第二十一話 稲妻の球
「お前ら・・・・・・何ということを・・・・・・」
ドルドが何か言っていたが、ゲドはそんな言葉に興味は持たなかった。怒りも度を超えると、本人に冷静さを与えるようだ。それか自分の迂闊さに対する後悔もあった。
「もういい・・・・・・お前ら、来るんならとっとと来い!」
「そうかい? それじゃあお前ら、ぶっ放せ!」
先頭に立っていた男が脇により、魔道杖や魔道槍を持った魔道士兵が、一斉に杖の先を、銃撃隊のようにゲドに向ける。
そして各々の杖の先端の宝石や鋒が、赤・水・紫・緑など、様々な色で、装飾用の電灯のように輝きだした。
「撃てぇ!」
いくつもの魔力の波紋が、ゲドに向かい合って横一列に次々と発生した。
火炎弾・電光・風の矢・土塊の砲弾、魔道士兵達の各々の得意とする魔法が、次々と発射され、ゲドのいる一点に集中放火された。
耳を塞ぎたくなるほどの爆音が、畑の中心から、雷雲のように高々と鳴り響く。ゲドは攻撃を避けようとは一切しなかった。
そして魔法攻撃のほとんどが、ゲドの小さな身体に命中した。魔法同士が横でぶつかって、いくつか威力が減退した物がある。
だが冒険者を含む傭兵達の中でも、飛び抜けて強い魔力と技量を持った魔道士兵の攻撃。それ一発だけでも、牛を粉みじんに消し飛ばすほどの威力だ。それらがほぼ全てゲドに激突したと言える。
「なんだ~? あいつやる気あったのか?」
あまりにあっけなく着いた勝負に、義手の男がこっちに飛んできた土埃にむせながら呆れて声を上げる。
無数の爆発と衝撃で、周辺の地面が浅いクレーター状に吹き飛び、濃霧のような大量の土埃を発生させた。それのせいでゲドのいた方向の一定範囲の視界が、完全に閉ざされる。
おそらくその土埃の向こうには、骨の欠片も残らず消し飛んだと、誰もが思っただろう。
「うっ!?」
土埃にむせていた男が、今度は突風に煽られ、バランスを崩してあやうく転びそうになる。
突然土埃の中心から、台風のような渦巻き状の突風が、土埃が発生している一定範囲で発生したのだ。こんなこと自然現象ではありえない。
(まさかまだ生きてるのか? しかし何か防御魔法を使ったようには見えなかったが・・・・・・?)
魔法を向けられても無反応だったのが気に掛かっていた。やがて土埃が完全に掻き消えると、そこには傷一つ着いていない、麦わら帽子の少女が無傷で立っていた。
破損しているのは、彼女の足下周辺の地面のみ。衣服に土の汚れがあるが、特に焦げたり破れたりといった様子はない。
ゲドは無表情で、いつの間に抜いたのか、背中に差していた刀を右手に、構えともいえない持ち方で持っている。
「てめえ・・・・・・いったいどんな手を!?」
「何もしちゃいない。ただ立ってただけだ。緩すぎるんだよ、お前らの攻撃はよ!」
あれだけの攻撃が直撃して、全くのノーダメージ。鼻で笑った見下した表情で、傭兵にそう言い放つゲド。すると傭兵達の反応は、動揺から憤怒に変わった。
「なめんなよ! 魔法が駄目なら斬り殺す!」
剣士・闘士などの近接戦スタイルの傭兵達が、一斉に得物を構えた。魔道士達も、杖の先端に強化用の魔力を込める。
魔道士の近接攻撃=魔力撃である。そして皆が一斉に、オオカミの群れのように、ゲドに向かって突撃した。
ゲドは己の刀を、柄を胸の辺りに置き、刃を上空に向けている。そして静かに、その刀身に己の魔法力を注ぎ込む。
この刀は、ただよく斬れて頑丈なだけではない。魔道杖と同じく、魔法の力を増幅させる力がある、魔道剣であったのだ。
刀身がさっきの魔道士達の杖と同じような光色で、紫色に輝き出す。これは雷属性の色だ。
巨大な魔法の稲妻のエネルギーが、ものすごい速さで鋒の方に溜め込まれる。すると集中・膨張した電気の塊が、鋒を中心に生まれ出でた。
それは風船のようにどんどん広がっていく。無数の小さな電光が漏れ出てくる、鋒から生まれた球形の紫色の力の塊。その姿は、巨大な串団子を手で持ち上げているようだ。
なお、最初にこの現象が発生し、雷球が直径三十センチほどの大玉に変わるまでに、二秒もかかっていない。大技の魔法に見えるが、魔法発動までのキャストタイムがあまりに短い。これはゲド自身の肉体の力が関係している。強い肉体を持てば、その分より多くの力の流れを制御でき、短い間隔で魔法を撃てる。
「はっ!?」
「ひぃいいっ!?」
さっきまで獲物を完全に追い詰めた獣のように、余裕たっぷりの表情で突進してきた傭兵達が、一斉に立ち止まる。
距離はまだ半分も詰めてないが、事態の異様さに気づいたのだ。彼らは傭兵業についている者の中でも、それなりに腕の立つ精鋭達である。
熟練の戦士だからこそ、気づくことが出来た。相手の魔力のあまりの強さと、自分たちとの実力差を・・・・・・
「ちょっと待・・・・・・」
一人が焦り顔で、何か言おうとしたが、全ては手遅れであった。ゲドが小さく呟くように、技名を口にする。
