なお、重量は関係ない。
「何か魔法見せてくれ」
いつものプロテクトスーツに着替えたカイトはコギャルとともに目的の薬草が群生しているという場所を目指しながら話す。コギャルが人差し指を立てるとそこにライター程度の小さな火が灯る。道具を一切使わず灯ったその火にカイトが手を近づけると確かに熱を感じた。見せかけではない本物の火だ。
「すごいな。初めて見た」
かれこれ結構な期間を街で過ごしてきたが魔法を見るのは初めてだった。
「これくらいなら素質があれば誰でもできるよ」
「素質か。俺にもあるかなぁ。あってほしいなぁ」
依頼者が珍しく同世代ということもあり話が弾む。そしてカイトと同じくらいの若い世代は自分で何でもこなすためほとんど来ないし普段の依頼人はもっと上の世代の人ばかりであり、こうして一緒に何かをしてくれたりはしない。依頼したら後はやっておいてくれのパターンだ。だからこうしてヤミコ以外の人と何かをするというのは割と珍しいことだったりする。
「そういえば自己紹介してなかったっけ。ウチはマノイ。さっきも言ったけど魔法使いやってるんだ」
「俺はカイト。今後ともご贔屓に」
ちなみに便利屋に若者のリピーターは今のところいない。
「気になっていたんだが何故依頼に来た。ギルドのメンバーと協力すれば必要なかっただろ?」
依頼の内容を聞いた時から少し引っかかっていたことだった。1人で解決出来ないから便利屋を頼るのはわかる。だがギルドを組んでいるのだからギルドのメンバーとともに解決すればいい。ギルドがあるなら便利屋は不要なはずだ。
「皆忙しいからさ。ウチの担当が薬草集めってだけだよ」
腑に落ちるような落ちないような。作業を分担しなければならないほどの理由があるとするなら大型のモンスターでも狩ることだろうか。だがここ数日大型のモンスターが出没したという噂は聞いていない。遠出すれば見つけることは出来るだろうがわざわざ危険な場所に苦労して行くメリットはない。
「着いた。ここだよ」
マノイに連れられてカイトが到着したのは何の変哲もない森だった。地面には草が茂って茂って茂りまくっている。
「ここに探しているものがあるのか?」
「そ、でもここ機械生命体がうろついててさ」
「つまり護衛しろと?」
「やっぱめっちゃ察し良いじゃん!」
カイトはやれやれと思いながらレーザー銃マグナ・マグナを構えて森の中へと進んでいく。カイトの覚えが正しければここら辺のエリアには特別危険な機械生命体はいない。凶暴なのはアイゼンヴォルフくらいで他はこちらから無闇に近づいたり危害を加えようとしなければ大人しい個体だ。
順調に森の中の薬草を採取し進んでいく2人だったがカイトが言葉を発さず止まるように手でマノイに合図する。前方20メートルほど先に機械生命体がいた。アイゼンヴォルフ、群れからはぐれた個体だ。周囲に他の機械生命体はおらずカイトたちには気が付いていない。カイトはナイフを持つとたった1歩の踏み込みでアイゼンヴォルフに急速接近する。アイゼンヴォルフがその存在に気が付いたその時にはナイフの刃はすでに首のケーブルを切断していた。
カイトはそのまま流れるような手つきで装甲と装甲の隙間にナイフを差し込み心臓部であるコアを破壊し機能を停止させる。改めて周囲を確認するが異常はない。
「え?マジ!?今のマジで倒したの!?」
「ん?ああ」
マノイは試しに持っていた杖で機械生命体を突くが機械生命体はピクリとも動かない。心臓部であるコアパーツを破壊されているため当然この個体が動くことはない。
「え?ヤバっやばぁ‼」
「ケーブルを切断して機能を無力化してコアを破壊。コツはいるけど大したことないぞ?」
「んお?え?えぇ・・・んん?」
カイトがあまりにも何でもないことのようにさらっと説明するのでマノイは困惑する。カイトがやったことは実は熟練のハンターたちならできる芸当だったりする。しかしこんなことができるのは本当に一握りのハンターだけでさらにはEMPで機械生命体の動きを封じるのが大前提である。自由な状態の獣を刃物1つで確実に殺せる人間がいるとするならソイツは間違いなく超人だ。
「カイトっちはさぁいつも1人でこんな事やってんの?」
いきなりすぎる距離の詰め方に「か、カイトっち?」と今度はカイトが少し困惑する。
「そうだな。仲間とやることもあるけど1人の時が多いかな」
便利屋はあくまでもカイトだけであってヤミコはただのハンターだ。自分の仕事は自分で片付けるというカイトなりの信念を持ってやっている。もちろん難しい時は手伝ってもらうこともあるが他人を巻き込むわけにはいかない。分け前のせいで報酬も減るし。
「すご。ウチ絶対ムリだわ」
「慣れればそんな難しいことでもないさ」
「いやいや他人から面倒押し付けられて?命懸けて?そんでお金もらってるんでしょ?誰でも出来ることじゃないってマジ」
この世界で一体何人が金のために命を張れるだろうか。誰が他人の頼みごとに、たかが5万に命を張る?
