その恩返しはリーダーのいない時に Ⅲ
D級の急造パーティーとはいえ、上層(5階まで)は苦もなく通り過ぎる。ただ、連携らしい連携などなく、競い合うかのようにモンスターの核を潰し合うだけだった。
そんなパーティーの姿にラウラは困ったと眦を掻き、ラウラの思いを汲むグリアムも、ヤレヤレとばかりに何度も首を横に振る。
「「はぁ~」」
グリアムとラウラが時折見せる溜め息のユニゾンが、このパーティーの現状を現していた。
■□
そして10階——。
「シッ!」
「ハァッ!」
サーラの鉄靴が、襲い掛かるベイビートロールの膝を見事なまでに打ち抜く。その隣でカロルの切っ先は、ベイビートロールの左胸をひと突きした。膝から崩れ落ちるベイビートロールを互いに確認すると、ふたりの視線は一瞬だけ混じり合う。
「「フン!」」
サーラとカロルは視線が混じった瞬間、示し合わせたかのようにそっぽを向き合った。
下層に入っても、パーティーの歩みは止まらない。だが、連携が取れないのも、そのままだった。いつまで駄々っ子のように拗ねているのかと、グリアムとラウラは何度も首を横に振り天を仰いだ。
こんなんで、この先大丈夫か?
ホブゴブリンの群れにヴィヴィが、ハンドボウガンの乾いた音を鳴らす。
その横をすり抜けアリーチェが飛び込んで行く。
「ちょっと、撃ってるのに危ないでしょう! 勝手に飛び込まないでよ!」
「おまえが撃つのを止めればいいだけの話だろ!」
怒鳴り合うふたりから、要らぬ緊張感をパーティーは纏ってしまう。そこに何のメリットも存在しない。そんなふたりの姿に、グリアムとラウラは、心の中で何でも嘆いた。
なにやってんだか。
なにやってんのよ。
ふたりは揃って溜め息混じりの言葉を吞み込み、うな垂れてしまった。
ドロップを拾うグリアムと、それを手伝うヴィヴィとサーラのふたり。その姿に、カロルとアリーチェはあからさまに下卑た視線を向ける。ラウラの手前一応は大人しくしてはいるものの、その視線は要らぬ緊張をさらに煽り、パーティーから殺伐とした空気を漂わせた。
その視線にグリアムは、サーラへ耳打ちをする。
(サーラ、ドロップは手伝うな、拾わなくていい。ヴィヴィにも伝えろ)
眉間に皺を寄せ、納得のいっていない表情を見せるサーラにグリアムは続けた。
(この時間は潜行者達の休憩する時間、その為のシェルパだ。ここでは何が起きるか分からない、体力を少しでも温存するクセをつけろ。この先、小さな積み重ねが効いてくる)
(でも⋯⋯)
(いいな)
(⋯⋯分かりました、師匠。ヴィヴィさんにも伝えておきます)
サーラのやつ、出会った頃とは、えらい違いだな。
案内人への接し方は、もっと普通だったんだけどな。
イヴァンやヴィヴィの影響か?
素直の言葉の裏側に、納得していないサーラの心模様がチラチラと見え隠れする。
グリアムは思うようにいかない様を、また心の中で嘆いた。
「いやぁ~もっとうまい事いくかなぁって、思ったんだけどねぇ。そう思うようにはいかないね」
「まったくだ」
ドロップアイテムを拾い終わったグリアムの隣にラウラが立つと、それを合図にして、ふたりは歩き始める。
すれ違う潜行者達の【忌み子】を見つめる怪訝な視線も、ラウラの紋章が目に入ると黙って視線を逸らした。
変に絡んで来るやつなどおらず、歩みは順調。だが、噛み合わない連携が、グリアムとラウラの頭を悩ます。先を慮るふたりの溜め息が止まらなかった。
「ヴィヴィちゃんとサーラちゃんだけでも、C級なら余裕だね」
「いや、どうかな。絶対的に経験値が足りん。人数が多い方が楽に進めるはず⋯⋯なんだけどな」
「本当にね。仲良くした方が楽ちんなのに、何がイヤなんだろう?」
「まったくな。何がそんなに気に入らんのか」
ふたりの思考は同じ言葉を繰り返した。
「そりゃあ、大好きなグリアムさんを見下されたからでしょう」
「その言葉そっくり返すぞ。随分と慕われているじゃねえか」
「慕われるねぇ⋯⋯そんなガラじゃないんだけどなぁ。【ノーヴァアザリア】はさ、C級に上がるまで、必ずA級かB級の人間と一緒に潜行するって決まりがあるんだ。ウチのリーダーってば、過保護なんだよね」
ラウラは前を向いたままグリアムに答えた。
「必ずか? そいつは随分と過保護だな」
「うん? ベヒーモスをみんなに装備させているグリアムさんがそれ言う? 私から見たらどっちもどっちだよ」
グリアムは返事を返さず視線を逸らす。照れているのか何なのか、とりあえず返事をごまかすグリアムの姿に、ラウラは笑みを浮かべる。
「シシシシ、グリアムさんったら、照れちゃってもう。ウリウリ」
