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そのダンジョンシェルパは龍をも導く  作者: 坂門
その暗闇での模索

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その暗闇での模索 Ⅷ

 エーリッヒを先頭にして、ずかずかと横柄とも取れる足取りで本拠地(ホーム)の中へと進入する。

 居間ではマノンがディディアとファビオの肩を抱き、いきなり訪れた不穏に寄り添っていた。そして、グリアムはエーリッヒ達から少し距離を置くとラウラにそっと囁く。


(しかし、いきなりどうした?)


 ラウラの訪れは、願ってもないタイミングだったが、来訪の意図はまったく見えない。ラウラはエーリッヒの背中を睨みながら、声量を最大限落とし答えた。


(ちょっとね⋯⋯今はマズイんで、あとで話すよ)

(マズイって⋯⋯)


 少し引っ掛かるラウラの物言いだったが、いきなり振り返るエーリッヒに、グリアムは咄嗟に口を閉じる。


「上から見せて頂いてよろしいかな?」

「好きにしろ」


 階段を上りエーリッヒ達が三階に辿り着くと、片っ端から部屋の扉を開け放ち、何かを探し始めた。


「ちょっと! 人の家なんだから、もう少し丁寧にやんなさいよ!」

「申し訳ございません。ほら、みんなもっと丁重に扱おう」


 ラウラの怒号にエーリッヒが素直に応じると、ふたりのエルフは面倒そうにエーリッヒを睨んだ。荒かった扉の開け閉めは静かになったが、粗探しをする姿はやはりどこか不遜が見え隠れする。


「だいたい、何を探してんの? 犬が人を襲って、何で家を探すのよ?」

「ラウラ・ビキさん、犬の習性はご存知でしょうか⋯⋯自分の宝物を隠し持つという習性があるのですよ。その隠し持つ宝の中に、人を襲ったという証拠があるかも知れない⋯⋯ですし、ないかも知れません」

「テールが人を襲うわけないじゃん。バカバカしいったらないね」


 家を粗探しするためのこじつけにしか聞こえず、ラウラは心底呆れて見せるが、エーリッヒは意に介さない。そのこじつけに眉をひそめながら、グリアムはエーリッヒの背中に声を掛けた。


「その犬が人を襲ったってのはいつの話だ?」

「あ⋯⋯ええっと⋯⋯たしか、今日の午後から夕方にかけてくらいでしょうか」

「はっ!? 今日の?」

「ええ。早くに動けるなら、それに越したことはないと思いませんか」


 エーリッヒの言葉にグリアムは驚きと戸惑いを同時に見せた。


 いくら何でも早過ぎだろ。さっきの話でギルド(こいつら)はもう動いているってのか。

 しかし犬の習性とは、粗探しをする理由が雑過ぎる。こじつけもいいところだ。そもそもテールにそんな習性なんてあったか? コイツ、冷静な顔をしてはいるが、内心焦っているとか? そうだとしたら、いったい何を焦る⋯⋯きっと、アクス絡みだよな。とはいえ、問い詰めたところで証拠も何もねえ。吐くわきゃねえよな。


 行動に移すまでの、あまりの早さにエーリッヒ達の動きをうがった見方をするのは当然のこと。グリアムが視線を上げるとラウラと目が合った。グリアムとエーリッヒのやり取りに、ラウラもやはり違和感を覚えたようだった。

 三階はほとんど使っていない。物置として使わない物がときおり部屋の中に転がっている程度で、エーリッヒ達はすぐに二階へ下りて行く。

 エーリッヒが当たり前のように、グリアムの部屋の扉に手をかけた。


「おい、人の部屋まで覗くのかよ」

「当然ですよ。何か問題でも? 鍵をお借りできますか?」


 エーリッヒは当たり前のように、手を差し出した。グリアムは苛立ちを隠す事なく、本鍵(マスターキー)の束をエーリッヒの手に振り下ろした。

 二階は各自の部屋が並び、エーリッヒ達の捜索にも時間を掛け始める。何ともいえない不快な時間を過ごすグリアムの眉間の皺は深くなり、表情は険しくなる一方だった。

 角部屋に当たるヴィヴィの部屋を捜索していた、大柄なエルフがニヤケ顔を部屋から覗かせる。


「エーリッヒ、こんなもんがあったぞ」


 そう言って手にした布切れをヒラヒラと見せびらかした。


「おっと⋯⋯これはこれは、被害に遭われた方の服にそっくりですね⋯⋯いや、これはそうなのではありませんか」

「はぁっー!? 何言ってんだ、てめぇ。ふざけるのも大概にしろや!」

「ふざける? いたって真剣ですけど」


 熱くなるグリアムを軽くいなすエーリッヒに、グリアムはさらにヒートアップしてしまう。


「何なんだこの茶番はよ! いったい何が目的だ!」


 エーリッヒに顔を寄せ、凄むグリアムに冷笑を返す。


「これはギルドとして、この本拠地(ホーム)を徹底的に調べさせて頂かないとなりませんね。人数をかけてじっくりとね」


 エーリッヒはグリアムに勝ち誇ったように微笑んで見せた。


「⋯⋯あ! しばらくの間住むところにお困りでしょう。ギルドで用意をしますので、ご心配なく」

「は?」

「ギルドの上階に、空いている部屋がたくさんありますのでご心配なく」


 そんなもん、体のいい投獄じゃねか! 間違いない、アクス絡みでなんかあったんだ⋯⋯。襲われたって言っていたな。まさか、アクスが死んだ?! いや、憶測で悲観するのは賢くねえ。でも、間違いなく何かイレギュラーが起きているんだ。何が起こってやがる⋯⋯。