「万雷砲・・・・・・・・・」
鋒に持ち上げられた雷球は、一気に外部に大量の電力を放出した。無数の電光が、機関銃のように次々と発射される。
各々一発ずつの見た目は、さっきの魔道士兵の攻撃とあまり変わらないように見えるが、実際の集約されたエネルギーの濃さは、桁外れだ。
それが何十発と、雷球のエネルギーを全て使い尽くすまで、高速で連射される。
傭兵隊達は悲鳴すら上げることすらできなかった。攻撃が自分に当たったと知覚した瞬間に、彼らの現世での意識は消滅したのだから。
廃村の畑の中心で、一撃で竜すら即死させる電光が、全ての傭兵達に直撃した。雷球がどんどん小さくなり、全ての電力を使い尽くして消滅したとき、その場ではゲド以外に人と言えるものは存在していなかった。
畑の中で、火事でも起きたかのように、焦げくさい臭いが充満し、大量の煙が空へと上っていく。大地には黒い炭のような物体が二百個ほど、密集して散らばっていた。
それらはかつてゲドに攻撃を加えていた傭兵達であった。もはや肉も装備も完全に焼けただれ、顔の判別など到底無理だが、かろうじて人型であることが判別できる程度には痕跡が残っている。
ゲドはこの様子をしばらく無表情で眺め、やがて大きく息を吐いて、満足げな表情に転換する。
だがその場に残されたもう一人の人間=ステラは、村の方から一途始終を傍観していた。そしてこの事態に混迷しきっていた。
別にゲドの力に驚いたわけではない。この程度の技は苦になく出来ることぐらい、彼女はとっくに知っている。
(殺しやがった・・・・・・一人残らず・・・・・・。何でよ?)
今まで行っていた冒険者や盗賊とは明らかに違う制裁に、ステラは驚き戸惑っている。
今までゲドは、ワーライトに向かう途中で出会った、ゲド個人にとって因縁あった盗賊を除けば一人も殺していない。
どんなに苛ついた相手でも、四肢を斬って再起不能にしたり、裸で吊し上げて社会的に謀殺したりと、基本的に無殺生を貫いていた。
だが今回は違う。この村の住人のことで、少なからず因縁は出来たが、それは全員ではない。ゲドは敵全員を、素性や所行を把握せぬうちに、あっとうまに皆殺しにしてしまったのだ・・・・・・
ステラはゲドの行為に疑念を感じながらも、戦闘はもう終わったと家の陰から出てきて、チビと共にゲドの方へ歩み出る。
「う・・・・・・・・・がっ・・・・・・」
ステラ達がゲドの元に到着し、ゲドが彼女に首を向けたときのことだった。
突然その場に、ゲドとステラ以外の声が響いた。それは常人ならば聞き逃してしまうほどの、小さく弱々しい声だったが、ゲドの超聴覚はそれを決して聞き逃さなかった。
「驚いたなこれは・・・・・・」
ゲドが眼前に広がっている、人間炭の埋め尽くされた地面に歩み出た。さっきの攻撃で全員が死んだと思われたが、実は一人だけ例外がいたのだ。
人型の黒い塊の中に一つだけ、人間だとすぐに判明できる物体がある。しかもそれは僅かだが動いていた。
あの雷撃の嵐を受けながらも、一人だけ生きている者がいたのだ。ゲドはその人物の目の前まで踏み込んだ。
「お前はドルドだな?」
「えっ!?」
全身重度の火傷を負っていながらも、かろうじて生きながらえて、ゲドの前で仰向けに倒れている人物。
その人物はゲドの問いに対し、ゆっくりと首を縦に振った。ドルドは、ゲドの魔力の強さを感知した瞬間に、即座に防護魔法で身を包んでいた。だがそれでもあの雷撃を喰らって生きながらえている、彼の頑丈さは半端ではない。
ゲドは刀の鋒を、まともに動けない状態のドルドに首元に突きつける。ドルドは何も答えず、ゲドの方が先に口を出した。
「お前は何故、今回の貴族院の依頼を引き受けた? 言っちゃ何だが、俺はちょっとだけあんたに憧れてたんだぜ?(※七話)」
今となっては尊敬など微塵も感じない、完全に相手を侮蔑しきった目で、ゲドは彼にそう問いかけた。
「・・・・・・いや、やっぱいいや。正直もうお前の事なんてどうでもいいし」
だがすぐに思い直すゲド。しかし相手の方は、その問いに応える意思があるらしい。
ドルドはどうにか口を動かし、弱々しい口調で、ゲドに向かって何かを言い出した。
「お前に伝えたいことがある・・・・・・貴族院のガンガル・マーロンが・・・・・・」
「うっせえよ」
ドルドの言葉を最後まで聞かず、ゲドの刀が振り下ろされた。それはドルドの頭をキャベツのように真っ二つにした。
血と脳汁が地面に流れ落ち、ドルドは本当に地面に倒れ伏した。
ドルドにとどめを刺した後は、ゲドは何食わぬ顔で振り返り、村の方に歩き出した。チビもその後に続く。
一方のステラは、呆然となってドルドの亡骸を見下ろしていた。
「何してる? 今日の寝床を決めるぞ。お前もさっさと来い」
「ええ・・・・・・」
ゲドの催促に、ステラは静かに向き直り、ゲドの向かう村の方に戻っていった。




