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第83話 白い庭は、境目から腐る

白い槍が、振り下ろされた。


 それは速かった。


 人間の剣士の踏み込みとは違う。


 赤甲鎧鬼の重量任せの一撃とも違う。


 まるで、庭師が枝を落とすような動きだった。


 余計なものを切る。


 乱れたものを整える。


 ただそれだけの動きで、迷靄洞の第一層が裂かれた。


《第一層、床面損壊》


《白磁化進行》


《追跡者、右腕損傷》


 追跡者が槍を受けた。


 だが、受けきれない。


 錆びた太刀が半分白く固まり、右腕の鎧袖ごと弾かれる。


 追跡者の体が湿灰の上を滑った。


「追跡者が押されるか……!」


 だが、完全には倒れていない。


 落武者の影は、片腕をだらりと垂らしたまま立っている。


 その片目だけが、白磁庭園騎士を追っていた。


 こいつは追う。


 腕が壊れても。


 太刀が欠けても。


 迷宮内にいる限り、敵を追う。


「下がるな。だが、死ぬな」


《命令矛盾》


「死なずに追え!」


《追跡者、行動継続》


 白磁庭園騎士は、追跡者を仕留めに行かなかった。


 やはりだ。


 こいつの目的は、個体撃破ではない。


 迷宮そのものを庭に変えること。


 迷靄洞の床、壁、影、湿り、死骸、罠。


 それらを白く固め、白磁庭園の形式に並べ直す。


 つまり、余を殺す前に、余の体を奪うつもりなのだ。


「余の体を勝手に模様替えするな……!」


《白磁庭化率、第一層三十二パーセント》


「数字にするな! 腹が立つ!」


 白い光が広がる。


 床が硬くなる。


 戻り水が止まる。


 影縫い大蜘蛛の糸が、触れた端から白い陶片になって落ちる。


 カゲヌイの骨針も、黒い影には入らない。


 だが、さっき一度だけ入った。


 白と灰の境目。


 そこだけは、針が通った。


「境目だ」


《はい》


「白磁庭園騎士は、すべてを白く変える。だが、一瞬で全部は変えられない。白くなった場所と、まだ灰の場所が必ずできる」


《境界線が発生します》


「そこを縫う」


 問題は、縫ったところで何になるか。


 黒い影なら、動きを止められる。


 錆影なら、武器や鎧の影を重くできる。


 では、白い輪郭を縫うと何が起きる?


 まだ分からない。


 分からないが、白磁庭園騎士は反応した。


 カゲヌイを敵として認識した。


 つまり、効く。


 効くから潰しに来る。


「カゲヌイを守れ。大蜘蛛、白い糸片を集め続けろ。赤錆噛み、噛めぬなら削れ。グズはまだ出るな」


「ギ……!」


「出るなと言っている!」


 グズは肩を押さえながら、悔しそうに唸った。


 こいつは殴りたいのだ。


 分かる。


 だが、今出れば槍に貫かれる。


 グズは強い。


 しかし、白磁庭園騎士の正面に立つにはまだ足りない。


 なら、足りる状況を作ればいい。


白磁庭園騎士が、また槍の石突きを床に置いた。


 こつん。


 白い円が広がる。


 さっきより大きい。


 床だけではない。


 壁まで白く染まり、湿灰が陶器のような層になる。


 その中で、動けなくなっていたアンデッドゴブリン三体が、白い像のように立っていた。


 死体の飾り。


 そう思っていた。


 だが、白磁庭園騎士の盾が開くと、その白い像が動いた。


《白磁固定死体、再起動》


「余のアンデッドを勝手に使うな!」


 白く固まったアンデッドゴブリンが、ぎこちなく動く。


 関節は硬い。


 だが、白磁庭園騎士の庭化圏の中では動けるらしい。


 もうアンデッドではない。


 白磁の庭飾り兵だ。


 白いゴブリン像が三体、カゲヌイへ向かう。


「マネ!」


「ギィ!」


「声ではない。石が割れる音を出せ!」


「ギ?」


「白い像を割る音だ!」


 マネは一瞬ぽかんとした。


 だが、すぐに口を開いた。


 ぱき。


 ぴし。


 がしゃん。


 白磁が割れる音が、第一層に響く。


 白いゴブリン像の動きが少し鈍った。


《白磁固定死体、微弱反応》


「よし、音には反応する!」


 白磁庭園騎士は声に惑わされない。


 だが、白磁化した死体は違う。


 あれは陶器だ。


 陶器は、割れる音に反応する。


「マネ、もっとだ。自分が割れる音を聞かせろ!」


 マネが大きく息を吸い込む。


 そして、迷宮中に響くほどの破砕音を出した。


 ばきん。


 がしゃん。


 びしびしびし。


 白いゴブリン像の一体が、膝から崩れた。


 自分の体が割れたと誤認したのだろう。


「今だ、赤錆噛み!」


 赤錆噛みネズミが走る。


 白磁は錆びない。


 だが、白磁ゴブリン像の中には元の骨がある。


 白い外側ではなく、割れ目から内部を噛む。


 きちちちち!


