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第二十話 ムツ村

 大騒動の翌日の午前九時頃。森の中をゲド・ステラ・チビが行軍していた。

緑豊かな広葉樹の葉がいくつも重なって光を遮り、森の中は薄暗い。時折リスやウサギなどの小動物が、彼らの姿を興味深そうに見るが、すぐに飽きてどこかに行ってしまう。


 ゲドが先頭を歩き、その足下にチビが付いてきている。そして後ろの方で、大バケツを載っけた手押し車を、ステラが取っ手を引っ張って後についてきている。

 前のワーライトへの旅路と、全く同じ光景である。


 今のゲドは飛行魔法が使える。目的地があるのならば、そこまで飛んでいけばいい。

 だが何故こんな面倒な移動法を使っているのかというと“敵”を引きつけるためだ。


「ねえちょっと・・・・・・追っ手は今どの辺りに・・・・・・」


 ステラがそう問いかけようとした最中に、質問の意味がなくなった。彼らの遙か後方、距離にして二キロの位置から、騒がしい鳥の鳴き声が聞こえてきたのだ。

 一斉に上空へと飛び上がるカラスの百羽以上の大群は、この距離からでもよく見える。動きはてんでバラバラで、何か不測の事態が起きて、不本意で飛び上がったようだ。


「あっちの方みたいね」

「数は二百人ほど。しかし下手くそな尾行だな。あんな大人数で動いて、気づかれないと思ってるのか?」

「まあ、傭兵ってのは正面からぶつかるのが主な仕事だからね」


 するとゲドは歩きながら右手をかざし、そこから風輪を発射した。全部十発の風の車輪が、森の中へと飛んでいく。

 羽虫の器用に飛び回り、障害物である無数の木々をひょいひょいと避けて、森の奥へと消えていった。


「何したの?」

「傭兵隊ばかりと思ったら油断した。暗殺者らしき奴が数人、森の中を横の方角からこっちに接近していた。この距離まで気配に気づかなったとは、俺も迂闊だったな」


 彼らは貴族院の差し向けた軍勢に追われていた。追われていたといっても、彼らには緊迫感などかけらも持っていないが。


 あの騎士暴力事件は、すぐに憲兵から貴族院に伝わったはず。追っ手はすぐにかかってくるとステラは、とりあえずこの街から出ることを提案したのだ。


 最初は渋っていたゲドだが、戦闘によって起きる街の被害を口にしたら、あっさりと了承した。街中で派手な魔法を使ったら、当然自分の起こした被害が大きくなる。では小技や剣技でだけで戦えば良いのかというと、こんどは敵の放つ魔法の流れ弾で、街が燃えるかも知れないのだ。


 彼らはなるべく人のいないところを目掛けて歩いていた。そこで思う存分、敵軍を蹴散らしてやるつもりだ。だからといって、こんな山奥まで入り込むのは、かなりオーバーだったが。


 追ってくる敵を引きつけながら、やがて目的地へとたどり着く。敵も魔法探知でこっちの位置が判るようで、迷わずについてくる。


 そこは木々が取り払われており、太陽の光がさんさんと照らしている平地である。

 畑の跡らしきものが広がっており、中央には赤い三角屋根に白く塗装された木造建築の家々が、数十軒建ち並んでいた。だがそれらの家は、今は全て無人である。


 ここにはかつてムツ村という小さな村があり、二百人以上の人々が暮らしていた。大都市エイドアの近辺にありながら、あまり険しい山の中にあるために、人の往来は少ない。

 だが村人は、山奧だからこそ採れる、良質の蜂蜜を生産して、それなりに豊かな生活を送っていた。


 だがある日この村に、タイガーソードという勇者の一団が現れる。彼らは村の物資を根こそぎ奪ったばかりか、村人全員をこの土地から追い出した。そしてこの村の建物を、正義の組織の拠点として利用したのだ。

