番外・小窪ちゃんの恋はデンジャラス(4)
そして、デンジャラスちゃんは、相変わらず会社帰りに「くらもと」にやってくる。
いつも店先に立っているオレと目が合うと、お辞儀をしてくれるようになった。
でも買い物は、していってはくれない…。
豊たちと飲んだとき、その話をすると、事の成り行きの進展に喜んでくれた。
「僕、その人、見て見たい!」
花ちゃんが言いだすと、三人も興味を示してしまい、いつ来るかわからないが、平日の七時にみんなが「小窪青果店」に集まることになった。
その日、みんなは、自分たちの店の仕事を早めに切り上げ、オレの店の奥で待機した。
「まだ来てない!? まだ来てない!?」
駆け込んできたのは、一人だけサラリーマンをしている花ちゃんだ。
一生懸命、駅から走ってきたらしい。
親父に水を貰っている。
「どうしたんだ? おまえら、次から次へ」
いつもは豊の家か、さと兄の家に集まるみんなが、今日は小窪青果店に来ている。
親父は不思議がった。
七時を過ぎてもデンジャラスちゃんは、来ない。
七時半近くになっても来ない。
店の奥では、
「今日は来ないんじゃないの?」
と、慎太郎が言い、
「店閉めたら、飲みにでも行くかー」と、
さと兄が言ったその時、息を切らしながら彼女が走ってきた。
そして、「くらもと」に入った。
「き、きた…」
と、店の奥に行き、ボソッと、みんなに報告すると、全員が店先に並び、「くらもと」から彼女が出てくるのを待った。
「くらもと」の自動ドアが開き、デンジャラスちゃんが、袋を提げて出てくると、みんなは何の反応も示さない代わりに、デンジャラスちゃんが、小窪青果店前に並んでいる五人の男に怪訝な目を向け、首を捻ったが、オレと目が合い、微笑んだ。
「出てこないじゃん?」
「違う人が出てきたよ…」
「まだ買ってんじゃない?」
「…っていうか、店の中、客いねーじゃねーかよ!」
「あの人…」
オレは、背を向け歩いていくデンジャラスちゃんを指さした。
「「「「…っぇぇええええ」」」」
みんなは、店先から道路に出て、デンジャラスちゃんを見つめ、言った。
「うそ…」
「確かに、色白っぽい…」
「スーツだよ…」
「年上かどうかわからないけど、包容力はありそうだ。うん!」
「デンジャラスちゃん…」
つぶやたオレを、みんなが見た。
「小窪ちゃん、あの人が好きなんだな?」
「うん…」
「久々というか、ほとんど初めて、本気で人を好きになったんだよね?」
「うん…」
「小窪ちゃんの…恋…か?」
「うん…」
「小窪ちゃんの胸は、どきどきするんだな? あの人を見てると」
「うん…」
オレはデンジャラスちゃんを見ながら、みんなの問いに答えていた。
「よし! 行って来い!」
さと兄が、オレの手の中に、店のグレープフルーツをのせた。
「え?」
「追いかけて、これ渡して告って来い!」
「ぇえ!?」
「見てるだけじゃぁ、しょうがないだろ? 話かけないと、先には進めない。
フラれてもいいから、行って告白して来い!」
そう言って、さと兄は、オレの背中を押した。
みんなの「がんばれ」の声を背中に受けて、オレは走り出した。
一度振り返ると、四人が並んで、ガッツポーズをして、オレに見せてくれた。
「くらもと」の袋をぶら下げたデンジャラスちゃんに追いつき、オレは声をかけた。
「デ、デンジャラス…さん…」
振り向いた彼女に、グレープフルーツを差し出し、言った。
「オレと…つきあってください…」
「はい? なんですかぁ?」
声が小さすぎて聞こえなかったらしい…耳に手をやり、聞き返された。
もう一度、大きな声で言った。
「オレと付き合ってください!!!」
遠くの方から、オレを見ていた四人は、
「あっ、グレープフルーツ渡した」
「おっ、受け取ってくれた」
「……あれ? どこ行くんだ? あの二人」
「僕たちから、どんどん離れていくよ?」
「「「「まっ、いっか~」」」」
と、小窪青果店に入って行った。
デンジャラスちゃん…
本名、西山佳代。
オレより、少しだけ年上。
芸能プロダクション、「吉田プロ」というところで勤続八年のOL。
甘いもの大好き、「くらもと」の「おはぎ命」
デンジャラスの由来、体重八十八キログラム。末広がりな数字がステキだ。
メタボ体型が危険なため、本人に意識を持たせるため会社の人に付けられた愛称。
今だ本人は気にしていない。オレも全然気にしない。
オレが告白をしてグレープフルーツを差し出すと、彼女は、笑って受け取ってくれた。
そして、そのまま二人で駅の近くのファミレスに行き、デンジャラスちゃんは「メロンパフェ」と「チョコレートパフェ」を食べ、オレは、デンジャラスちゃんを見つめながら、緊張した喉を「愛すコーヒー」違う違う…「アイスコーヒー」だ、「アイスコーヒー」で……潤した。
番外編、以上で終わりです。
「お茶の間劇場」を目指そうと思ったのですが、
ただ単に本編の文章の中に「茶の間」が出てきただけで終わってしまいました。
が、最後まで読んでいただき、ほんとうにありがとうございました。