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住人志望のアルバ  作者: 星を見る猫
騎士団に入れた私
62/65

62.どうも代理団長です

 「”あ”~”死ぬ”…」

 「今日はまだ軽いほうですよ。頑張ってください代理団長」


 もうやだ…ペン持ちたくない…多分今頃三時だからおやつ食べたい…心の栄養の糖分が欲しい…ここ最近は剣じゃなくてペンをずっと握ってる気がする。


 巡回任務の報告書を読んで何日分か貯まったらそれをもっと簡潔にまとめて経費の会計もやんなきゃいけないし…しばらくしたら遠征の任務のこともかんがえなきゃだし…あ~!!!もうこれが私の想像していた騎士団長の姿なのかよ!


 「あと少しあと少しあと少しあと少しあと少しあと少しあと少し…」


 もう少しで終わるという言葉をまるで呪いのようにつぶやき続けながらペンを走らせる姿はどちらか言えば騎士団の団長というよりは呪術師のように見えるでしょう。…まぁ少し前まではこれの1.5いや2倍近い量をほぼ一人でやっていたのがそこの副団長なんだけども。


 「どうぞ。本日はこちらで以上となります」

 「ああやっと終わる…」


 レイナさ…失礼もう呼び方を変えないといけないってのに…こほんレイナ副団長から渡された少し集めの束を開く。内容はまぁ…ハンコ待ちのやつです。といっても、私に来るまでの間にレイナ副団長が目を通してあるのでほぼ私は見るだけ見たら押すぐらいなんですよね。(一応何が書いてあるのか軽く目を通しはしますけど)


 「え~と…近いうちに装備をまとめて修理に出す…厩舎の屋根が腐っていたので修理…それと始末書…始末書?」

 

 なになに…あー酔っぱらった冒険者を止めようとしてちょっと派手にケガさせちゃったのね。一応ギルドの方に謝罪の手紙でも送っておこうかな…あ~でもこういうときは直接行ったほうがいいのかな?


 「レイナ副団長。この始末書の件についてなのですが…これは私が直接冒険者ギルドに謝罪に行ったほうがいいのでしょうか」

 「いえ、既に本人による謝罪があったと備考に記載してありますので必要はないかと」

 「あ、そうなんですね。それじゃあいっか…」


 ふむ。一応正当防衛にあたるから問題はないのかな?…どうなんだろ?私法律にあんまり強くないんだけども、まぁでも副団長が良いって言ってるならセーフでしょう。頭が良い人が言ってるんだからね。


 「…よし、確認おわりました」

 「お疲れ様です。それにしてもやはり貴方が代理団長になってからは執務が進んで助かります」

 「…そりゃカイ団長が逃げたくなるのも分かりますけど、それ以上にそれを副団長一人に押し付けていたのがどれほどのことだったのか…」

 

 私が代理団長になってからはレイナ副団長の顔色はかなり良くなったものですよええ。前までは常に青くてせっかくの美人顔が目に隈を作って台無しっていう状態でしたからね。今は少し疲れが見えるくらいです。


 とは言ったもののカイ団長がここを出て行ってからはとても忙しい日々が続いております。


 なんでかって?


 あの女騎士団から結構な人数引っこ抜いて行きやがったよ!!


 元々ウチの騎士団は50人くらいの小規模な事業所だったんですけどね!あの人そこから20人引っこ抜きましたからね!?おかげで毎日人事問題に頭を悩ませるとかいうおおよそ異世界物らしくない悩みに苦しまされているんですよ!


 ウィルニキもついていっちゃうし!人の割り振りってほんとめんどくさいし!私の采配でミスなんか起きようものなら無いはずの胃が痛くなってキリキリしそうだよ!

 

 「ふぅ、今日もなんとか終わった…休憩しましょう副団長」

 「いえ、私はあと数件ほど計算がありますので」

 「団長権限です。もうそろそろ休んでください。というか副団長が休んでいないと私も休みづらいです」

 

 私がここまで言うとレイナ副団長はようやく観念したのかペンとそろばん(みたいな魔道具?)を置いて手を止めてくれました。あのね人って目の前で頑張ってる人がいるときって休むのが気まずいの


 「団長にそこまで言われますと休まないわけにはいきませんね。わかりました一息つきましょう」


 日本人でもここまでの社畜はそうそう居ないぞ。止めてなかったら私の勝手な予想にはなりますがあと3時間は働いてますこのまま。


 私なんてこの役職になってから思ったことは労働はクソということなのにこの人は…


 だがそんなことはもうどうだっていい~!!!!今は糖分だ!甘味を寄越せ!!


