第85話 Bランクの迷宮は、祝いの前に牙を数える
Bランク。
その文字は、しばらく白い部屋に残っていた。
余は新聞を見下ろしながら、もう一度だけ確認した。
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【ランク再判定結果】
迷靄洞
旧評価:Cランク
新評価:Bランク
正式昇格。
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「……本当にBランクか」
《はい》
「取り消しなどは」
《ありません》
「あとから“やっぱり相当でした”などと」
《ありません》
「新聞が余をからかっておる可能性は」
《低いです》
「低い、ではなく、ないと言え」
《ありません》
「よし」
余は、できるだけ重々しく頷いた。
できるだけだ。
本当は少し浮かれていた。
Eランクの最弱洞窟から始まった。
最初の魔物候補は、ゴブリン、洞窟ネズミ、ポフキノコ。
余は何も分からぬままゴブリンを選び、コア近くに十匹、入口近くに十匹置いた。
そして、ゴブリンどもは小便をした。
迷宮の床で。
余の体の上で。
あのときの余は、勇者でも英雄でもなく、ただの慌てた新米ロードだった。
それが今、Bランク。
白磁庭園騎士を喰い、枝核を吸収し、白灰庭区画まで得た。
「ふふ」
《笑っています》
「笑っておらぬ」
《笑っています》
「これは王者の余裕だ」
《直前まで何度も焦っていました》
「余裕のある者ほど、焦り方も上手い」
《意味不明です》
「黙れ」
だが、長く浮かれている暇はなかった。
白い部屋の中央に、新しい表示が開いた。
《Bランク昇格報酬を表示します》
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【Bランク昇格報酬】
解放項目:
一、新規区画拡張
・白灰庭区画
・第二層深部拡張
・外縁支配域の限定操作
二、新規罠系統
・白灰床
・白輪郭縫い
・光返し湿灰
・白磁片誘導路
三、新規魔物候補
・湿骨兵
・霧喰い大蛾
・泥甲ゴブリン
・苔灰巣母
・白灰庭番
・灰灯喰い蟲
四、既存魔物進化候補
・グズ:泥砕門将
・影縫い大蜘蛛:白影糸変質
・影縫い罠師カゲヌイ:白縫い針獲得
・赤錆噛みネズミ:赤錆噛み鼠群化
・アンデッドゴブリン:白骨灰兵化候補
五、迷宮外交権限
・Bランク以下のロードへ正式返書可能
・迷宮間取引枠拡大
・新聞広告欄、低額利用可
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「新聞広告欄とはなんだ」
《ダンジョン新聞内に、他ロード向けの募集や取引告知を掲載できます》
「余が広告を出すのか?」
《はい》
「“迷靄洞、白磁片売ります”などと?」
《可能です》
「急に俗っぽいな、Bランク」
《迷宮運営には宣伝も含まれます》
「嫌な現実を言うな」
だが、悪くない。
白磁庭園騎士の素材は多い。
白磁槍。
破損花弁盾。
白磁根片。
白磁化した影糸。
白輪郭残滓。
全部、他のロードから見れば珍品だろう。
売るか。
交換するか。
餌にして誰かを釣るか。
Bランクになるとは、こういうことか。
ただ強くなるだけではない。
取引できる相手が増える。
狙ってくる敵も増える。
こちらから仕掛けられる手も増える。
「……忙しくなるな」
《はい》
「まずは配下だ。戦利品より、傷の確認」
《了解》
・
・
・
第一層の奥、白灰庭区画。
そこは、もう先ほどまでの白磁庭園ではなかった。
白い陶器の床に、湿灰が染みている。
白い柱の根元には苔が生え、壁には灰色の水滴が浮いている。
