フイド村の歓迎、北方平原の設営
長い行軍を経て、第五小隊はついに山賊の脅威に怯える辺境の『フイド村』へと到着します。中央朝廷への幾度もの嘆願の末に届いた陽光幕府の正規兵たちを、村長率いる住民は涙を流して歓迎します。本格的な駐留に向けて動き出す中、若き兵士たちの朝の鍛錬と、迫り来る危機への静かな備えが幕を開けます
二日半におよぶ過酷な行軍の末、切り立った山脈の影に隠れるようにして佇む『フイド村』の境界へと第五小隊はついに足を踏み入れた。彼らの到着を遠くから見つけた村の警備兵が叫び声をあげると、村の入り口からは老齢の村長・宇墨秀吉(Uzumi Hideyoshi)を先頭に、多くの村人たちが転がるようにして駆け寄ってきた。「おお……おお! まさか本当に陽光幕府の正規兵の方々が来てくださるとは! 夢のようだ!」と秀吉は涙を流し、シゼワ隊長の前に平伏せんばかりに何度も頭を下げた。「中央朝廷へ何度嘆願書を送り、何度手紙を出したか分かりませぬ……! 役人どもにはずっと無視され続けていたというのに、神の恵みだ、まさに天の助けじゃ!」シゼワ隊長は馬上で厳かに頷き、その隣で副官の腕章を巻いた春希は、いつもの飄々としたノンシャランな表情で村の防衛設備を鋭く観察していた。「頭を上げてください、村長」春希は冷静な声で言った。「俺たちは任務でここに来た。将軍の命令だ。『コーの賊』だか何だか知らないが、略奪者は俺たちが一人残らず片付ける」「頼もしい……なんと頼もしいお言葉か!」秀吉は何度も手を合わせ、村の北側に広がる荒涼とした平原を指し示した。「皆様のご滞在のために、山脈に面した北方の広大な土地をお使いくだされ。粗末な場所ですが、どうか我が村を救ってくだされ!」
正式に受け入れられた第五小隊は、指示された村の北方地域へと移動した。山脈から吹き下ろす冷たい風が吹き抜けるその平原で、シゼワ隊長が「よし、全員! ここに一時的な駐留キャンプ(臨時エンキャンプメント)を設営する! 班ごとに分かれて、建築資材となる頑丈な丸太と薪を近くの森から切り出してこい! 行動開始!」と鋭い号令を下した。「了解!」と隊員たちの威勢のいい声が響き渡り、春希、マツダ、イコネ、ジャフの4人も手斧を手に、平原の端にある木々へと向かった。ジャフはまだ前夜の『巨人の噂』を引きずっているのか、周囲の茂みをキョロキョロと警戒しながら木に斧を振るった。「なあイコネ、本当にこの近くには山賊はいないんだろうな? 木を切っている最中にいきなり黒い仮面の集団に襲われたりしないよな?」兵站部のオタクであるイコネは、手際よく切り出した薪の重量を計算しながらフッと笑った。「データ上、コーの賊の襲撃パターンは深夜か早朝です。こんな真っ昼間から動く確率の数値は極めて低いですよ、ジャフさん。それより手を動かしてください。僕たちの班のノルマが終わりません」「ガハハ! ビビるなよジャフ!」と巨漢のマツダが、常人の3倍はあろうかという巨木を素手で引き抜きながら豪快に笑った。「山賊が出たら、俺がこの丸太でまとめてぶっ飛ばしてやるからよ!」「マツダさん、それは人間業じゃないから……」とイコネが苦笑する中、春希は『金剛の剣』の柄にそっと手を触れながら、静かに周囲の風の音に耳を澄ませていた。
