第110話 泥門は、帰還命令を飲み込む
帰り道が、ずれた。
それは壁が動いたのではない。
床が回ったわけでもない。
ただ、白磁回廊の先にあったはずの入口方向が、霧の向こうで別の庭へ繋がった。
ラザルは即座に足を止める。
「止まれ」
残った四人が止まった。
大盾のヘルマはネルの死体を抱えたまま、盾を半身に構える。
老魔術師オルドは杖を床につけ、魔力を流した。
聖職者イリアは治癒術ではなく、防護の祈祷陣を展開している。
誰も慌てて走らない。
誰も泣き崩れない。
仲間を殺された直後だというのに、判断が早い。
「……嫌な連中だ」
《統率が維持されています》
「分かっている」
ここで崩れてくれれば楽だった。
斥候を失った。
退路線も一つ切った。
声を乱し、足跡を狂わせ、床を濡らした。
普通の冒険者なら、ここで叫んで走る。
そして、走った瞬間に死ぬ。
だが、銀刻は違う。
死んだ仲間を抱えたまま、まだ迷宮を測っている。
「入口までの距離は」
ラザルが問う。
オルドが目を閉じた。
「標識一号は外に残っておる。二号は迷宮内。三号はネルの腰具だ。……二号の反応が二つに割れておる」
「本物は」
「魔力だけなら左。だが、水が噛んでおる。反響がある。断定できん」
イリアが白い霧を見た。
「浄化で霧を払います」
「待て」
オルドが止めた。
「この霧は毒ではない。浄化すれば、白磁属性が反応して逆に通路を光らせる可能性がある」
「では?」
「焼く」
老魔術師が杖を掲げた。
白磁回廊の上部に炎の輪が生まれる。
炎は霧を燃やし、灰を巻き上げ、白磁花の花粉を焼いた。
視界が一気に開ける。
「まずい」
《霧濃度、低下》
「白磁花粉も焼かれたか」
《一部焼失》
さすがAランク。
霧なら払う。
毒なら防ぐ。
幻なら疑う。
罠なら壊す。
こちらの都合よく迷ってなどくれない。
開けた視界の先に、白磁の回廊が二つ見えた。
右は美しい庭。
左は灰の積もった通路。
どちらも入口には見えない。
だが、ラザルは左を見た。
「左だ」
「根拠は?」
ヘルマが低く聞く。
「迷宮は右を見せたがっている。右は美しすぎる」
……こいつ。
「嫌だ。本当に嫌だ」
《判断精度が高いです》
「言わなくていい!」
ラザルたちは左へ動いた。
正解に近い。
完全な正解ではないが、入口方向に近い。
このまま進ませると、第二層の外縁へ出る。
そこまで行けば、外の救援隊の魔力と標識一号が噛み合う可能性がある。
逃がすわけにはいかない。
「グズ」
余は命じた。
「泥門を閉じろ」
通路の奥で、泥が盛り上がった。
白磁床の継ぎ目から、黒い泥が噴き出す。
ただの泥ではない。
グズの泥だ。
泥門番長ゴブリン。
かつてただのゴブリンだったものが、泥と門と執念で変わった、迷宮の門番。
白い床が、泥に飲まれる。
ラザルの前方に、低い泥壁が生えた。
いや、壁ではない。
門だ。
歪んだ口のように開き、閉じる泥の門。
「前方、泥!」
ヘルマが叫ぶ。
グズが泥の中から顔を出した。
小鬼の顔。
だが、普通のゴブリンではない。
泥で膨れた腕。
門板のような肩。
目だけがぎょろりと光っている。
「グ、ズ」
グズが唸った。
そして、泥の門を叩きつけた。
ヘルマが前へ出る。
盾と泥門が衝突した。
重い音が白磁回廊を揺らす。
「ぐっ……!」
ヘルマの足が半歩沈んだ。