美しい。
だが、清潔ではない。
整っている。
だが、安心できない。
白磁庭園が作った庭ではない。
迷靄洞が喰って作り直した、汚れた白い庭だ。
そこに、グズが座らされていた。
「ギィ……」
額と腕に白い痕が残っている。
苔灰ゴブリンたちが、白磁化した部分を削り落とした後だ。
傷口には湿灰と苔灰を混ぜたものが塗られている。
痛そうではある。
だが、目はぎらぎらしていた。
「グズ」
「ギ」
「よくやった」
「ギ……!」
グズが胸を張ろうとして、肩の傷に響いたのか、変な声を出した。
「無理をするな。お前は今回、白磁庭園騎士の盾を割った」
《条件を満たしています》
「進化候補か」
《はい》
表示が出る。
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【個体進化候補】
対象:グズ
現在:泥門番長ゴブリン
進化候補:泥砕門将グズ
必要素材:
・重錆鎧片
・破損花弁盾片
・白灰庭区画の湿灰
・戦闘損傷記録
・ソウル120
進化効果:
・門番能力上昇
・盾、鎧、障壁破壊適性上昇
・下位ゴブリンへの簡易指揮付与
・白灰庭区画での耐性上昇
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「ソウル120か」
《現在ソウル残量、十分です》
「なら、やる」
《即決ですか》
「今回の戦いで一番前に出たのはグズだ。報酬は必要だろう」
それに、門番の強化は迷宮の土台だ。
Bランクになった以上、敵はさらに硬くなる。
盾持ち。
騎士。
結界使い。
他迷宮の装甲魔物。
そういう連中を叩き割る役がいる。
「グズ、進化するか」
「ギ?」
「今より強くなる。痛いかもしれぬ」
「ギィ!」
「たぶん分かっておらぬな」
《理解度は低いです》
「だが、やる気はある」
白灰庭区画の床が、湿った音を立てた。
重錆鎧片。
破損花弁盾片。
湿灰。
それらがグズの周囲に集まる。
《ソウル120を消費します》
《個体進化を開始》
グズの体が震えた。
泥が盛り上がる。
肩の傷に白灰が入り、肉の隙間を埋める。
腕が太くなる。
背が少し伸びる。
額の白磁痕が、角のような硬い突起になって残る。
手には、棍棒ではなく、重錆と白磁片が混ざった巨大な打撃具が形成された。
美しくない。
重い。
いびつ。
そして強い。
《進化完了》
⸻
【進化成功】
グズ
泥門番長ゴブリン
↓
泥砕門将グズ
新能力:
・門砕き
・盾割り号令
・泥壁踏破
・白灰耐性
・下位ゴブリン簡易指揮
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「ギィィィィィ!」
グズが吠えた。
その声に、周囲のゴブリンたちがびくっとして、一斉に背筋を伸ばした。
……いや、背筋と言えるものがあるかは怪しいが、とにかく整列しようとした。
数匹は逆向きに並んだ。
一匹は小便しようとして、グズに睨まれて止めた。
「おお」
《下位ゴブリンへの指揮効果を確認》
「ついに小便を止められるゴブリンが生まれたか」
《評価点はそこですか》
「かなり重要だろう」
グズは新しい打撃具を肩に担ぎ、白灰庭区画の入口に立った。
ただのゴブリンではない。
門を守る者。
門を砕く者。
迷靄洞の前衛大将。
泥砕門将グズ。
「よい」
余は頷いた。
「次に硬い奴が来たら、盾ごと叩き潰せ」
「ギィ!」
次は、カゲヌイだった。
影縫い罠師カゲヌイは、白灰庭区画の境目にしゃがんでいた。
折れかけた骨針を、じっと見ている。
今回、最も新しい仕事をしたのはカゲヌイだ。
黒い影ではなく、白い輪郭を縫った。
