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アメリ3

3年前。悪疫街。そこは今と何も変わりはしない掃き溜めのような場所だった。アーケイドの中で唯一まともなルールを持たず、ロクでもない奴らが集まる街には当然のように数多くの犯罪者集団が蔓延っていた。その中の1つに5人組の強盗団があった。名前らしい名前はなかったが周囲からはバルカン一味とだけ呼ばれていた。


「戻ったぞー‼英雄のご帰還だ‼」


大柄の男が大声で玄関の扉を開く。強盗団のリーダーのバルカンだ。バルカンは高らかに笑い声をあげながら重量感のある足音を鳴らす。そんな色々と大きなリーダーに続いてぞろぞろと強盗団のメンバ-たちが入ってくる。


「いちいちやかましい」

バルカンの後ろにいたタバコをくわえた女がだるそうにタバコの煙を吹かした。女の名前はリタ。強盗団の切り込み役であり、錠前破りなども行う頼れる姉御のような存在だ。


「・・・・・」

その横にいる無口な男はエド。作戦担当。バルカン一味の強盗の計画は全て彼が考える。まさに強盗団の頭脳と呼べる存在である。


「アメリー‼戻ったよー!」

バルカン、リタ、エドとは違う強盗なんて野蛮なことなどしなさそうな雰囲気の優しい表情の女。名前はシェリル。彼女にはバルカンのような豪快さも、リタのような錠前破りの技術も、エドのような作戦を立てる頭脳もない。だがその代わり非常に優れた能力を1つだけ持ち合わせていた。それは射撃。彼女の役割はバックアップ。もっとわかりやすく言えば狙撃手である。


そしてそんな奴らのいる強盗団にまだ10歳にもなっていないアメリがいた。家の奥から元気よく走ってきたアメリはシェリルに抱き着く。


「うまくいった!?」


「うん‼ばっちりだったよ。ほら」


シェリルはそう言って銀色の銃を見せた。側面に蜂のマークが刻まれたその銃の形はリボルバー拳銃のようだが銃身はやけに太く本当に人が扱うことを前提に設計されている銃なのかを疑いたくなるような異質過ぎる見た目をしている。


「こんだけ頑張ったのにご褒美があるのはシェリルだけなんだぜ?酷い話だよなぁ?」


「仕方ないでしょこんなの使いこなせるのはシェリルくらいだし」


「エレクトロ・ホーネット。どんなものか興味があるな」


シェリルの持つ銀色の銃に注目が集まる。今のところ世界に1つしかないとされているこの銃。唯一無二であるという価値はもちろんだが何よりも気になるのはその性能だ。噂では内部に加速器が搭載され弾丸が通常の拳銃の倍以上の速度で発射されるという。だというのに反動は並の拳銃と大差ないというではないか。


その威力はまさに殺人蜂の殺傷能力のように凶暴そのもの。刺されれば重症、しかしその凶暴な姿でさえ飛ぶように軽やかだ。もっと率直に言い換えるならば『手に収まる暴力の塊』と言い換えてもいい。普通の銃とは違う手に伝わる明らかな重量からは銃としての部品の重さだけではなく、そこに込められた暴力という純粋な力の圧のようなものが感じられる。


「ほらよ」


エドがテーブルに置かれていた缶詰の空き缶を放り投げる。シェリルは宙を舞う空き缶に向けてじっくりと狙いを付けるような素振りを見せることなく素早く銃を構えてそのまま引き金を引いた。発砲音とともに金属と金属がぶつかるような軽い音が鳴る。弾丸がぶつかった空き缶は吹っ飛んで地面に落ちた。


シェリルは格好つけて銃をくるくると回してホルスターに収めた。


「見ろよ」


シェリルが撃った空き缶には弾丸によって空いた穴が前後に2つ出来ていた。つまり弾丸が貫通したということだ。そして一同がもしやと思いシェリルの撃った方向の壁を見る。そこには全員の想像通り、つい先ほどまでなかったはずの小さな黒い点が1つ出来ていた。発射された弾丸は空き缶を容易に貫通しその後ろの壁にさえ穴を作ってしまった。シェリルの装填していた弾丸は貫通させることに特化した弾丸ではない。