ただの力ではない。
泥が盾の縁を舐め、引き込もうとしている。
「この泥、盾を掴む!」
ラザルが銀剣で泥を斬る。
斬れる。
泥が裂ける。
だが、裂けた泥がすぐ戻る。
グズが笑った。
「グ、ズ、ズ」
「いいぞ、グズ」
《グズ、泥門固定中》
「押し潰せ。だが深追いするな。前を塞げばいい」
ラザルたちは強い。
グズ単体で倒せる相手ではない。
だが、帰り道に置けば話が違う。
門番とは、敵を倒すためだけにいるのではない。
敵を通さないためにいる。
その間に、別の刃が届く。
「濁白騎士、起動」
《濁白騎士、第四層待機位置より前進》
白磁回廊の右側。
さっきラザルが選ばなかった、美しすぎる庭。
その奥から、鎧の音がした。
かつん。
かつん。
濁った白い騎士が、霧の奥から現れる。
兜には黒い罅。
関節には泥水。
白い剣の根元には錆。
白磁庭園の騎士ではない。
白磁庭園を喰った迷宮が吐き出した、濁った騎士。
イリアが息を呑んだ。
「白磁騎士……いえ、違う。清浄ではない。死霊反応が混じっています」
オルドが杖を構える。
「白磁に灰と死体を混ぜたか。悪趣味な迷宮じゃ」
「悪趣味で結構」
余は白い部屋で呟く。
「綺麗なだけで殺せるなら、白磁庭園は余に喰われていない」
濁白騎士が剣を振る。
ラザルが受けた。
銀剣と白剣が噛み合う。
一撃。
二撃。
三撃。
ラザルは受け、流し、斬り返す。
濁白騎士の肩に亀裂が入った。
《濁白騎士、軽度損傷》
「早いな!」
《Aランク剣士です》
「だから言うな!」
だが、濁白騎士は倒れない。
割れた肩に白磁修復構造が走る。
戻り水が濁った庭心水を運び、罅を塞ぐ。
完全修復ではない。
だが、一瞬止まらずに済む。
「再生するぞ!」
ヘルマが叫ぶ。
「足場も見ろ!」
ラザルが返す。
その足元で、白磁床の継ぎ目が濡れた。
グズの泥。
戻り水。
白磁床。
三つが混じり、滑る場所と沈む場所を交互に作る。
ラザルはまだ踏み外さない。
ヘルマも耐える。
オルドは杖を突いて姿勢を保つ。
だが、ネルの死体を抱えているヘルマだけ、わずかに重心がずれる。
「赤錆噛み」
《標的》
「盾の背負い金具」
《了解》
床下で小さな影が走る。
赤錆噛み。
灰噛みネズミから変質した、金属を喰う進化個体。
肉には行かない。
血にも行かない。
今は、金具だ。
ヘルマの大盾を腕に固定している留め具。
ネルの死体を抱えるため、普段より露出している背面金具。
そこへ、赤錆噛みが白磁床の割れ目から飛びついた。
かり。
かり。
かりり。
「盾が――」
ヘルマが気づいた。
だが、遅い。
留め具が弾ける。
大盾がわずかにずれた。
その瞬間、グズの泥門が横から叩きつけられる。
ヘルマはネルの死体を庇った。
それが失敗だった。
盾で受ける角度が足りない。
泥門が盾を押し、盾が腕を押し、身体が白磁床へ沈む。
「ヘルマ!」
イリアが防護陣を飛ばす。
オルドが泥を焼く。
ラザルが濁白騎士を押し返し、ヘルマへ向かおうとする。
だが、その背後に追跡者の影が揺れた。
ラザルは振り返らざるを得ない。
そうだ。
助けに行けば背中を斬る。
背中を守れば仲間が沈む。
選べ。
「グズ、沈めろ」
泥門が閉じた。
ヘルマの片脚が膝まで沈む。
彼女はネルの死体を投げた。
仲間を守るためではない。
迷宮に奪わせないためでもない。