あれがなければ、白磁庭園騎士は止まらなかった。
「カゲヌイ」
小さな罠師が顔を上げる。
「骨針を出せ」
カゲヌイは、折れかけた骨針を両手で差し出した。
《装備強化条件を満たしています》
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【装備強化】
対象:影縫い罠師カゲヌイ
強化装備:白縫い針
必要素材:
・白磁化した影糸
・白輪郭残滓
・破損花弁盾の薄片
・ソウル45
効果:
・白い輪郭を縫える
・光で生じる境界を罠化できる
・白灰床との連携強化
・白磁系対象への拘束成功率上昇
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「やる」
《ソウル45を消費します》
白い糸片と花弁盾の薄片が、骨針に巻きつく。
黒かった針の先に、細い白線が入った。
完全に白いわけではない。
黒い骨針の中に、白い筋が通っている。
それが、カゲヌイらしい。
《白縫い針、獲得》
カゲヌイは針を握ると、白灰庭区画の床の境目へ軽く刺した。
す、と入った。
今度は弾かれない。
白い床と灰の床の境目に、細い縫い目が浮かぶ。
「よし」
余は満足した。
「これから人間が白光を持ってきたら、その光の輪郭を縫え」
カゲヌイは小さく頷いた。
おそらく意味は半分も分かっていない。
だが、針の使い方は分かっている。
それでいい。
罠師は、言葉より縫い目で語る。
次に、影縫い大蜘蛛。
大蜘蛛は天井に張りついたまま、疲れたように脚を折っていた。
糸を使い切ったせいで、動きが鈍い。
《影縫い大蜘蛛、白影糸変質条件を満たしています》
「やる」
《確認が早いです》
「今回の報酬会だ。出し惜しみせぬ」
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【変質強化】
対象:影縫い大蜘蛛
強化:白影糸変質
必要素材:
・白磁化した影糸
・白灰庭区画の壁糸
・白輪郭残滓
・ソウル70
効果:
・白い床上でも糸の存在を維持
・光に照らされた場所の輪郭へ糸を張れる
・白灰庭区画内で糸耐久上昇
・カゲヌイの白縫い針との連携強化
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《ソウル70を消費します》
天井の大蜘蛛の腹部に、白い筋が走った。
黒い体に、細い白線。
毒々しいほど美しい。
大蜘蛛が試しに糸を吐く。
それは黒い糸ではなかった。
黒の中に白い芯がある。
白い床の上に落ちても、硬化しない。
むしろ、床の輪郭に絡みついた。
《白影糸、発現》
「よし。白い場所でも戦えるな」
大蜘蛛が脚を鳴らした。
誇らしげだった。
たぶん。
蜘蛛の表情は読みにくい。
強化はこれだけでは終わらない。
Bランクになった以上、新しい魔物も必要だ。
だが、何でもかんでも取ればいいわけではない。
迷宮には収支がある。
ソウルも、区画も、役割も限りがある。
余は表示された新規魔物候補を見た。
⸻
【新規魔物候補】
湿骨兵
霧喰い大蛾
泥甲ゴブリン
苔灰巣母
白灰庭番
灰灯喰い蟲
⸻
「迷宮の穴を埋めるなら、どれだ」
《現状の不足は三点です》
《一、対集団戦の中衛》
《二、白光・火対策》
《三、迷宮内の生態系維持と増殖基盤》
「全部欲しいな」
《ソウルには限りがあります》
「急に現実を刺すな」
まず、湿骨兵。
アンデッドゴブリンより硬く、隊列を組める骨兵。
悪くない。
次に霧喰い大蛾。
霧や光を食うなら、白光対策になる。
泥甲ゴブリン。
グズの配下にできる前衛。
苔灰巣母。
ゴブリンやネズミとは別に、苔灰系の小魔物を増やす巣の母体。