「なんだよ! 照れてねえし」
ラウラが肘でグリアムをグリグリしている姿に、後ろから見つめるD級娘達は、何を見せられているのか一瞬分からなかった。
シェルパとA級がじゃれ合う予想だにしない光景に、ダンジョンでの緊張感は消え失せ、困惑と驚愕に見舞われる。
「グ、グリアム、なんかデレデレしてない?」
「ラウ様も、シェルパとなんて!」
「「ムムム」」
ヴィヴィとカロルは前方のふたりの背中を、険しい表情で睨んだ。
「もも、もしかして⋯⋯師匠⋯⋯ラウラさんと⋯⋯いや⋯⋯でも⋯⋯ありますか⋯⋯いやいや⋯⋯でも⋯⋯」
「わ、私のラウラ・ビキが⋯⋯」
「「ど、どうしよう!?」」
考え過ぎのサーラとアリーチェは、何故かあわあわと慌てる素振りを見せる。
後から妙な気配を感じ、グリアムは振り返った。険しい顔で睨んでいるヴィヴィとカロル、落ち着きを失っているサーラとアリーチェの姿が目に映る。何が起こっているのか分からないグリアムは、11階へと繋がる回廊を前にして思わず足を止めてしまった。
「なんだおまえら? どうした? 次は11階だぞ。緊張感持っていけよ」
「緊張感持って? グリアムがそれ言う?」
「はぁ? 何言ってんだ」
グリアムを睨むヴィヴィに、グリアムの困惑は深まるばかり。
「ラウ様も⋯⋯こう⋯⋯なんか⋯⋯イチャこら⋯⋯大丈夫ですか? ちゃんと私達の面倒も見て下さいね!」
「え?! なになに?」
ラウラも、カロルから思いもしない詰められ方をされて、困惑するしかなかった。
「そ⋯⋯その、あ⋯⋯あの、ラウラさん、師匠の独り占めはどうかなぁ~なんて、思ったりしたり⋯⋯して」
「ラ、ラウラさんも、私達をしっかり見てくれないと、この先の事もありますし⋯⋯」
「「ねぇ~」」
サーラとアリーチェは、しどろもどろになりながら頷き合う。
「はぁ? 何言ってんだ? おまえら」
「⋯⋯ハハァ~ン」
しどろもどろのサーラとアリーチェに、グリアムは表情をますます険しくさせた。グリアムにはまったく的を射ない言葉の数々に、困惑だけが深まっていく。
だが、その挙動不審なD級娘達に、ラウラは何か気が付いた。ニヤリと口端を上げると、ラウラの瞳がキラーン! と輝きを放つ。
「あ~ん、グリアムー!」
「な、な、なんだ!? おい、なにしてんだ!!」
ラウラは、グリアムの腕に自らの腕を絡め、ピタっと寄り添って見せた。密着するグリアムとラウラに、ヴィヴィとカロルは、口をあんぐりと開けたまま固まってしまい、サーラとアリーチェはあまりの困惑ぶりに、思考はぐるぐると同じところを回り続ける。
「⋯⋯ラ、ラウ様⋯⋯そんな⋯⋯」
「いいですか、ラウラさん! し、師匠はみんなのものですらね!」
「ラウラさん、ダンジョン! ここダンジョン!」
「⋯⋯グリアム、エッチ」
「ぅおい! ラウラ! 離れろ、離れろ!」
「ニャハハハハ! グリアム~」
必死に腕を振り解こうともがくグリアムを面白がるラウラは、さらにギュっと体を密着させる。
「離せー!」
「ラウ様に離れろとは何だ!」
「ラウラさんが、抱き着いているんだから、光栄に思いなさい」
「し、師匠⋯⋯そうだったのですか⋯⋯私達の事はもう⋯⋯」
「グリアム、スケベ」
「どうしろって言うんだよ!」
「アッハハハハハァ~。はぁ~面白かった」
満足気な表情を浮かべ、ラウラはパっとグリアムを解放すると、グリアムはラウラを睨みつけた。
「オレで遊ぶな」
「ニャハハハ、ゴメン、ゴメン」
グリアムとラウラが後ろへ振り返ると、そこには、なぜだか燃え尽きている急造パーティーの姿。モンスターの戦闘ではあんなにも余裕な姿を見せていたのに、抜け殻になってしまった四人の姿に、ラウラは苦笑いを見せた。
「やり過ぎちった⋯⋯かな?」
「かなじゃねえ。やり過ぎだ、まったく」
「おい、おまえら、11階だぞ。気合い入れ直せ」
パーティーへと振り返るグリアムに、冷めた瞳が八つ、一斉に向いた。
「グリアムがそれ言う?」
冷え切ったヴィヴィのひと言に、パーティーは大きく頷き、何故かひとつになっていた。
オレ、なにかしたか?
グリアムは溜め息と共に大きく肩をおとすと、大仰に胸に手を当て、パーティーへと向き直した。
「分かりました。では、皆様、次は11階でございます、難易度がまた上がりますので、お気を付け下さいませ⋯⋯これでいいか」
「なんかやっつけ感があるなぁ~まぁ、いいや。みんな行こう!」
ヴィヴィとグリアムのやり取りに、ラウラは他人事のように肩を震わせ、笑いに耐えていた。
「おまえのせいだぞ」
「ごめん、ごめん」
溜め息混じりのグリアムが、急造パーティーを11階へと誘って行く。