 彼らは以前街の方で、教会にも損失を与えるような少々過度な事件を起こしてしまい、貴族院から注意を受けていた。それゆえに街に居づらくなり、ここに拠点を移したのだ。

 仲間の半数が、国境へ行って仕事に出て、半数がこの拠点に待機していた。


 だがその彼らも、もうここにはいない。仕事に出ていた奴らは、ゲドが働いていたあの砦で壊滅。

 残った奴らは、つい先日ゲドによって全員半殺しにあって、この土地から締め出された。(※十三話)そして今は、実質無人の村である。

 ゲドは一旦ここを自分たちの拠点として、次々と送り込まれるだろう刺客を待ち受ける予定だ。


 畑の中を歩き、中央の民家が集まっている場所に向かう。畑は全く手入れがされておらず、草は伸び放題で、完全に荒れ地である。

 野ウサギが一匹、その荒れ地で暢気にお食事中だ。


「よし、お前は一旦村の中に隠れてろ」

「ええ、そうさせてもらうわ」


 村に入る前に、まず後ろの問題を片付けることにした。畑の上に立ち尽くすゲド。ステラとチビは村の低い木の塀を跳び越えて、村の中に侵入する。

 ステラの視界に、村の中央の広場に設置されている、黒の女神像が映し出された。写真などで記録されているコン本人よりも、遙かに綺麗な顔に作られた美人像。この村は貴族院は嫌っていたらしいが、聖教への信仰はしっかりとあった。


 ステラ達が以前ここに来たときには、この村の住人は完全に勇者達と入れ替わっていた。

 民家からの略奪品であろう品々が、村の倉庫に蓄えられていて、民家の中では勇者達が昼間だというのに酒盛りで盛り上がっていた。他に元は村の住人であったろう、一般人の女性達が、召使いとしてこき使われていた。


 ゲドがほとんどの勇者をなぎ倒し、幹部クラスと思われる者は、四肢を二本ずつ切断して、山の中に放り投げた。

 勇者共がこの村から逃げた後、残った女達に皆この村に戻って大丈夫という旨を告げて立ち去った。


 だが村は今でも無人である。壁に穴があったり、木材が少し焦げていたりと、戦闘による破損部位も、あの時のままだ。

 これはゲドが事前に千里眼で確認していた。住人は新しい生活に移って完全にこの村を放棄したのか、それとも帰れぬ事情があったのか、もしくはもう勇者は来ないという言葉が信用できなかったのか、現時点では判別不可能だ。


 ゲドは広い畑のど真ん中で、仁王立ちで敵の襲来を待ち受ける。ステラも村の方の家の陰に隠れながら、様子を見ている。

 あの大バケツは、石像の前に置いてきた。そう時間がかからず、敵は姿を現した。数はゲドの推測通り二百人程度。畑の上で、合戦の準備のように立ち並ぶ。

 上物の装備を持った、剣士や魔道士がいて、中には地竜に跨がっている者もいる。これだけで相当な精鋭を揃えていることが判る。


「貴様がゲドだな? 政府の命令により、お前を討伐する」


 前に進み出たリーダー格の男が、短くそう告げると、腰の刀に手をかける。ゲドが持っているのと似た形の、細身の刀だ。

 金髪碧眼で、齢は四十前後で。身長はさほど高くないが、その屈強な筋肉と無駄のない歩き方、そして表情の非凡さから、この人物が相当な手練れだと判る。


「ドルド・・・・・・あんたは冒険者の中では、かなりまともな奴だと思ってたぞ。俺の討伐に参加したと言うことは、現状の貴族院のやり方に、お前も賛同したと見ていいのか?」

「!?」


 ゲドの突き刺すような見下すような口調の言葉に、追っ手のリーダー=ドルドが、大きく表情を歪ませる。

 ドルドは冒険者の中では、割と有名な人物であった。彼は勇者を名乗って、民間からの略奪など一切行わない。

 それどころか勇者達の横暴を、何度も制止させたこともあった。貧しくて困った状態にあった人には、かなりの低報酬で仕事を請け負ったりもしたという。


(確か他の傭兵や冒険者達から“勇者狩り”を疎まれて、何か圧力をかけられたって噂だけど・・・・・・)


 村の方から覗いていたステラが、この会話を聞いて最近の彼の噂を思い出す。


 不確定な情報だが、それでここ最近活動を停止していたとか。

 だが今になって、彼は貴族院の手先となって現れたのだ。いったいどういう経緯で、このようなことになっているのか、現状の情報だけでは全く不明である


 まあだからといってなんということはない。今日始めて会った奴の人間性など、ゲドにとっては知ったこっちゃない話だ。


「なっ、嘗めた口を! では貴様のしたことはまともだというのか!? あのような騒ぎを起こして、街にどれほどの混乱を引き起こしたと思っている!?」

「おい、おい、そういうくだらねえ話は止めようぜ~~? とっととこの阿呆なガキを袋にしちまえ!」


 激昂するドルドを横に、別の男が前に出る。右手右足に妙に重厚な鎧をつけた、戦士風の男だ。


 ゲドはその男の顔に覚えがあった。よく見るとあの手足は籠手を付けているわけではない。右手右足が機械仕掛けで動く人口の腕=オートボディという義手&義足に取り替えられているのだ。