自分の両手を空けるためだ。
ネルの死体が白磁床を滑る。
イリアが受け止めようとする。
その瞬間、マネがネルの声を出した。
「イリア、後ろ」
イリアが振り向いた。
ほんの一瞬。
ヘルマへの防護陣が薄れる。
グズの泥が肩まで伸びた。
「くそっ!」
ヘルマが怒号を上げる。
大盾を捨てた。
腕力だけで泥を割る。
強い。
泥門がひび割れるほどの力。
グズが押し返される。
《グズ、損傷》
「耐えろ!」
グズが吠えた。
「グズァァァ!」
泥門が再び閉じる。
同時に、天井から影縫い大蜘蛛の糸が落ちた。
狙いはヘルマではない。
捨てられた大盾。
糸が盾を絡め、床へ固定する。
ヘルマは盾を取り戻せない。
そして、濁白騎士が白剣を構えた。
「ラザル!」
ヘルマが叫んだ。
ラザルは動けない。
追跡者がいる。
濁白騎士が剣を突き出す。
ヘルマは腕で受けた。
鎧が割れる。
血が飛ぶ。
それでも心臓は外した。
Aランクの盾役。
しぶとい。
なら、正面から殺すな。
「カゲヌイ。影を縫え」
《影縫い罠師カゲヌイ、影釘投入》
泥に沈んだヘルマの影へ、黒い釘が三本刺さる。
足。
肩。
首。
動きが止まる。
ほんの一拍。
濁白騎士の二撃目が、今度は外れなかった。
白剣がヘルマの喉を貫いた。
《Aランク盾役一名、討伐》
《獲得ソウル:七百二十》
《取得:銀刻大盾の破損片、耐衝撃鎧片、盾役の踏ん張り骨、重装固定具》
白い部屋に数字が浮かぶ。
余の中に、熱が走った。
二人目。
Aランクを、二人喰った。
だが、同時に濁白騎士の胸が銀色に割れた。
ラザルが踏み込んでいた。
追跡者の牽制を受けながら、それでも隙を作って濁白騎士へ届いたのだ。
銀剣が白磁の胴を斜めに裂く。
《濁白騎士、重度損傷》
「下げろ!」
《後退不能。脚部泥結合部破損》
「くっ……!」
濁白騎士は膝をついた。
イリアが涙をこぼしながら、それでも祈祷を撃った。
白い光が濁白騎士の中のアンデッド骨片に刺さる。
濁白騎士の修復が止まった。
《濁白騎士、機能低下》
オルドが杖を掲げる。
「白磁も泥も灰も、まとめて砕け!」
床に魔法陣が展開された。
まずい。
広範囲破砕魔術。
白磁回廊ごと割る気だ。
「止めろ!」
《対応候補》
「何でもいい、今すぐ!」
《戻り水逆流、可能》
「やれ!」
白磁床の下を流れていた戻り水が、一気に逆流した。
オルドの魔法陣に濁った水が染み込む。
魔力線が揺らぐ。
だが、消えない。
老魔術師は杖を握り直した。
「水で魔法陣を乱すか。よい迷宮じゃ。だが、遅い」
破砕魔術が発動した。
白磁回廊が割れた。
柱が砕ける。
白磁花が散る。
偽庭園迷路の一部が崩れた。
影糸が切れ、カゲヌイの影釘が二本飛ぶ。
グズの泥門も半分吹き飛ばされた。
《灰白庭回廊第一層、損傷二十三パーセント》
《濁白騎士、戦闘不能寸前》
《グズ、中度損傷》
《影縫い大蜘蛛の糸場、一部断裂》
「やりすぎだろうが!」
余は叫んだ。
Aランクを殺している。
ソウルも得ている。
だが、こちらも削られている。
これがAランク。
死に際に、迷宮そのものを壊してくる。
ラザルはヘルマの死体を見た。
ネルの死体も見た。
そして、低く言った。
「二人で帰る」
イリアが唇を噛む。
「ヘルマは」
「置く」
即答だった。
冷たい判断。
だが正しい。