《内部骨格腐食》


 白いゴブリン像が崩れた。


 元は余のアンデッドだった。


 それを奪われた。


 なら、壊して取り返す。


《白磁固定死体一体、破壊》


「よし。奪われたものでも、弱点は残る」


 白磁庭園騎士が盾をカゲヌイへ向けた。


 花弁盾から、白い光が束になって伸びる。


 カゲヌイを狙っている。


「大蜘蛛!」


 影縫い大蜘蛛が、黒い糸ではなく、白く砕けた糸片を束ねて落とした。


 白い光がその糸片に当たり、さらに硬化する。


 普通なら失敗だ。


 だが今回は違う。


 硬化した白い糸片が、空中で細い白磁の格子になる。


 光の進路に、白い障害物ができる。


《即席白磁格子、形成》


 カゲヌイが、その格子の輪郭へ骨針を打つ。


 黒い影ではない。


 白い線だ。


 針が、ぎり、と入る。


《白輪郭固定、成功率上昇》


 白い格子が、落ちずに空中へ留まった。


 白磁庭園騎士の光が、その格子に引っかかる。


 完全には止められない。


 だが、逸れた。


 光が壁を焼き、壁が白く固まる。


 カゲヌイは無事だ。


「見たか」


 余は笑った。


「お前の白も、余の罠になる」


 白磁庭園騎士は何も言わない。


 だが、槍を持つ手がわずかに動いた。


 怒ったのか。


 それとも、庭の乱れを見つけたのか。


 どちらでもいい。


 こちらを敵と認めたなら、誘導できる。

『迷靄洞』


 フィルエの声が、森糸通信から入った。


『外の白い跡、伸びてる』


「外?」


『白磁庭園騎士が通った道。迷靄洞の入口まで、白い筋になってる。たぶん、あれで本体と繋がってる』


「本体と繋がっている?」


《白磁庭園騎士が白磁庭園本体から供給を受けている可能性》


「つまり、外の白い道が補給線か」


『うん。細いけど、ずっと光ってる』


「切れるか?」


『森の力だけだと難しい。触ると固まる』


 補給線。


 いい情報だ。


 フィルエが外にいるから分かること。


 余は白い部屋で監視面を二つに分けた。


 一つは内部。


 一つは外。


 森の中に、確かに白い道がある。


 白磁庭園騎士の足跡。


 いや、足跡というより根だ。


 白磁の根が、森から迷靄洞へ伸びている。


「本体から力を受けているなら、長期戦は不利だな」


《はい》


「逆に言えば、供給があるうちに力を使わせれば、白いものが増える」


《白い輪郭も増加します》


「そうだ」


 余は内側を見た。


 白化は危険。


 だが、境目が増える。


 なら、完全に白くされる前に、境目を縫って檻を作る。


 白磁庭園騎士自身に庭を作らせ、その庭の境目で縛る。


「全域白磁化を止めるな」


《危険です》


「分かっておる。止めるのではなく、偏らせる」


《偏らせる?》


「白くなる場所をこちらで選ぶ」


 白磁庭園騎士の力は、近い場所から白くする。


 なら、白くしていい餌場を作る。


 湿灰の流れを調整し、白磁庭園騎士の光が届きやすい場所へ誘導する。


 逆に、本命の湿灰区画は薄い壁で隠す。


 白磁庭園騎士は、乱れている場所を整える。


 なら、わざと乱れた場所を見せる。


「苔灰ゴブリン、湿灰を運べ。汚く撒け。これでもかというほど汚くしろ」


《苔灰ゴブリン、配置》


 苔灰ゴブリンたちが、黒ずんだ湿灰を抱えて走る。


 白磁庭園騎士の進行方向に、汚い筋を作る。


 白磁庭園騎士は、そちらへ盾を向けた。


 やはり。


 こいつは汚れを見逃せない。


 白い光が汚れへ向かう。


 湿灰が白く固まる。


 だが、それは余が固めさせたい場所だ。


「カゲヌイ、そこだ」


 カゲヌイが走る。


 影から影へではない。


 白と灰の境目を渡る。


 これまでのカゲヌイとは動きが違う。


 黒い影に隠れる罠師ではなく、白い輪郭の上を走る罠師。


 危うい。


 少しでも遅れれば白磁化する。


 だが、カゲヌイは小さい。


 速い。


 骨針を、境目に打つ。


 一本。


 二本。


 三本。


《白輪郭固定、拡大》