 以前あった坊主剣士も、これよりも安価っぽい義手を付けていた。超複雑な金属の電動からくりで動くそれは、義手とは思えないほど自然かつ機敏に動いている。そしてそれらはかつてゲドに斬り落とされた四肢を繋ぐものであった。

 見ると彼以外の傭兵達も、オートボディを身につけている者が多数いた。


「久しぶりだな~~~クソガキ! あの時は、ガキだと思って油断したよ! だが今回はそうはいかねえぜ! 見たか! この面子とこの数を!」

「ああ、見たよ。貴族院もたった一日で、よくこれだけ揃えられたもんだな。というか子供一人に、これだけ本気でかかってきて、お前ら勇者として恥ずかしくないのか?」


 突如現れた腕の立つ勇者狩りに、懸念を示した者達や、ゲドに恨みを抱いた盗賊や冒険者が、続々とエイドアに集まっていたことは既に知っていた。それはゲドが街で騒ぎを起こすよりも前に、既にそういう動きがあったらしい。

 何しろ街道の上を、堂々と空を飛んで移動し、多くの人目を集めていた。それは当然彼らに、自分たちの居場所を宣伝してしまっていた。


「恥ずかしい? どこがだ? 悪を滅ぼすためならば、どんな手段も厭わないのが勇者ってもんだろ?」

「お前らのその義手は、どうやって手に入れた? ちゃんと代金は払ったのか? もう在庫はほとんどないはずだぞ」


 唐突に関係のない質問に移るゲド。

 オートボディは、復元治療ほどではないが、莫大な資金を必要とするはずだ。それ以前にレグン族へ製作依頼ができない今、新規品など入荷しないはずだ。


「ああ、俺の仲間がエイドアの店で、少し“説得”したら、倉庫に残ってた奴を、無料でくれたぜ! ふう、俺たち勇者がどれだけ世間から慕われているか実感できて気持ちいいぜ!」

「馬鹿な真似を・・・・・・」


 ゲドは呆れきった。彼らが言っているのは要するに、エイドアの工業関係で働いている者を脅したということだ。

 街の工業・産業など、貴族や教会に直接損害を与えるような行為は、勇者達にとってもタブーである。彼らのしたことは、その領域を踏み越えている。


「正義はどうあっても挫けないものさ! この新しい腕を手に入れた後、すぐにこの村にいた悪党を退治してやったさ!」

「なにっ!?」


 呆れかえっていたゲドだが、彼の最後の発言には気分が一瞬で変化する。彼女の表情は今までにないほどの焦りが出ていた。

 それに気づいた男は、ニヤリと邪悪な笑みを浮かべる。周りにいた彼の仲間達も、同様の笑みを浮かべて、くすくすと小さな笑い声を何重にも上げていた。ただ一人だけ、ドルドだけが青ざめた表情をしていた。


「お前らこの村の奴らをどうした!? まさか殺してないだろうな!?」


 激昂して叫ぶゲドに、傭兵達は小さな笑いを大きな笑いに転換させた。森中に響き渡るような笑い声が一帯に伝わってくる。


「ぎゃはははははははっ!? 馬鹿か? この世の悪を生かしておく理由がどこにある?」

「あれは良かったよな~~! 悪党共、赤ん坊みたいに泣き叫んで命乞いをしてきやがった! 勇者に楯突いた自分たちの罪を償おうともせずに、とんだクズ共だったぜ!」

「私は少し心が痛みましたね~~~。どんなに汚れた者達でも、幼い子供をこの手にかけてしまったときには・・・・・・。せめて彼らが来世では、少しはまともな人間に生まれ変われることを祈りましょうね~~。くくくくくくっ・・・・・・」


 この件に関わったらしい者達が、思い思いの感想を述べる。その内容に、ゲドは何も口を開くことが出来なかった。


 ゲドはどんな暴行を振るうときも、殺しをなるべくしないように勤めていた。

 その理由はさっさと殺すよりも、相手の心と身体を潰して、生き地獄を与え続けた方が気持ちいいという考えが半分。もう半分は、彼女の中にあった、僅かな良心の呵責であった。

 だが相手もその流儀に付き合ってやる理由などない。


 気に入らない奴に対する容赦ない暴力。そしてその一方での、中途半端な甘さが招いたと事態と言えるだろう。

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