もう死体を運ぶ余裕はない。
ネルも、ヘルマも置いていく。
情報を持ち帰るために。
残ったのは三人。
ラザル。
オルド。
イリア。
「支部長へ伝える情報は十分ある」
ラザルは言った。
「この迷宮は、罠が連動する。魔物が役割を持つ。退路を優先して潰す。白磁庭園由来の構造を使う。人間の声を真似る。床下に金属食いがいる。追跡型高位魔物がいる」
やめろ。
それ以上まとめるな。
「帰すか」
《帰還阻止を推奨》
「当然だ」
余はソウル表示を見た。
今得たソウル。
ネル、六百八十。
ヘルマ、七百二十。
合計千四百。
使える。
だが、今はまだ使わない。
ラザルたちは出口方向へ向けて動き出した。
オルドが破砕したことで、迷路の一部が崩れ、逆に本物の通路が見えかけている。
危険だ。
このままでは本当に逃げる。
なら、奥の手を切る。
「管理音声」
《はい》
「ヘルマの死体を泥に沈めろ。ネルの死体も回収」
《死体回収開始》
「アンデッド化は?」
《通常アンデッドゴブリンとは別体系です。即時完全運用は困難》
「完全でなくていい。動けばいい」
《簡易死体反応であれば可能》
「やれ。足を掴ませるだけでいい」
《死体反応、起動》
泥の中で、ヘルマの指が動いた。
首を貫かれた盾役の死体が、泥と戻り水に引かれ、ゆっくり腕を伸ばす。
生き返ったわけではない。
魔物化したわけでもない。
ただ、迷宮の泥が死体を動かしている。
イリアがそれを見た。
「ヘルマ……!」
その声に、隙ができた。
ラザルが叫ぶ。
「見るな!」
だが遅い。
死んだヘルマの手が、イリアの足首を掴んだ。
イリアの防護陣が乱れる。
その背後から、追跡者が現れた。
灰白の刃が、聖職者の背へ走る。
ラザルが間に入った。
銀剣で刃を弾く。
間に合った。
だが、ラザルが追跡者を止めたことで、オルドの横が空いた。
「グズ」
余は低く命じた。
「老魔術師を飲め」
半壊した泥門が、最後の力で床から跳ね上がる。
オルドは杖を向けた。
「来ると思ったわ」
炎が泥を焼く。
グズの泥が乾き、割れる。
《グズ、重度損傷》
「グズ!」
だが、泥の中に混ぜていた戻り水が蒸気になった。
白い蒸気がオルドの視界を塞ぐ。
その蒸気の中から、小さな赤錆噛みが飛び出した。
狙いは杖の金具。
老魔術師の杖の先端にある魔力制御環。
かり。
一噛み。
オルドの魔法陣が歪む。
「しまっ――」
その瞬間、濁白騎士が最後の力で立ち上がった。
胸は割れ、片腕は垂れ、兜は半分砕けている。
それでも剣を握っていた。
白剣が、オルドの腹を貫いた。
《Aランク魔術師一名、討伐》
《獲得ソウル:八百十》
《取得:老魔術師の杖核片、破砕術式の残滓、魔力制御環、白磁解析紙片》
《濁白騎士、機能停止》
濁白騎士が崩れ落ちた。
白い鎧が砕け、灰と泥に沈む。
役目を終えた。
「……よくやった」
余は小さく言った。
残り二人。
ラザルとイリア。
銀刻の五人は、もう五人ではない。
斥候を失い、盾を失い、魔術師を失った。
それでも、ラザルの目は死んでいなかった。
むしろ、冷たくなっていた。
「イリア」
「はい」
「俺が道を開く。お前が出ろ」
「ラザルは」
「情報を持ち帰る者が一人いればいい」
駄目だ。
こいつ、一人を逃がす気だ。
Aランクの判断。
全滅を避けるための切り捨て。