 白く固まった湿灰の縁が、迷宮側に引かれる。


 白磁庭園騎士が作った白い床が、わずかに歪んだ。


 庭の配置が乱れる。


 白磁庭園騎士が即座に槍を向けた。


「追跡者、止めろ!」


 片腕を失いかけた追跡者が、騎士の前に立つ。


 白い槍が突く。


 追跡者は避けない。


 肩で受ける。


 槍が貫く。


《追跡者、胴部損傷》


 だが、追跡者は槍を掴んだ。


 白く固まりながらも、離さない。


 落武者の片目が、騎士を睨む。


「そのまま持て!」


 騎士が槍を引こうとする。


 追跡者が縫い止める。


 カゲヌイが、槍の影ではなく、槍が作った白い輪郭を縫う。


 白い槍と、灰の床の接点。


 そこへ針を打つ。


《白輪郭拘束、微弱成功》


 白磁庭園騎士の槍が、ほんの一瞬抜けなくなった。


「今!」


 赤錆噛みネズミが走る。


 金属はない。


 錆びない。


 だが、花弁盾の裏。


 そこに、白磁ではない小さな黒い芯が見えた。


 盾の花弁を開閉させるための、魔力の節。


 金具ではない。


 だが、噛めるなら噛む。


 赤錆噛みネズミが飛びつく。


 きち!


 牙が弾かれる。


 だが、白磁ではなく魔力節に傷がついた。


《花弁盾、開閉節に損傷》


 白磁庭園騎士が盾を振る。


 ネズミが吹き飛ばされる。


《赤錆噛みネズミ、損傷》


「戻れ!」


 赤錆噛みネズミは転がりながらも、盾の白い欠片をくわえていた。


 小さい。


 だが、奪った。


「よし。盾は完全ではない」


 グズが、ゆっくり立ち上がった。


 肩の傷は苔灰で固めてある。


 棍棒は失った。


 だが、死んでいない。


「ギィ……」


「まだ待て」


「ギィィ……!」


「分かっておる。殴らせる。だが今ではない」


 グズの役目は、とどめではない。


 盾を割ること。


 そのためには、一度盾を開かせる必要がある。


 盾が閉じている時は硬すぎる。


 花弁のように開いた瞬間、裏の節が見える。


 そこをネズミが傷つけた。


 次に開いた瞬間、グズが叩く。


「グズ。次に盾が開いたら、そこだ」


 グズは頷いた。


 目が血走っている。


 よい。


 怒りは使える。


白磁庭園騎士が、槍を引き抜いた。


 追跡者の体から白い破片が散る。


 追跡者は膝をついた。


《追跡者、活動限界接近》


「よくやった。下がれ」


 追跡者は下がらない。


 まだ白磁庭園騎士を見ている。


《追跡者、追跡対象を維持》


「頑固者め」


 だが、その頑固さがありがたい。


 白磁庭園騎士は、明らかに追跡者を邪魔だと認識している。


 だから次の一撃を追跡者へ向ける。


 その分、カゲヌイから目が逸れる。


「カゲヌイ、白い床を円に縫え」


《目的は?》


「騎士の庭を、騎士の檻にする」


 白磁庭園騎士は、自分の周囲に白い庭を広げている。


 その庭の境目を円状に縫えば、白磁庭園騎士は自分の庭の中に閉じ込められる。


 黒い影で縛るのではない。


 白い秩序で縛る。


 庭園のルールを、迷宮の罠として再定義する。


 カゲヌイが白と灰の境目を走る。


 影縫い大蜘蛛が、天井から白い糸片を降らせる。


 苔灰ゴブリンが、境目に湿灰を撒く。


 マネが白磁の割れる音を鳴らし、白い庭飾り兵の動きを乱す。


 赤錆噛みネズミは床下から、盾の欠片を噛み砕いている。


 グズは待つ。


 追跡者は立ちはだかる。


 余は全てを見る。


 白磁庭園騎士が盾を開いた。


 花弁盾。


 白い光が、全方向に広がる。


 カゲヌイを焼くためだ。


「今だ、グズ!」


「ギィィィィ!」


 グズが飛び出した。


 棍棒はない。


 代わりに、赤甲鎧鬼の重錆の鎧片を両手で持っている。


 即席の鈍器。


 重く、いびつで、錆びていて、迷靄洞らしい武器だ。


 白磁庭園騎士の花弁盾が開ききる。


 裏の魔力節が見える。


 赤錆噛みネズミがつけた傷。


 そこへ、グズが重錆の鎧片を叩き込んだ。


 がんっ!


