その本拠地(ホーム)にて Ⅳ
「パーティー間のトラブルに対する最終手段だ。サーラが言っていたように話し合いで、カタが付かない時にギルドの監視下の元で勝負して、シロクロつけるやり方なんだが、もう何十年も行われていない。オレも話に聞いた事しかないしな」
「グリアムさんの表情から察するに、そこに何か突破口を見出したのですね」
アザリアがグリアムを見つめながら納得する姿に、グリアムも視線をアザリアに向ける。
「ああ。サーラのじいさんがよくやっていたっていう豚は、互いに代表者を数名立てての団体戦で、パーティーの力の差が出やすい。猫はパーティーの中から強さ自慢のやつを代表として立て、1対1で勝負するってやつだったと思う。そんで、犬が早さの勝負。たしか、指定されたアイテムを、先に緩衝地帯へ届けた方の勝ち⋯⋯じゃなかったっけかなぁ」
「な、な、なるほど。早さ勝負なら、か、勝てると⋯⋯」
「ああ」
グリアムと交わる視線に耐えられないアザリアは俯き答える。そんなアザリアを気にも留めず、グリアムは逡巡しながらも言葉を続けた。
「ギルドで確認しないとなんとも言えんが、多分今もその制度は生きているはずだ。そんでたしか⋯⋯互いに二つだか三つか、条件を出せたはずだ」
「ですです。ウチのじいちゃん達も、それで仲間を増やして強くしていったって言ってました」
「強く?」
サーラの言葉に俯いていたアザリアが顔を上げる。パーティーのリーダーとして、どこか引っ掛かる言葉だった。
「はい。勝利の条件に、勝った方の傘下に加わるというのを毎回入れてたそうです。勝負した相手から、強い人を引き抜いていたみたいです。『いくらボコボコにしても、つえーやつは、立ち上がるんだよ』って、いつも言っていました」
祖父との記憶を懐かしむサーラの穏やかな表情とは裏腹に、アザリアは表情を曇らせた。
「それって、強い人を引き抜きたいからって理由で、無理やり勝負を挑む事も可能にならないのかな?」
「いや、ならんさ。その為にギルドが介入するんだ。トラブってもいないのに難癖つけるようなマネはさせん。少なくとも互いに納得した上で、ってのが、前提になるはずだ」
「よ、よかったです。もし、そんな理由で自分のパーティーが難癖付けられたらと思うと、ゾッとしてしまったので」
少しドギマギとしながらもアザリアはしっかりとグリアムに答える。そのアザリアのパーティーへの確かな想いに、グリアムは柔らかな表情を見せた。
「ここに手を出すやつはいねえだろう」
な、何ですかその優しい笑顔は!?
アザリアは両手で口元を覆い必死に表情を隠しながらも、やる気を見せていった。
「⋯⋯そう言って貰えると安心です。何でも言って下さい、私達は全面的にお手伝いしますので!」
「ホント、それ! なんでも言ってね」
「ああ。早さ勝負となったらラウラにまた手伝って貰うかもしれん」
「任せて! シンもいるからね⋯⋯あ、ウチの狼⋯⋯ね」
アザリアは両手で口を覆ったまま俯いてしまい、ラウラは彼女らしく口端を上げて見せた。
「でも、師匠。もし相手が勝負に乗ってこなかったり、ギルドがノーって言ったらどうすのですか?」
「今回の件に関しては両方とも十中八九ねえな。ミアを通してやればギルドが首を横に振る事はねえし、弱い者いじめしか出来んやつらだ、ウチみたいなC級が喧嘩をふっかけたら喜んで買うに決まっている」
グリアムはあの時のダンジョンでの【レプティルアンビション(爬虫類の野心)】の振る舞いを思い出し、その言葉には確信を得ていた。
■□■□
ダン! ダン! ダン!
(おーい! いますかー)
【ノーヴァアザリア】の本拠地を訪れてから数日、グリアム達【クラウスファミリア】は静かに日常を送っていた。何事もない平穏な午後が、玄関を叩く強めのノックの音でゆっくりと動き始める。
グリアムは聞き覚えのある声に、すぐに玄関を開けた。
「よお。早かったな」
「まあね」
不敵な笑みを見せるラウラを、居間へと案内し、互いに腰を下ろしていく。
ラウラがここに来る理由はただひとつ。裏を洗って貰っていた【レプティルアンビション】と【ライアークルーク】との繋がりに進展があったという事だろう。
「ヴィヴィちゃんとサーラちゃんは?」
「ヴィヴィはテールを連れてどっかフラフラしていて、サーラは上層のクエ(スト)だ。相変わらずだよ」
「そっかそっか」
そう言って、コトリと置かれたお茶をラウラは一気に飲み干した。ここまで急いで来て、喉が渇いていたのだろう。グリアムは黙ってお茶を継ぎ足した。
「で、どうだった?」
ラウラは一瞬間を置き、ニヤリといつもの笑みを見せる。その笑みの意味はすぐに分かった。
「グリアムさんの予想通り、【レプティルアンビション】は【ライアークルーク】と繋がりがあったよ」
「やっぱそうか。女神の横顔の紋章を見ても、ビビらないわけだ」
「グリアムさんが予想してくれてたから、あっさりそこは分かったんだけど、問題はその先。なんでB級が上層を荒らしていたか。それを調べるのに少し時間が掛かっちゃった」
申し訳なさそうに体を小さくしながら、ラウラはゆっくりとカップに口をつける。
「いやいや、十分早えよ。で、やつらは何で上層を荒らしていたんだ?」
「端的に言えば、後ろにいる【ライアークルーク】のせいだね」
中央都市セラタを代表する大パーティーのひとつ、【ライアークルーク(賢い噓つき)】が、上層で手に入る平凡なドロップを欲する理由がまったく分からず、グリアムの中で話が見えてこなかった。
「どういう事だ?」
困惑するグリアムを見つめながら、ラウラはもったいつけるかのように、またゆっくりとカップを口元へと持っていった。




