依頼再び
「いやーあんがとね‼おかげでめっちゃ取れちゃった‼」
街に戻って来たカイトたちはハンター御用達の酒場「Fallen Angels」の前で成果を確認していた。
「俺必要だったか?」
ほとんどの敵はカイトが倒しているが最後のマノイの魔法を見る限りそれさえも必要なかったように思えなくもない。
「もち‼偶然うまくいったから良かったけどウチだけじゃマジヤバかったって‼」
マノイはカイトの手を取りテンション高めにブンブン振る。あ、コイツ良いヤツだ。カイトはそう思った。バカっぽいしカイトの知っているギャルという人種の中でもダントツでめちゃくちゃ踏み込んで距離縮めてくるエグいコミュ力強者だが悪いやつではないというのはわかる。この街でこれほど不純物のない澄み切った水のような人間は珍しいものだ。学校に居たら間違いなくカースト上位の人気者だろう。
「マノイあんたこんなとこで何してんの?」
2人の会話に入り込んできたのは長いウェーブ髪の少女。カイトたちと同じくらいの歳だろうか。少女はどこか気だるげな感じだ。その第一印象にカイトは良い印象は持てなかった。喋り方と容姿。見ただけで嫌いなタイプだと感じ取ったからだ。
「便利屋の人と薬草をね」
「はぁ!?便利屋使ったわけ?勝手なことしないでよ‼ギルドの金でしょ!?」
「ウチが出すから」
「それだってギルドの金でしょ‼」
はいギルティ。前言撤回。この少女、嫌いなタイプじゃない。
『超』嫌いなタイプだ。
残念なことにカイトの直感は外れていなかった。会話から推測する限りマノイとこの少女は同じギルドの仲間のようだがあまり仲は良くなさそうに見える。マノイは一方的に怒られているだけで言い返せるような様子ではない。ウェーブ髪の少女の方が立場が強いのだろうか。
冷静に分析するのは後回しだ。このギルドの事情は知らないがとりあえずカイトは助け舟を出す。
「なぁアンタ何か勘違いしているんじゃないか?」
「はぁ?」
「俺は依頼を受けていない。こいつとは森の中で偶然出会って協力しただけだ」
カイトはポーチの中から機械の部品を取り出す。アイゼンヴォルフのコアパーツだ。コアパーツは亀裂が入っているが未だ機能しており明るく光を放っている。
「俺の目的はこれ。マノイのはそのついでだ。礼はいらないって言ってるんだが聞かなくてな」
もちろん今咄嗟に思いついた嘘だ。本当は依頼も受けたし5万モンド貰おうとしていた。このコアパーツもマグナ・マグナを充電するために常に持ち歩いているもので元からポーチの中に入れていたものだ。ちょっと苦しい嘘のような気もするがこのままウェーブ髪の少女にギャンギャン怒鳴られているマノイを見るのは気分が良くない。これは仕事とかこの街のルールとかそんな堅苦しいものではない。もっと単純なカイトの私情だ。
「ちっ‼本人が払わなくていいって言ってんだからほっときなよ」
「でも」
「いいからもう行くよ‼」
不機嫌そうに歩き出すウェーブ髪にマノイはオドオドしながらカイトを見る。カイトは「気にするな」と追い払う仕草をする。マノイは最後まで迷っていたが最終的にはウェーブ髪の後について行った。
依頼料を回収できなかったうえに気分を害されたが「まあそんなこともある」と思うことにしてカイトは家に帰ることにした。
「アイツです。女と出かけてました」
「ふぅん・・・」
帰ってきたカイトを待っていたのは密告するアメリと密告を受け怒り心頭中の作中最強キャラクター。その背後からは気のせいだろうかドス黒いオーラのようなものがメラメラと燃える炎の如く立ち昇っている。話し合いは無理だ。カイトは生命の危機を感じその場から走り逃亡しようとするが彼が走って稼いだ数メートルの距離は真っ黒な幼馴染の踏み出した1歩で意味を無くした。カイトが1メートル進むとき彼女はその数倍進む。
残念ながら逃げ切ることはできない。
すぐにカイトの叫び声が響く。アメリはその様子を物陰から震えながら見ていた。
「それで、かくかくしかじかというわけなんですぅ」