 白い盾が震える。


 割れない。


「もう一発!」


 グズが吠える。


 二撃目。


 がぎんっ!


 盾の裏の節に、ひびが入った。


 白い光が乱れる。


 カゲヌイへの照射が逸れる。


「三発目だ!」


 グズが肩の傷を開きながら、三度振り下ろした。


 ばきん。


 花弁盾の一枚が、折れた。


《白磁庭園騎士、盾花弁一枚破損》


「よし!」


 だが、白磁庭園騎士の槍が動く。


 グズを貫く軌道。


 避けられない。


「大蜘蛛!」


 影縫い大蜘蛛が、黒い糸ではなく白混じりの糸をグズへ巻いた。


 それはしなやかではない。


 だが硬い。


 引くというより、弾く。


 グズの体が横へ飛ぶ。


 槍は肩の皮を裂いただけで抜けた。


《グズ、追加損傷》


「生きていれば勝ちだ!」


 グズは床を転がり、また立とうとする。


「立つな! 今はもういい!」


 グズが悔しそうに唸る。


 よくやった。


 盾が欠けた。


 白い光が乱れた。


 そして、白い庭の円が完成しつつある。


《白輪郭固定、円状接続率七十一パーセント》


「あと少しだ」


 白磁庭園騎士が、初めて後退した。


 半歩。


 だが、その後退で白い床の境目が鳴った。


 ぎしり。


 カゲヌイの縫い目が引っかかったのだ。


 騎士は、自分が作った白い庭の縁に足を取られた。


 勝ち筋が太くなる。


「白くした場所から出られぬ気分はどうだ」


 白磁庭園騎士は答えない。


 代わりに、折れた盾花弁を床へ突き刺した。


 白い花弁が、地面に根を張る。


 しまった。


《白磁根、発生》


《外部補給線と接続を試行》


「外と繋ぎ直す気か!」


 森糸通信が震える。


『迷靄洞! 外の白い道が強く光った!』


「分かっておる!」


 白磁庭園騎士は、檻に閉じ込められそうになった瞬間、外部補給を強めた。


 白い光が床から湧く。


 カゲヌイが縫った白輪郭が、逆に引き伸ばされる。


《白輪郭固定、破断危険》


「耐えろ、カゲヌイ!」


 カゲヌイは両手で骨針を押さえる。


 小さな体が白く照らされる。


 骨針の先が白くなり始めた。


 影縫い大蜘蛛が糸を重ねる。


 だが、外部補給の白さが強い。


 このままでは、白い檻が庭園側に奪い返される。


 ここで切るか。


 外の白い道。


 フィルエでは切れない。


 迷宮の外だ。


 余の魔物は外へ出せない。


 いや、正確には出せるものもいるが、外では弱る。


 白磁の補給線を外で断つのは難しい。


 なら、内側から逆流させる。


「赤錆噛みネズミ」


 床下で傷ついていたネズミが顔を上げる。


「盾の欠片を持って、白磁根の根元へ行け」


《赤錆噛みネズミ、損傷しています》


「分かっておる。だが、お前しか小さな隙間に入れぬ」


 赤錆噛みネズミは、きち、と鳴いた。


 そして走った。


 白磁根は、折れた盾花弁から伸びている。


 白く、硬く、強い。


 だが、その根元にはグズが砕いたひびがある。


 赤錆噛みネズミは、盾の欠片をくわえたまま、ひびへ潜る。


《白磁根内部へ侵入》


「噛むな。置け」


《命令内容:不明瞭》


「その欠片を、根の中に詰めろ!」


 赤錆噛みネズミは噛むことは得意だ。


 置くのは得意ではない。


 だが、牙で押し込むことはできる。


 グズが砕いた盾花弁の欠片。


 白磁庭園騎士自身の破片。


 それを、白磁根の中に詰める。


《白磁根、内部共鳴異常》


 白い光が揺れた。


「そうだ。外の白ではなく、内側の壊れた白を混ぜろ」


 白磁庭園騎士の補給線に、壊れた盾の欠片が混ざる。


 完全な白ではない。


 迷靄洞で砕かれ、赤錆噛みネズミに噛まれ、湿灰に汚れた白。


 それが根の中へ入る。


 白磁庭園騎士の白い光に、わずかな濁りが生まれた。


《外部補給、乱れ》


「カゲヌイ!」


