな。そいつも連れて行くのか?」


「もちろんだ。今やあいつは王国側の切り札と言ってもいい。勇者抜きでこの作戦は成功しない」


 あの『爆煙のガノ』がここまで絶賛する『黒の勇者』、ガノの力はよく知っている。戦場で何度も命をかけて戦い、決着はつかなかった。自分が知る中で最も強い男がそこまで言うのならば、興味が沸くのは必然と言えた。


「もちろん、この作戦が成功すれば見返りは出す。お前がしようとしていることにもきっと役に立つはずだ」


「……てめぇが何処まで理解しているのかは知らんが、その報酬とやらを聞く前に確認しておくことがありそうだ」


「何が知りたいんだ?」


「その『黒の勇者』とやらに会わせろ。お前が見込むほどの者かオレが見極める」


 ガノはベルソスの真っ直ぐな瞳を見てある確信を抱く。


(やっぱり娘は父親似だな)


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