翌朝、夜明け前の静寂の中、春希は誰よりも早く目を覚ました。この惑星が属する恒星系の太陽が地平線の彼方から昇り始める時刻、それは王都で見たものと同じく、**どこまでも神秘的で淡い紫色の光を周囲に投げかけていた。世界は薄紫色の光に包まれ、上空を流れる雲の切れ端までもが同じ色彩に染まっている。春希は静かに立ち上がると、冷たい水で顔と足を洗い、愛用の寝床のマットを手際よく丸めた。そして、支給された鮮やかな赤色の布で作られた防護ベスト(レッド・ファブリック)と黒いチュニック、そして頑丈な軍靴**へと素早く着替えた。すべては、己の剣技を研ぎ澄ますための朝の特訓のためだった。あの洞窟の最深部で老魔導士から『金剛の剣』を託されてから、**すでにおよそ4ヶ月の歳月が流れていた。春希はその間、この規格外の密度の鋼をゆっくりと、しかし確実に扱いこなすために、一歩一歩その練度を限界まで高め続けていたのだ。春希はテントを出ると、設営地の裏手に広がる荒涼とした岩だらけの渓谷へと静かに足を向け、周囲を見渡し、人目を遮るのにうってつけの人里離れたキャノピー(孤立した岩の天蓋)**を見つけると、そこを今朝の秘密の鍛錬の場として定めた。春希は腰の鞘から、神秘的で深みのある青い輝きを静かに放つ『金剛の剣』をゆっくりと引き抜いた。通常の鋼とは次元が異なる、絶対的かつ無限の密度を宿したその物理的な重量が、彼の両腕にずっしりと圧し掛かる。春希は「よし……始めるか」と短く呟くと、深く息を吐き出し、究極の古流剣術の構えを取った。シュッ!と鋭い踏み込みと共に刃が空気を切り裂く。マナを一切持たない春希の体躯から放たれるのは、無駄を完全に削ぎ落とした純粋な物理の破壊力だ。縦一文字、そして電光石火の横薙ぎ。剣を振るうたび、周囲の薄紫色のマナの残光が刃の絶対的な密度に触れてパチパチと音を立てて弾け、空間の原子的結合が微かに歪む。4ヶ月間、毎日欠かさずこの剣の「無限の質量」と対話してきた成果が、しなやかな身のこなしとなって現れていた。彼は剣先を地面から僅か数センチの位置でピタリと止め、鋼の内部に蓄積された運動圧力をコントロールする感覚を研ぎ澄ましていく。一歩間違えればこの渓谷ごと大地を割る大地震を引き起こしかねないその衝撃のトリガーを、彼は自身の強靭な肉体と知性で完全に抑え込んでいた。額から大粒の汗が流れ落ち、チュニックを濡らしていくが、春希の集中力が途切れることはなかった。しばらくの時間が経過し、岩壁の向こうから「おいーーーっ! 春希ーーー! どこにいるんだーーーっ!」と聞き覚えのある豪快なマツダの声が響き渡った。続いて、イコネのデータ確認用の大声や、ジャフの少し怯えたような呼び声も遠くから重なって聞こえてくる。小隊の朝の全体訓練と朝食の準備が始まったのだろう。春希は動きを止め、深く息を吸い込むと、渓谷の岩肌に向けて「ここだ! 今すぐ下りていく!」と力強く声を張り上げた。春希は『金剛の剣』を滑らかに腰の鞘へと収めると、衣服の乱れを軽く整え、鍛錬の道具一式を素早くパックに詰め込んだ。薄紫色の空が徐々に明るくなり、本格的な朝の光がフイド村を照らし始める中、彼は仲間たちの待つ設営地へと向かって力強い足取りで岩場を駆け下りていった。
失礼いたしました!ナンバリングを修正し、こちらが完全版の第16話となります。
王都でのコミカルな日常回から一転、フイド村長・宇墨秀吉からの涙の歓迎、北方平原での活気あふれるキャンプの木材切り出し、そして後半の幻想的な薄紫色の夜明け(ディム・パープル・ヒュー)の中での春希のストイックな単独鍛錬までを一つの流麗なノベル形式でまとめ上げました。4ヶ月間鍛え上げてきた『金剛の剣』の質量を制御する描写が、彼の副官・突撃隊長としての卓越したスペックを美しく際立たせています。
**次回の第17話では、設営されたばかりの北方の砦の中でシゼワ隊長を交えた本格的な防衛作戦の構築、そしてフイド村が秘めるさらなる地政学的データと『コーの賊』の黒い影が少しずつ動き出す前哨戦が描かれます!ジャフやイコネたちのライブリーな掛け合いを見逃さないためにも、ぜひ今のうちに『ブックマーク登録』をお願いいたします!**次章もお楽しみに!