 「エリナさ~ん!!」

 「団長、さすがにここから叫んだとしてもエリナさんに聞こえてはいないかと」

 「ですよね。ちょっとお茶をお願いに行ってきます」


 ついめんどくさくなって大声で呼んだけど聞こえてるはずがないよね。結構大きめのお屋敷なんだから。ふわぁ~あ、面倒ですけど副団長のため、私自身のためちょっとばかし歩きますか


 「お呼びしましたかアルバ様」

 「うひぃっ!?」

 「おや、いらしていたのですねエリナさん」

 

 やっべ恥ずかしっ…素っ頓狂な声が出ちゃった。ドアの方から探していた人の声が聞こえてきてほんとにびっくりしました。

 レイナ副団長は立ち上がると団長室のドアを優しく開いて外にいたエリナさんを中に招き入れました。

 

 「き、聞こえてました?」


 一人で勝手に焦りながら聞く私にエリナさんはいつもの調子で答えてきました。


 「はい、ちょうど近くの窓を拭いていたところでしたので」

 「そ、そうですか…」

 「それで…何かご用でしょうか?」

 「あ、はい。私と副団長のお茶をお願いします」

 「かしこまりました。少々お待ちくださいませ」


 どうやら私の情けない声には触れるつもりは無いようで、私たち二人に一礼するとさっと部屋から出て行ってしまった。ふぅ…さすがエリナさんだ。気遣いが心におでんの如く沁みます。


 ここに居る人たちが優しい人たちで良かった。もし私が変な声を出したなんて噂を流すような輩が居たらまた人事のことで悩むことになるところでした。


 数分ほど経つとドアをノックする音と「失礼します。お茶をお持ちしました」というエリナさんからの声が聞こえてきた。あまりにも早い準備、思わず感心しちゃうね。


 エリナは団長室へ手押しのカートを入れると上に載せられたティーカップと小皿を二人の机にそれぞれ置いた。置かれた物の中でアルバの机に置かれたものにだけ水色の小さなリボンが巻かれている。


 「こちらをお召し上がりください。アルバ様のものはレイナ様のと比べて濃い味付けとなっております」

 

 素晴らしい!私でも皆さんと同等の味を楽しめるようにしてくれた配慮!!そこにしびれる憧れるぅ!ん?そういえばこういうちっちゃなリボンがついてるのって私のって分かりやすくしてくれてるってことでいいのかな。だとしたら本当にここの人たちって気が利くなぁ…まぁ私用の濃い味付けのものを他の人がうっかり食べてしまわないようにってことでもあるんだろうけど


 ではではお出しされたものをさっそくいただくとしましょう。お茶を冷ますなんてよろしくないですからね。うぇへへ、ほんと表情の分からない顔でよかった。もし見えていたらニマニマしてるのがバレて引かれるかもしれない。


 ティーカップを手に取って匂いを嗅ぐとフローラルという表現が近い香りがします。多分だけど乾燥させたお花を使ったお茶なのかな?鼻の奥をサーッ…っと風と共に突き抜けていきそうないい匂いですね。花だけに。

 香りも十分に楽しんだところで、兜のバイザーを上げてカップに口をつける。


 「…はぁ~…心が落ち着きます。香りと同じでスッキリとした後味ですね」


 ようやく一息つけたって感じする。そんでもってお茶請けのビスケット的なお菓子が非常に美味。あまじょっぱいのがお茶とよく合って超いいかんじ。癒されますなぁ~


 「あら…ひょっとしてこのお菓子はエリナさんの手作りでしょうか?」

 「なんですと?」

 「お口に合いませんでしたか?」


 エリナが少し困ったような顔をして追加のお菓子を取り下げようとするのを見て、アルバは急いで自分の机に上がったものを平らげた。


 「いえいえ!とても美味しいお菓子でした!よければおかわりもいただきたいのですが」

 「ふふっ、アルバ様ありがとうございます。今お注ぎしますね」


 ふっ…レディの顔を曇らせるなんてあってはありませんからね…そのためならたとえ多少の恥も覚悟の上ということです。決して食い意地が張ったとかそういったことは絶対にありませんからね。決して


 ―――――――――――――――――――


 「97…98…99…100…!よし、ノルマ終了!」


 茶もしばいて残った細かな書類も終わらせてきたので訓練場にやってきました。以前と比べると少し人が減って寂しくなっていますがもう少しもすれば新しく人を入れて賑やかにしてやりますので問題ないです。


 「お、アルバ…じゃなかった。アルバ団長お疲れ様です!」

 「お疲れ様です。本日も精が出ますね」

 「頑張って強くならなきゃいけないんで!…いけませんので」

 「あの、無理してまで敬語使わなくていいですからね?」

 「いやいや、代理団長になったんだから今まで通りにはいかないだろ?こういう所ははっきりとやらないとだから」

 「う~んそういうものなんですかね。とりあえずまぁ…私ももっと団長らしく振舞えるよう頑張ります」

 

 元同僚の騎士さんですね。今となっては私の部下になってしまいましたが

 ほんとねー…気の切り替えがむずい。前までは私と対等だったのが上下の関係になるのがあまりにも急で急で…この人以外にも元同僚の人たちとは若干接する距離に苦労しています。


 「じゃ、今だけちょっといつもの調子で話していいか」

 「ええ、大丈夫ですよ」

 「ありがとな。でな、ちょっと最近の話になるんだけどな」


 部下になってしまっても私としっかり話をしてくれることに感謝しつつも話しに耳を傾ける。おしゃべりが好きな彼の話を聞いていると時間が過ぎるのはあっという間のことだった。

 

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