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さんじゅうに
何度も歩いた坂道も車で走れば易いものだった
汗を垂れ流し、熱にうなされながら帰った子どもの記憶
学校から近いはずの寮もその日は遠く感じていた
田舎だから仕方ない、私の母校は廃校になった
厚かましくも構内に車を停めて、思い出の散策に出掛けた
亀裂の入った黄色い壁はくすんで白くなっていた
何処から流れてきたのか隙間からは軟らかい水が滴っていた
毎日多くの生徒を抱えた校舎の気持ちはどうだろう
やっと楽になれると安堵しているのか
寂しさに燃え尽き症候群となっているのか
私は彼の懐を知ることはできない
隣にいる友人は赤ちゃんが生まれ母の顔になった
いつか子どもが巣立った後の静かな畳で眠る時
廃校のわびさびを思い出すのだろうか
子どももいない私の妄想だけが広がっていく
 