ここで一人でも逃げれば、迷宮の情報が持ち帰られる。
白磁庭園を喰ったことは知られなくても、内部構造、罠、魔物、退路潰し。
全部次に活かされる。
「逃がすな」
《全戦力投入を推奨》
「追跡者」
灰白線喰いが、ラザルの背後に現れる。
「イリアを狙え。ラザルは必ず庇う」
ラザルが銀剣を構えた。
イリアが祈祷陣を展開する。
白い光が、砕けた回廊の先へ道を作る。
出口方向。
かすかに外の空気が混じる。
近い。
本当に近い。
ラザルが走った。
追跡者と正面からぶつかる。
銀剣と灰白刃が何度も鳴る。
ラザルは強い。
追跡者を押し返している。
いや、違う。
押し返しているのではない。
自分に引きつけている。
その隙に、イリアを逃がすつもりだ。
「マネ」
《待機中》
「ラザルの声で言え」
余は命じた。
「走れ、と」
白い霧の奥で、マネがラザルの声を出した。
「走れ、イリア!」
イリアが走った。
本物のラザルも叫ぶ。
「違う! 止まれ!」
声が重なる。
イリアは一瞬だけ迷った。
だが、もう足は前へ出ている。
その先は出口ではない。
グズが半壊した泥門で作った、偽の外気道。
浅泥井戸の足跡記録と戻り水で作った、出口に似た湿った風。
白磁回廊の割れ目から差し込んだ、偽の光。
イリアが踏み込む。
床が抜けた。
下は、戻り水の溜まり。
白磁片。
灰。
泥。
そして、アンデッドゴブリンの腕。
「いやっ――」
イリアが落ちる。
ラザルが振り返る。
その背に、追跡者の刃が入った。
浅い。
致命傷ではない。
だが、止まった。
ラザルが止まった。
「イリア!」
聖職者はまだ生きていた。
落ちた先で防護陣を張る。
戻り水と泥がそれを押し潰す。
アンデッドゴブリンの腕が、白衣を掴む。
赤錆噛みが祈祷具の金具を噛む。
影縫い大蜘蛛の糸が、穴の縁から降りる。
イリアが浄化光を放った。
アンデッドゴブリンの腕が焼ける。
糸が切れる。
泥が蒸発する。
まだ耐える。
まだ死なない。
「本当にしぶとい!」
余は叫んだ。
だが、防護陣に罅が入る。
戻り水は止まらない。
白磁片が光を反射し、イリアの目を焼く。
そして、カゲヌイの影釘が穴底の影を縫った。
イリアの祈祷陣が、半分だけ止まる。
半分止まれば十分だった。
泥が喉まで上がる。
白い光が消える。
《Aランク聖職者一名、討伐》
《獲得ソウル:七百九十》
《取得:浄化祈祷具片、白衣の聖布、聖職者の祈祷骨、清浄術式残滓》
残り一人。
ラザル。
銀剣のリーダー。
彼はイリアの落ちた穴を見た。
オルドの死体を見た。
ヘルマの沈んだ泥を見た。
ネルの血の跡を見た。
そして、ゆっくり息を吐いた。
「……白庭化した旧迷靄洞、ではないな」
ラザルは呟いた。
その声は、ひどく静かだった。
「これは、もう別物だ」
余は白い部屋で沈黙した。
こいつは、名前を知らない。
だが、意味は分かったのだ。
迷靄洞ではない。
白磁庭園でもない。
それらを喰って別物になった迷宮だと。
「帰すな」
《はい》
追跡者が構える。
ラザルも銀剣を構える。
Aランク冒険者最後の一人。
五人で来た男は、ひとりで出口方向に立っている。
だが、その背中にはまだ折れていないものがあった。
余は怖いと思った。
同時に、喰いたいと思った。
「来い、銀剣」
余は呟く。
「お前のその判断ごと、余の腹に沈めてやる」




