10話 人生最大の日
結婚式会場
涼「えー……健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、これを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け、その命ある限り、真心を尽くすことを誓いますか?」
卓也「私、卓也は、香奈さんを妻とし、喜びをともに分かち合い、苦しみはともに乗り越え、生涯愛し続けることを、誓います」
香奈「私、香奈は卓也さんを夫とし、喜びをともに分かち合い苦しみはともに乗り越え生涯愛し続けることを誓います。」
涼「では、えー、誓いのキスを」
涼「ふぅー疲れたなぁ、意外とこういうのって」
卓也「ありがとう、良かったよ。まだ手紙朗読とかあるから、踏ん張ってくれ」
涼「本当に結婚しちまうとはなー……」
卓也「何度も聞いたよそのセリフ……」
涼「いやぁ、それにしても俺たち年取ったな」
卓也「ああ、もうこんな年だよ」
涼「なんだかんだ就職も出来たしな」
卓也「ほんとにな」
涼「見ろよ、香奈のやつ、あんなに笑ってるぜ」
卓也「あぁ……お前のおかげだ」
涼「何言ってるんだよ」
卓也「あ、どこ行くんだ?」
涼「ちょっとな」
会場・隅っこ
涼「よう」
翼「わっ、どうしたの?」
涼「いや、せっかくの姉の晴れ舞台、もっと近くで見ないのかなぁと思って」
翼「いいんですよ、散々前日に祝いましたしね」
涼「ちょっと反則じゃんそれ」
翼「ええ、涼さん、かっこよかったです」
涼「そうかな?噛みまくってたけどね」
翼「ふふ、それでも良かったですよ、緊張感が伝わって」
涼「恥ずかしいな……」
翼「ほら、涼さん、出番じゃないですか?」
涼「おっと、行ってくるよ、それじゃあまたあとでね」
翼「ええ、それじゃ……」
自宅
涼「ふぅー二次会も終わり、疲れたー……、ん?」
涼「メールか……」
翼『明日、午前中に病院来てください』
涼「おーけーっと」
翼『絶対ですよ』
涼「ん、なんだなんだ? ちゃんと行きますよ……っと」
病院
涼「やっほー、来たよ」
翼「ごめんなさい、涼さん確か今日午後から仕事だったよね?」
涼「いやいいんだよ、遅刻さえしなければ大丈夫さ」
翼「ちょっと話そうよ」
涼「いいよー」
そのあと涼たちは卓也たち夫婦についての話や、映画の話、お互いに交換していた本の感想など、いつもと変わらない会話をした。1時間が10分に感じられるほど、お互いの会話は弾み、笑顔が絶えなかった。
翼「ねぇ涼さん?」
涼「んー? どうしたー?」
翼「あなたは、卓也さんやお姉ちゃんのために色々頑張っていたわ、本当に。それは私の知らないところでも変わらずに頑張っていたと思ってる。」
涼「べつにそんな頑張るとかそういうこと意識したことはないけどね」
翼「そう?」
涼「うん、でも、そう見えたんならそうだったんだろうなぁ……色々あったし」
翼「そうよ、それなのお姉ちゃんたちの次は、私のリハビリの世話まで、しかもほとんど毎日……仕事だってあるはずなのに」
涼「そうだなー……でも、翼が歩けるようになるのがはやく見たくてね」
翼「嬉しいわ、ありがとう……、ねぇ、涼さん?」
涼「んー?」
翼「あなたも、卓也さんやお姉ちゃんと同じく、幸せになる権利を持った人間よ、それも、特別幸せにならなきゃだめだと思うの。だって、あなたは色々なことを我慢してきたはずよ、あの夫婦のおかげで……言い方悪いかな?」
涼「あはは、確かに間違いない、でも我慢だなんて」
翼「それでね、聞いて? 私、まだ歩けないし、不自由な人間だよ、それにただでさえ、涼さんに迷惑をかけてる」
涼「……」
翼「でもね、私、あなたと一緒に幸せになりたいの、ダメかな……?」
涼「ダメなんかじゃないよ……翼、ありがとう」
涙を浮かべる涼。
翼「それじゃあ、私と付き合ってくれる?」
涼「当然だよ……」
翼「嬉しい、ありがとう」
涼「こちらこそ、ありがとう……さて、仕事に行ってくるよ、終わったらまた戻ってくるから、その時に映画でも借りてくるよ」
翼「泣いてるの?」
涼「泣いてない」
翼「ふふ、それじゃあ、行ってらっしゃい」
涼「行ってきます」
END
完結です、読んでくださった方、ありがとうございました。