白灰庭番。
白灰庭区画専用の守備魔物。
灰灯喰い蟲。
灯り、白光、魔術光を喰う蟲。
「……灰灯喰い蟲だ」
《理由は?》
「人間側は次、白光と火を持ってくる」
《汚染された再評価記録による誘導ですね》
「そうだ。なら、光を食う魔物が先に要る」
《灰灯喰い蟲を選択しますか》
「選択だ」
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【新規魔物取得】
灰灯喰い蟲
必要ソウル:60
特徴:
・光源に寄る
・白光、松明、魔術灯の光を吸う
・直接戦闘力は低い
・吸収した光を一時的に灰色の霧として吐く
・白灰庭区画と相性良好
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《ソウル60を消費します》
白灰庭区画の柱の影から、小さな蟲が這い出した。
蛾と甲虫の間のような形。
体は灰色。
腹の奥だけ、ぼんやり白く光っている。
一匹ではない。
最初から十数匹いる。
小さい。
弱そう。
だが、こいつらは戦うための魔物ではない。
光を殺すための魔物だ。
灰灯喰い蟲の群れが、白灰庭区画の白い床に残った光を吸い始めた。
白かった床が、少しだけ鈍くなる。
《灰灯喰い蟲、定着》
「よし。次に白光使いが来たら、光ごと喰え」
蟲たちは返事をしない。
ただ、ちかちかと腹を光らせた。
「……少し可愛いな」
《感性の確認が必要です》
「うるさい」
そこへ、ダンジョン新聞がまた震えた。
号外ではない。
通常欄の端に、新しい記事が浮かぶ。
⸻
【迷宮間通信欄】
Bランク昇格を確認した周辺迷宮より、迷靄洞宛てに三件の接触申請あり。
一、赤剣洞
二、苔冠沼
三、骨鳴墓窟
⸻
「来たか」
《迷宮外交権限の拡張により、正式返書が可能です》
「赤剣洞は分かる。苔冠沼も取引相手だ。骨鳴墓窟は?」
《周辺Bランク相当の死霊系迷宮です》
「死霊系」
《アンデッド運用、骨兵運用に長ける迷宮と推定》
「湿骨兵の話を聞けるかもしれぬな」
新聞の三つの記事が、順番に開いた。
⸻
【赤剣洞より】
迷靄洞、Bランク昇格を確認。
白磁庭園騎士撃破の件、興味深い。
赤剣洞は約定通り、迷靄洞を周辺有力迷宮として扱う。
なお、白磁素材の一部を希望する。
代価として、赤熱罠石または剣奴ゴブリンの訓練法を提示可能。
⸻
「赤剣洞らしいな。すぐ素材を欲しがる」
《返書しますか》
「後でだ」
次。
⸻
【苔冠沼より】
白いものを喰ったと聞いた。
白灰庭区画、苔との相性を確認したい。
苔冠沼は、苔灰巣母の育成泥を提供可能。
代価として、白磁根片を少量求む。
⸻
「苔冠沼は相変わらず湿っておるな」
《取引価値は高いです》
「苔灰巣母は欲しい。保留だ」
そして、三つ目。
⸻
【骨鳴墓窟より】
新参Bランク迷宮、迷靄洞へ。
白磁庭園騎士を倒した実績を確認。
貴迷宮は死体再利用を行うと聞く。
その運用、稚拙なり。
骨の使い方を学ぶ気があるなら、墓窟の試し骨を送る。
ただし、代価として貴迷宮の“追跡者”の情報を求む。
⸻
余は、目を細めた。
「こいつ、いきなり喧嘩を売っておるのか?」
《文面上、挑発の可能性があります》
「追跡者の情報を求める、だと?」
《はい》
「断る」
《即答ですか》
「追跡者は迷靄洞の最強枠だ。情報を売るわけがない」
だが、骨の使い方を学ぶ価値はある。
アンデッドゴブリンを白骨灰兵へ進化させるなら、骨鳴墓窟の技術は使えるかもしれない。
ただし、相手は明らかにこちらを下に見ている。
Bランクになったばかりの新参。
白磁騎士を倒したが、死霊運用は素人。
そう思っている。
「よし」
