59.シリアスクラッシャー・ザ・ロック
あれなんすよね。ギャグ・シリアス・真面目の配分が難しいんですよね。経験不足を酷く感じる腕前でございます。
聡明の鏡筒の冒険者曰く、こうなった遺跡はいつ全てが崩れ落ちてもおかしくないらしい。ここからは一度も足を止めてはいられない…この中で一番私が早く動くことが出来るので障害を排除するんだ。私の大切な部下のみんなをこんなところで失うわけにはいかない。
道を進みながら意識を天井へと向ける。ここから落ちてきて誰かに当たりそうだと思ったものを見つけ片っ端から斬る。いまのところはまだ私が対応できるだけの量だからいいんだけど…大きいものが落ちてきたら安全に済ますことが出来るかは分からない。
とはいってもさすがは騎士団のみんなだ。私が守りやすいように集まって動いてくれている。みんなが走ることに専念してくれている。信頼されているな…なら団長としてその信頼にこたえないとね!
一つ、また一つと騎士の頭上に落ちてくる天井を弾き返す。
「助かります!」
「騎士団長!左から来ます!」
「分かったよ!ありがとう!」
はっ!やっ!ほいっと!頑丈な剣にしてもらって本当によかったよ。こういうときに役立つなんて思わなかったけどね!
「そこだっ!『ウォータバレット』!」
少し離れたところに居た騎士に降ってくるのを見つけるとすぐに魔法を唱えて迎撃した。もし私が物語に出てくる伝説の賢者様みたいな魔法の才能があったらこんなことしなくても済むんだけどな…私には剣と魔法を組み合わせて器用にやるしか出来ないんだけどっ!
手に集中させた魔力水の玉となって振り落ちる石の天井を砕く。降ってくる数が増えているのを見るとそろそろ本格的に崩れ始めてきたのかもしれないと感じる。
…とっさに魔法を使ったけどできるならあまり使わないほうがいいのかも。外して天井に当たったら余計に崩壊を招く結果になっていただろうし、確実に当てれるとき以外には使いたくない…んだけどっ!
外したときのことと今やらなきゃいけないことに葛藤していると今まで通ってきた道よりも開けた通路につながった。心当たりがあるのは…
「騎士団長!まもなく転移の罠があった地点かと思われます!」
よし、それならかなり入り口に近いハズだね。そこさえ抜ければあとは道なりにまっすぐに突き進めば辿り着ける!
喜びに拳を握りしめると不意に前方から紫色の光が現れた。
「なんだ!?」
「おいおい…あの光はまさか…」
「騎士団のみなさん!気をつけてください!転移罠が起動しています!」
転移罠が?つまりこのままだと私たちが何処かに飛ばされるってこと?でもゼナスさんって人はきっと危険な場所って言ってたよね…なら!
左手に魔力を集めたまま光の方へと飛び出す。宙から床を見ると見るからに怪しい魔法陣が光を放っているのがよくわかる。魔法の罠なんて私にはまるっきりわからないけど陣を崩してやればまともに動かなくなりそうな予感がする。
「このままあの罠を壊して…」
「違うんです騎士団長さん!何かがここに転移してくるんです!」
「ギァィィィィァァァァァィァィイァア!」
私が今までの聞いた中で最も醜い鳴き声だった。いや、鳴き声というのも難しい音だった。他の生き物や魔物の鳴き声なら文字にするのもできるし、遊びで鳴きまねなんてのもできると思うけど、私の目の前に出てきた化け物はそれすら難しいやつだった。
あえて言うなら…蟲の肉塊?体のあちこちに今まで出てきた蟲たちの頭だったり手足だったりがいびつに生えていて、それでいてその場から動くためには使え無さそうになっている。生物…生き物なの?その外見はあまりにも混沌としている。きもちわるい
主となっている頭部らしい箇所には4体ぐらいの蟲を無理やり混ぜたみたいな状態の頭が備わっている。ほんとうにきもちわるい。
何よりもきもちわるいのが甲殻?の間からは黒い肉みたいなのが溢れていてさらにそこから黄緑色の体液が滴っている。きもちわるい
「うわっ!…うわぁ……」
突然の出会いに驚きつつも一度詠唱を中止して、化け物の身体の一部に着地するとそのまま後方へと跳ね返る。
「騎士団長!」
「私は大丈夫。ちょっと驚いただけ。…それよりも嫌な感触だな…」