「言い残したいことはそれだけ?」
「生かしてもらうわけにはいかねえかなぁ!?」
ボッコボコにされたカイトはリビングでこれまでの経緯を最強キャラもといヤミコに説明する。
「それで、また他所の面倒ごとに首を突っ込もうとしてるわけ?」
「まさか。しかもまたって俺が面倒ごとに首突っ込んだことあったか?」
「いつも突っ込んでるじゃないッスか」
後ろに現れたカスミがカイトの肩に手を置く。それに対してヤミコは「近い」と重みのある言葉を吐くがカスミはそんなこと気にしていないようで無視する。再び高まっていくヤミコの憎悪にカイトはヒヤヒヤとするがカスミは気にしてはいないようだ。そのうちカスミが原因で酷い目に遭うような気がする。彼女のマイペースというか能天気さも困りものだ。
「アメリちゃんの時も自分の時もカイトさんが突っ込んできたんスよ?」
「そうだそうだ」
アメリも加勢する。
「あれは必要だったからそうしただけで」
自分ではそう言うがカイト自身も否定はしきれなかった。言われてみれば確かにそうしてきたのかもしれない。カイトはやらなくても良いことに自ら向かってきた。さらには便利屋なんていう面倒ごとに関わりまくっている仕事をしている。首を突っ込まずにはいられない性分なのかもしれない。
「ともかく今回ばかりはギルドの問題だ。俺は関係ないし、今回だけの出会いさ」
「とか言って『ひと悶着』を貰ってくるんスよね?」
「んなわけないだろ?はっはっはっ!」
2日後
「何?何ですか?何でまた来たんですか?」
「いやーそのぉ・・・」
カイトのもとに再びマノイが訪ねてきた。
「待て!当ててやる‼『この前の報酬払いに来た』だろ‼」
「ごめん違う」
「おぉん!?」
「実はもう1回頼みたいことがあって・・・もちろん報酬は払うよ。前回の分も合わせてね」
情緒不安定気味だったカイトは1度落ち着いて椅子に座ると落ち着いた口調でマノイに諭す。
「仲間がいるならそっちを頼れ。うちは5万モンドすら払えない奴が来るところじゃない」
「ごめん。でも他に頼れるところもなくて」
アーケイドの外周区では5万モンドという金は安い金ではない。ましてや若い駆け出しのハンターならば猶更だ。若いうちはどうやって節約するのか、どうやって最小限のリスクで最大限のリターンを得れば良いのか。そうやってやりくりして成り上がっていくのがハンターという職業の実態だ。5万モンドを迷わずポンと出せるくらい気持ちよく成り上がれるのは本当に運の良いヤツだけ。運に頼らず実力だけで成り上がろうとするならソイツはとっくに人間をやめているだろう。ちなみに現実は甘くなくそうして無茶した奴らのほとんどが今は土の中で眠っている。
ならばギルドメンバー同士の協力は必須であるわけだがどうやら彼女のギルドはそうではないらしい。ギルドメンバーのマノイに対する接し方から少し気にかかっていたが今回マノイが再びここを訪れたことでカイトの中にあった心配はより明確なものになった。
「こんなこと言うのもだがお前は居場所を変えた方が良い」
「それはダメ。皆ウチを頼りにしてる。必要としているから。だから・・・」
そう言うマノイはどこか苦しそうに見える。それを見てカイトは推測する。恐らくギルド内での彼女の扱いは良くない。しかし彼女はそこから抜け出すことができない状況なのだろう。具体的なことは何もわからないがこのギルドは様子がおかしい。前回払えなかった報酬をマノイが今回払えるとは考えにくいし、彼女のギルドの仲間はマノイの独断で発生した料金とはいえ報酬の支払いには否定的で立て替えようとしなかった。このままではいずれ踏み倒されかねない。カイトは慈善活動として便利屋をやっているわけではない。報酬はきっちり回収する義務がある。それにこの調子ではマノイはいつか間違いなくどこかで命を落とす。
マノイのギルドのことを調べる必要がありそうだ。そのためにこの依頼を利用する。カイトはそう決意した。
「わかった。依頼を話してみろ」