ハンターの生存率は依頼の内容によって変動するが街の外に出れば高くて8割、低くて1割以下。
どれだけ簡単な依頼でも常に死の危険がつきまとう。今日は無事でも明日はだめかもしれない。そんな中で彼らは生きているのだ。それにこんな金など宿泊代やら装備やら必要経費ですぐに消し飛ぶ。
こんな命の価値に見合わないこと確かに誰でもできるわけではない。
「褒めても安くしないぞ」
「ケチ!」
マノイは地面に生えている薬草を探し採取しカイトは周囲を警戒し続ける。だが程なくしてカイトは違和感を覚える。周囲から生き物の声が聞こえないのだ。その理由はすでにわかっていた。カイトはすぐに万能ゴーグルを装着する。ゴーグルの機能によって木や茂みに隠れているオレンジ色の物体が映る。機械生命体だ。動きを見る限りカイトたちを包囲しようとじりじりと近づいて来ているようだ。
「マノイ、草むしりは終わりだ。機械生命体が来てる」
しかし機械生命体たちもカイトたちの動きを察知したのかカイトたちが動くよりも先に包囲網を形成する。囲んだのは個体は全てアイゼンヴォルフ。先ほど倒した個体が破壊される直前に他の個体に信号を発したか、それとも倒したところを見られていたか。数は全部で8体。遠距離用の兵器を搭載していないのが幸いだが雑に正面突破するのは楽ではない。
襲い掛かってくるアイゼンヴォルフをカイトは慣れた動きで次々と倒していく。マグナ・マグナから発射されたレーザー弾がアイゼンヴォルフの装甲を貫通しコアに直撃する。そしてもう1つのホルスターから引き抜いたインパクトマグナムの近距離射撃が爆発的な威力で強靭な鋼の肉体を粉砕する。
特に問題が起こることもなくほとんどを鉄くず同然にし、マグナ・マグナの弾が切れる頃には残りは4体となっていた。マグナ・マグナは射程が長く威力も強力だが息切れが早いのが唯一の弱点だ。
「あとはウチに任せて!」
「どうする気だ」
「まあ見ててカイトっちにだけかっこつけさせないから」
マノイは持っていた杖を天に掲げる。杖の先端、三日月の装飾が眩く光る。
「サンダーディスチャージ‼」
直後、杖から周囲に電撃が放たれる。電撃の狙いはかなり大雑把であり攻撃というよりも無差別に周囲に放電しているようだった。電撃の威力は狙いの粗さとは反対に絶大で地面や木々を焦がし、引き裂き、触れた機械生命体を次々に機能停止に追い込んだ。
カイトは銃をホルスターに収める。そして電撃を浴びて全身の回路がショートした機械生命体の残骸と切り裂かれたような周囲の地面や焦げた木々の景色の急変ぶりに対して一瞬言葉を失い放心状態になった。大して何も考えられなかったが真っ白な頭の中で唯一浮かんできた某有名映画のセリフを自然と呟く。
「こいつはヘビーだ」