「お怪我は?」
「無い。それよりもあいつ、結構めんどくさい相手かもしれない。帰り際に軽く斬ってみたんだけどまるで通ってない」
右手に握る剣を見る。どうにも変な感触だった。ここで嫌になるほど斬ってきた魔物たちに似ているがそれが何層にも重なってさらにその奥にものすごい量の筋肉が詰まっているという感じだ。
「…さて、あいつどうしよっか。倒さないと邪魔になって通れないだろうし」
とても都合のいいことにヤツの身体は自分たちが向こうへと行くためには倒さない絶対に通れないことが一目でわかる。もちろん自分だけ行くなら奴の身体を足場にして抜け出すこともできるが…そんなのお断りだね。
…でも私にあいつをどうにかする手立てが無いのも事実…どうしたものかな。
「…だめだね。ちょっとアレは私と相性が悪いかもしれない。誰かああいうのを倒せる魔法とか持ってない?」
「一応火炎の魔法に心得はありますが…あまり魔法は得意でないので期待できないかと」
「いいんだ、試すだけ試してみよう」
一人の騎士が手を挙げた。この際何か手立てがある人がいるならやれるだけ試してみるしかない。
「はっ。それでは…『ファイアボール』!」
騎士が放った火の玉は肉塊に当たると滴る体液が燃えやすいのかあっという間に全身に炎が燃え広がった。
「ギャィィィィァァォゥッゥゥァァァァ!」
「うるさっ…でもよく燃えるじゃん」
火が効くならいずれ…と思ったけどこの手段は少し間違いだったかもしれない。火のついた化け物がただでさえでかい身体を揺らして暴れ始めたのだ。それに苦しんではいるものの甲殻が焼けても下にある重なった甲殻のせいで見た目だけ派手に燃えているという状況だ。
「…さすがにこれ以上時間は掛けていられないんだけどな…!」
―――――――――――――――――い
うん?今なにか声がしたような…誰か私のこと呼んだかな?
化け物を警戒しながらも後ろの様子を伺うと誰もそのような雰囲気は放っていない。気のせいだったのだろうか。
…?違う振動?崩壊とは関係のなさそうな振動が足元から伝わってくる。一体どこから…
「…ねぇなんか…何か動いてないかな?」
「はっ…?私共は特に何も感じませんが…」
――――――――――――――――あい
声がする。この声は…アルバ?いやそんな…もしアルバなら…横?
ほのかに響いて聞こえるのはこの遺跡の奥深くに落ちてしまったアルバの声だ。もしかして彼は無事に帰ってこれたのだろうか。それなら心残りもなくなるというものだ。それに彼ならこんな状況でも突拍子もないような意見を出してくれるかもしれない。
「…まったく、帰ってくるのが遅いんだから…でも、希望は見えた…かな?」
小声で呟くと周囲の揺れがさらに激しくなってくる。それと同時に揺れとは違うような音が―
ガコン!
突如として化け物の右側の壁が上下に開き、一本の通路が繋がった。その先には…
「やばぁぁぁぁぁい!!!!誰か助けてぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
…なんとも騎士らしくない悲鳴を上げながら一つでも採寸が間違っていれば通路に詰まってしまいそうなほど巨大な丸く転がる岩に追いかけられているアルバの姿があった。
「アルバ!生きて…」
「はっ!なんあのバカキショイやつ!?はっ!そういうことかっ!」
こんな時にも彼は一人で騒いで一人で納得して理解しているようだ。生きていたのかと喜びたいような呆れてしまうような。
「あぶなーい!!」
アルバは背後に迫りくる大きな岩石をギリギリまで引きつけたところで横へと飛び込んで化け物に誘導して命中させた。
「ギチュッ…」
化け物は一瞬悲鳴のような声を出して半身を引きつぶされて沈黙した。丸い岩石はそのまま化け物の身体を通り抜けて壁に大きな穴を作って何処かへと転がっていった。
「ふ~…いやぁ~危なかったですね。でもまぁいきなり飛び出してきたあっちのほうが悪いですよね?」
「いや多分絶対キミの方が悪いと思うけど」
「まぁ結果的に道が開けたんでとっとと逃げましょう団長!せんべいみたいにぺしゃんこにされるのはお断りですよ!」