《返書しますか》
「する」
《内容は?》
「こうだ」
余は新聞へ向けて告げた。
「骨鳴墓窟へ。追跡者の情報は渡さぬ。骨の使い方を教えたいなら、試し骨だけ送れ。代価は白磁化したアンデッド片を渡す。こちらの骨が稚拙かどうかは、見てから鳴け」
《そのまま送信しますか》
「……少し整えろ」
《了解》
新聞の文字が勝手に整った。
⸻
【迷靄洞より骨鳴墓窟へ】
追跡者に関する情報提供は拒否する。
代価として、白磁化したアンデッド片の提供は可能。
貴迷宮の試し骨を受け取り、骨運用の差異を確認したい。
その上で、今後の取引可否を判断する。
⸻
「余の言い方より偉そうになっておらぬか?」
《Bランク迷宮として妥当です》
「ならよい」
送信。
新聞の文字が黒く滲んで消えた。
Bランク。
それは、敵を倒して終わりではない。
敵と取引し、敵を利用し、敵に舐められぬように言葉でも殴る段階だ。
面倒だ。
だが、悪くない。
そのとき、フィルエから通信が来た。
『迷靄洞』
「どうした」
『森の外に、人間が戻ってきた』
「早いな」
『まだ入ってこない。遠くから見てる。白い騎士が倒れたのを、たぶん感じたんだと思う』
「数は?」
『少ない。三人。たぶん偵察』
「装備は」
『白い灯りを持ってる』
余は笑った。
「来たか」
《人間側、白光対策班の先遣と推定》
「こちらはちょうど、灰灯喰い蟲を得たところだ」
白灰庭区画で、灰灯喰い蟲たちが腹をちかちかさせる。
カゲヌイの白縫い針が、境目に細い糸を残す。
影縫い大蜘蛛の白影糸が、白い床の上でも消えずに揺れる。
グズは新しい打撃具を担ぎ、入口側へ歩き出した。
「ギィ」
「待て。お前はまだ傷が残っている」
「ギィィ」
「……分かった。入口には立て。ただし突っ込むな」
グズは満足げに鼻を鳴らした。
こいつ、進化して少し偉そうになったな。
まあよい。
門将なら、それくらいでいい。
「フィルエ」
『うん』
「その三人、まだ殺すな」
『私は殺さないよ』
「そうだった」
つい迷宮基準で言ってしまった。
『どうするの?』
「入らせる」
余は監視面に、白灰庭区画を映した。
「人間どもは、白光が有効だと思って来る。なら、白光を使わせる」
『それ、危なくない?』
「昨日までならな」
余は笑った。
「今は違う。光れば、輪郭が出る。輪郭が出れば、縫える。灯れば、蟲が喰う。白くなれば、余の庭になる」
白い部屋に、管理音声が静かに告げる。
《新規迎撃態勢を構築しますか》
「構築だ」
余は命じた。
「第一層入口に、白灰床を薄く敷け。見た目はただの乾いた床でいい。白光を当てた瞬間、輪郭が浮くようにしろ」
《了解》
「カゲヌイは白縫い待機。大蜘蛛は白影糸を天井に薄く張れ。灰灯喰い蟲は灯りに寄れ。ただし、最初は食い尽くすな。少しずつ暗くしろ」
《了解》
「グズは入口の奥。相手が盾を出したら割れ」
「ギィ!」
「マネは、白磁庭園騎士の割れる音を覚えたな?」
「ギ」
「なら、それを使え。白光持ちに“何かが割れている”と思わせろ」
全員が動く。
Bランクになった迷靄洞が、初めて新しい牙を並べる。
白灰庭区画。
白縫い針。
白影糸。
灰灯喰い蟲。
泥砕門将グズ。
そして、余。
もう、Eランクの小さな洞窟ではない。
だが、油断はしない。
攻略されれば、存在ごと消える。
それはBランクになっても変わらない。
だからこそ、殺す。
喰う。
強くなる。
『迷靄洞、三人が入口に近づいてる』
「よし」
余は白い部屋の監視面を見た。
人間の偵察三人。
手には白い灯り。
顔には緊張。
足元には、余の新しい庭。
「入れ」
余は低く告げた。
「Bランクの迷宮が、どう変わったか教えてやる」




