第7話 遺跡攻略その1
◇◇◇
〜ダファナディール郊外 森林〜
裂け目を抜けると森林に着いた。とりあえず例の宝剣が眠っている遺跡を探さないとな。
「遺跡ってどこにあるんだ?」
「多分、あれね」
ニトが指さすその先にあったのは、ただの岩だった。こいつは何を言ってるんだ? 異世界に来たばかりで何も分からないけれど、あの岩が遺跡な訳がない。流石にそれは分かる。
「あの岩、どう見てもただの岩だろ」
「近づいてみなさいよ。話はそれから」
ニトはそう言って、スタスタとその岩に向かって歩き出した。半信半疑ながらも後を追う。近づけば近づくほど、ただの岩にしか見えないそれは、やっぱりただの岩にしか見えなかった。
だが――――あと数歩、という距離まで来た時だった。
空気が、歪んだ。
「……なんだこれ?」
目の前の岩の表面が、水面みたいにゆらりと揺れる。さっきまで固体だったはずのそれが、まるで触れれば沈みそうな液体のように波打っていた。
「結界ね。認識阻害と侵入制限がかかってる。普通の人間にはただの岩にしか見えないし、触れようとも思わない」
「いやいや、思いっきり触ろうとしてるけど俺」
「あなたが異世界人だからでしょ。そういうの効きにくいんじゃない?」
なるほど、チート主人公補正ってやつか? 便利だなオイ。
「じゃ行くわよ」
ニトは躊躇なく、その《《岩》》に手を突っ込んだ。ずぶっ、と華奢な腕が飲み込まれていく。見た目が見た目だけに普通に怖い。
「おい待てよ、ほんとに大丈夫なのかよ?」
「来れば分かるって言ってんでしょ」
軽いなコイツ。だがここでビビってても仕方ない。俺も覚悟を決めて、その岩に手を伸ばした。
――――冷たい。
触れた瞬間、ぞわっと鳥肌が立つ。だが抵抗はない。そのまま腕が沈み、体ごと引き込まれる感覚に襲われた。
◇◇◇
〜遺跡内部〜
視界が反転した。次の瞬間、俺とニトは石の床の上に立っていた。
「ここが遺跡の中ねぇ」
周囲を見渡す。そこはさっきまでの森とはまるで別の場所だった。苔むした石壁、崩れかけた柱、天井は高く、所々崩れて光が差し込んでいる。完全に遺跡だな。
「依頼内容によるとこの遺跡の最奥に宝玉があるらしいんだけど、気になる事があるのよね」
「気になること?」
「宝玉ってさ、実際にあるかどうか分からないのよね」
「え?」
思わず間抜けな声が出た。いやいやいや、ちょっと待て。
「いや、依頼に《《ある》》って書いてあったじゃん」
「《《あるらしい》》って情報が回ってきただけよ。遺跡系の依頼はね、半分くらいは噂とか伝承が元なの」
「半分ハズレってこと!?」
「そういう事になるわね」
なんだそれ、ギャンブルすぎるだろこの仕事。命張ってハズレ引いたらどうすんだよ。
「じゃあこの依頼もハズレの可能性があるってことか……?」
「あるわね。しかも報酬が高すぎる依頼は大体なにかある」
やっぱり闇バ〇トじゃねぇかこれ。
「なぁ、今からでも帰れたりしないのか?」
「無理ね。依頼受けた時点で途中放棄はペナルティよ。最悪、ギルド出禁」
「詰んでんじゃねぇか」
ため息をついたその時だった。
――――ザリッ。
「……っ」
背筋に嫌な感覚が走る。
「ニト、今のは……?」
「えぇ、感じたわ」
空気が変わる。遺跡の奥、暗闇の先から何かが《《見ている》》足音はしない。だが確実にいる。
「……宝玉があるかどうか分からないって話、訂正するわ」
「は?」
「宝玉は確実にある。いや、ちゃんと言うならそれっぽいオーラを感じる」
ゴクリ、と唾を飲み込む。
その瞬間――――
ドンッ!!
地面が揺れた。
崩れかけていた柱の影から、それは現れた。
影。人型に近いが、腕が異様に長く、背中からは黒い霧のようなものが噴き出している。顔は……無い。ただ空洞がぽっかりと空いていて、その奥が揺れていた。
「……なんだ、あれ?」
「あれが魔物。あなたがこれから戦っていくやつらよ」
嘘だろ、現世に帰るにはこいつらと戦わないと行けないのか……? こんな威圧感を感じるのは初めてだ、体の穴という穴から汗が吹き出る。心臓の鼓動がどんどん、どんどんどんどん早くなっていく。見てはいけない物を見た時の感情とは、正にこんな感じなんだろう。見たくもないのに目が離れない。体も動かない。ど、どうすればいいんだ……?
「な、なぁ……やっぱ帰ろうぜ……どうやって出るんだ? ……ここはよ」
「出れるは出れるんだけど……あなた、現世に帰りたいんでしょ? こんなやつにビビってたら帰れるもんも帰れなくなるわよ?」
「でもよ、こんなんに勝てる訳ねぇって……」
声が震える。情けないくらいに。しかし、その言葉が本音だった。目の前の魔物は今まで見てきた何よりも《《やばい》》。理屈とかじゃなくて、俺の本能が逃げろと叫んでいる。
「……そう」
俺が恐怖に震えてると、ニトは短くそう言って、1歩前に出た。
「なら、出てけばいいわ」
「……え?」
「遺跡から出て、何もせず、何も変わらず、元の世界に帰れないままに終わる。それでもいいならね」
それは実に冷たい声だった。俺を突き放すような、でも――――どこか、俺を試すように。
「あたしは止めないわ。あなたがどうするかは、あなた自身が決めなさいよ」
そう言うと、ニトの左手が光り輝いた。遺跡の暗闇を照らすように、眩しいくらいに光り輝いた。その瞬間、光は弓の形に変形し始めた。そこから数秒経ち、光は収まった。ニトの左手には弓が握ってあった。これが、ニトの特異能力、天弩というやつなんだろう。
俺を見ないまま、ニトは戦闘を開始しようとしている。完全に俺に選ばせている。
「……あークソ」
なんだよそれ……選べって言われて、直ぐに選べるほど俺は強くねぇぞ。……でも、おれの頭の中に浮かぶ。元の世界、退屈な日常、何も変わらない日々。それに、帰れないって言葉が。
震えていた手を無理やり握り込む。足だってまだガクガクしてる。でも、それでも――――
「……やるしかねぇんだろ」
そう呟いた瞬間、目の前の化け物がゆらりと揺れた。やつも、もう襲いに来るのだろう。
「ホタル」
「分かってるよ!」
叫ぶ。恐怖は全然消えない。むしろ、さっきより怖い。それでも、もう逃げないと決めた。
「虫喰ァ!」
体が変形し始める。青黒い外殻が背中と右腕を覆い、すこし感覚が鋭くなっていく。さっきまで感じていた恐怖が、少しだけ遠くなっていく。
「やる気になったのね。じゃあ、あいつ倒してきて。あれでも弱い魔物だから死ぬことは無いわよ」
「言われなくても……!」
今の俺なら、虫喰で強化されたはずの俺なら、あんなやつ直ぐに倒してやる。覚悟を決め、さぁ行くぞと意気込んだその時、魔物はゆらりと揺れ俺たちの目の前から消えた。
次の瞬間、魔物は俺の目の前に現れた。鈍い衝撃と共に。
第7話 遺跡攻略その1 完。