 いやな想像をしてしまったグリアムの表情が曇る。そんなグリアムの後ろで、ラウラは静かにやり取りを見守っていた。


「ねえ、なんで証拠品が出たってのに、捜索を続けるの? おかしくない? 普通なら捜索を打ち切って、関係者の話を聞こうかってなるじゃん。アンタ達の動きって、初手から変なんだよね。だいたいその布切れだって、アンタ達が持ち込んだんでしょう? アンタら胡散臭過ぎるよ、何に焦ってるのさ?」


 ラウラの殺気すら感じる冷たい表情に、エーリッヒ達は捜索の手を止め、グリアムとラウラの前に立ちはだかる。


「そちらこそ、何を根拠にそのようなことを申されるのですか? 醜い言い逃れでもしようという腹ですか?」

「何を根拠って⋯⋯だって、無理だもん。テールが人を襲って、その布切れを咥えてここに戻って来たっていうんでしょう? 夕方からテールはずっと【ノーヴァアザリア(ウチ)】にいるのに、どうやってここに咥えて来られるの? 瞬間移動でもしたっての?」


 ラウラのひと言で、空気が一瞬固まった。ずっと表情を変えることのなかったエーリッヒのこめかみがピクリと動き、グリアムはラウラに向いて、驚愕の表情を見せる。


「え?! あいつら【ノーヴァアザリア】の本拠地(ホーム)にいるのか?」

「うん。ヴィヴィちゃんとパオちゃんとテールで、遊びに来たんだよ。今もウチにいるし、それを言いに来たんだ」


 その言葉に、エーリッヒの表情が凍りつく。追い込んでいたと思っていたものが、一気にひっくり返されてしまい、エーリッヒの表情から余裕は消えて行った。


「さてと⋯⋯エーリッヒさんよぉ、ご説明頂こうか。納得のいく説明してくれんだよな? ギルドの名を語り、人の家に押し入ったんだもんな。そのデカい野郎が手にしている布切れが被害者の物って言い切るなら、オマエらが持ち込んだんだよな? ⋯⋯もしかしてオマエが犯人か?」


 鋭い眼光を向けるグリアムから、エーリッヒは視線をゆっくり外す。


「⋯⋯ぁ、良く見たら、被害者な物ではありませんね。失礼いたしました」

「あ? 舐めんなよ。小せえパーティーならどうにでもなると思ってたんだろ?」

「何をおっしゃっているのか分かりませんね。お騒がせして申し訳ありませんでした」

「後ろの子分共は、納得いってねえみてえだが」


 鋭い眼光をぎらつかせるふたりのエルフが、グリアムを睨みつけていた。


「おい、【忌み子】。私はこいつの子分ではない。不快な物言いをするな」


 小柄なノーラと思われる女エルフの上から目線の物言いは、グリアムの怒りの沸点を下げていく。今にも爆発しそうな怒りに、グリアムは小さな女エルフに目を剥いた。


「知るかクソちび」


 グリアムが言い放つと、廊下は一触即発の空気に満たされ、些細なきっかけで今にも弾けてしまいそうだった。


「ノーラ、落ち着こうか。あなたも落ち着いてはどうですか?」

「いけしゃあしゃあと良く言えんな。最初に粉かけたのはテメェだろうが」


 エーリッヒが懐に隠していたナイフを取り出す。

 だが、それより早くグリアムのナイフがエーリッヒの首元に添えられていた。首元から伝わる感触に、エーリッヒはゆっくりと首元に視線を落としていく。


「申し訳ありません、誤解させてしまいましたね。こちらのナイフはハイミスリル製です。売って頂ければそれなりの値段になりますので、お詫びにお渡ししようと思っただけです。どうかこれをお納めください」


 エーリッヒはナイフの刃先をつまんだまま手を上げて見せ、攻撃の意志がないことをアピールした。ラウラがそのナイフを奪い取ると、エーリッヒが手を下ろそうとした。


「下ろすな、そのままだ」

「グリアムさん、どうする? 死人に口なしって言うし、面倒だから消えて貰う」


 品行方正なイメージのある【ノーヴァアザリア】のメンバーの言葉と思えず、顔色を変えることのなかったエルフ達に一瞬の緊張が走った。A(クラス)潜行者(ダイバー)を相手にするのは分が悪いと考えたのか、今のグリアムの動きを見て、甘くない相手だと認識したのか、エーリッヒ達から一気に余裕が消えていった。


「コイツらはどうでもいいが、コイツらの後ろにいる野郎が厄介そうだ」

「後ろねぇ~」


 ラウラはやれやれと手を頭の後ろで組んで、攻撃の意志を収めて見せた。


「コイツには伝言役をやって貰う。後ろにヤツに言っておけ、『首洗って待ってろ』ってな」

「あ! ウチもウチも! ギルドっていうか、アンタ達の後ろいるヤツ⋯⋯『ぜってぇ許さねえ』って。一緒に宣戦布告しちゃう」

「わかったらサッサと出て行け。二度と来るんじゃねえぞ⋯⋯次その顔を見せたら、有無を言わさず、その喉掻き斬ってやる」


 静かな凄みを見せるグリアムと、冷笑を浮かべるラウラに、エーリッヒ達は大人しく本拠地(ホーム)の玄関を抜けて行く。その表情は悔しさを滲ませ、そして同時に、何かに怯えているようにも見えた。


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