 カゲヌイが最後の針を打った。


 白と灰の境目。


 円の最後の欠け目。


 そこへ、白い糸片を巻いた骨針が深く刺さる。


《白輪郭固定、円状接続完了》


《新規戦術:白庭縫い檻》


 白磁庭園騎士の周囲の白い床が、檻になった。


 壁はない。


 鉄格子もない。


 ただ、白く整えられた庭の境目があるだけ。


 だが、白磁庭園騎士はその境目を越えられない。


 自分の庭の形式が、自分を縛っている。


「よし……!」


 余は息を吐いた。


 息はないが。


 白磁庭園騎士が槍を上げる。


 今までで一番強い光が、槍の先に集まった。


《白磁庭園騎士、高出力攻撃準備》


《白庭縫い檻を破壊する可能性》


「ここで撃たせるな」


《妨害手段は?》


 ある。


 盾が欠けた。


 根が乱れた。


 足は檻に縛られている。


 槍に力を集めている。


 つまり、胸が空く。


 白磁庭園騎士の胸甲。


 そこに、小さな白い花の紋様がある。


 今までは盾と槍に隠れていた。


 だが、今は見える。


 あれだ。


 あそこが核か。


 いや、本体ではない。


 たぶん、枝核。


 白磁庭園騎士を動かす核。


「追跡者」


 片腕を失い、太刀を欠けさせた追跡者が顔を上げる。


「最後に一度だけ跳べるか」


《追跡者、活動限界》


「跳べるかと聞いている」


 追跡者は答えない。


 だが、立った。


「よし」


 白磁庭園騎士の槍に、白い光が集まる。


 放たれれば、白庭縫い檻ごと砕かれる。


 その前に、胸を開く。


「大蜘蛛、追跡者を吊れ。カゲヌイ、白い檻の内側を一瞬だけ緩めろ。グズ、まだ動けるなら石を投げろ。マネ、盾が割れる音を最大で鳴らせ」


 全員が動いた。


 影縫い大蜘蛛の糸が追跡者の腰に絡む。


 カゲヌイが白い輪郭の一部を緩める。


 グズが、折れた白い盾片を拾い、騎士の頭へ投げつける。


 マネが叫ぶように、盾の破砕音を鳴らす。


 ばきん。


 びしびしびし。


 がしゃん。


 白磁庭園騎士の盾が、反射的に胸元を守ろうと動いた。


 だが、盾花弁は一枚欠けている。


 動きが遅い。


 そこへ、影縫い大蜘蛛が追跡者を天井から振り下ろした。


 落ちる。


 いや、飛ぶ。


 追跡者が、白く欠けた太刀を構える。


 白磁庭園騎士の槍が光る。


 放たれる寸前。


 追跡者の太刀が、胸甲の花紋へ届いた。


 ぎん。


 浅い。


 斬れていない。


 だが、傷が入った。


《白磁庭園騎士、胸甲損傷》


《内部核反応を確認》


「見えた」


 胸甲の内側。


 白い光の奥に、小さな枝のような核があった。


 白磁でできた、花の根。


 あれが白磁庭園枝核。


 白磁庭園騎士の心臓。


 そして、次に余が喰うもの。


 白磁庭園騎士が、初めて明確に体勢を崩した。


 高出力の白い光が不発になり、槍先から散る。


 白庭縫い檻はまだ保っている。


 だが長くはない。


《白庭縫い檻、維持限界まで短時間》


《追跡者、活動停止寸前》


《グズ、重傷》


《影縫い大蜘蛛、糸残量低下》


《カゲヌイ、白縫い負荷大》


 余は監視面を睨んだ。


 勝ち筋は見えた。


 だが、とどめには足りない。


 胸甲を完全に開く必要がある。


 盾をさらに割る必要がある。


 槍を封じる必要がある。


 白磁庭園騎士を、檻の中で膝をつかせる必要がある。


 余は低く言った。


「全員、あと一手だ」


 白磁庭園騎士が、傷ついた胸甲を押さえながら、槍を構え直す。


 白い庭がきしむ。


 灰の境目が震える。


 カゲヌイの骨針に、白いひびが入る。


 それでも、逃がさない。


「次で胸を割る」


 余は笑った。


「その枝核、余の迷宮に植え替えてやる」

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