「こりゃ、とんでもねえ威力だぜ」


「どうりで厳重に移送されるわけだよ」


下手をすればライフル並みの威力と精度を持つ拳銃。ただのごろつきには似合わないほどのオーバーパワーだ。たかが銃と思われるかもしれないがされど銃。人を殺すには十分すぎる代物だ。ましてやそれがバケモノ銃ならば猶更だ。全員がその威力に気圧された。いや1人を除いてか。


「これでもっと仕事ができるよね!!」


そんなことを能天気に言うのは未だ無邪気な子どものアメリだった。もちろん本人だって危険性がわかっていないわけではないだろう。だが銀色の殺人蜂の性能に恐怖するよりもそれに新たな希望を見出していた。子ども故の単純さ。しかし前へと進む光を見出していることに違いはない。


「ったく。こいつはいつか大物になるぜ。だーはっはっは!!」


リーダーのバルカンは大きな手でアメリの頭を雑に撫でながら大笑いする。まさに絵に描いたような豪快な強盗のようだ。その豪快な笑い声につられて他のメンバーもやれやれと呆れたような表情を浮かべるがその口元は笑っていた。


「仕事も上手くいったし晩飯は豪勢にやるとするかね」


「よっしゃー!!酒持ってこい祝杯を挙げるぞ!!」


「飲み過ぎるなよ」


「アメリ、今日はジュース飲めるよ」


「やったー!!」


歓喜の声が光とともに夜の街へとわずかに漏れる。その掃き溜めのような最悪の街で強盗団は強盗団らしく日々を過ごす。それは必ずしも犯罪だけの話ではない。悪疫街の外の人間にとっては最悪のものにしか見えない何気ない日々も小さな喜びも彼らからすれば外の人間のものと大差はない。彼らは必ずしも不幸な存在ではない。彼らは彼らなりに今のこの日々が、この時が続けばとそう願っている。誰もがそう思うように。


しかしどれだけ幸せや喜びが積み重なろうとも彼らを取り巻く現実は無慈悲にすべてを壊していく。


彼らは悪党だ。どれだけ、例え家族のように傍にいてもその本質はどうしようもないほどに黒く染まっている。だが人が人という存在そのものを否定できないように何者もそれを責めることは出来ない。それもまた彼らの生き方だからだ。




望んでいた日々の崩壊のきっかけは実に単純だった。どのくらい単純だったかと言えばまだ幼かったアメリにも何が起こっていたのかがわかるほどだった。仲間を裏切った者がいたのだ。一味を裏切ったのはリタだった。裏切った理由もいつに単純だった。利益の不一致。ただそれだけ。感傷に浸れるような出来上がった話を抜きにして起きた事実だけを語ろう。


リタは仲間であったエドを殺害し逃亡、麻薬カルテルへと居場所を変えた。バルカンとシェリルは逃亡したリタを追いその途中でカルテルの構成員と銃撃になり、アメリがその場にたどり着いた時には辺りは血と弾薬と爆発の跡によって見たこともないほどに凄惨な有様だった。


この一連の出来事の結果を言うならばアメリは家族同然だった人たちを、幸せだった生活を1日で全て失った。




「はい、これでアメリちゃんの話はおしまい。懐かしくてちょっと余計なことまで喋っちゃったのよさ」


カイトはただ黙ってアメリの話を聞いていた。何を言うべきか、それ以前に何か言うべきなのか。彼の心境は非常に複雑なものであった。しかしそれでもカイトは落ち着いた口調で口を開く。


「あの女がその裏切り者ってわけか」


「そう。死んだって聞いてたけどまさか生きてたなんてね」


「お前はこれからどうする?」


「さあ。どうしようかしら」


カイトは立ち上がる。そのは日が沈んでいて辺りは暗闇に包まれている。敵はこちらを見逃してはくれない。ゆっくりとしていられる余裕はない。この夜に決着をつけるしかない。


「定まらないなら逃げろ。ここじゃないどこかへ」


「オマエはどうするのよ?」


「やることは変わらないさ。相手が誰でもな」


そのうえでカイトは改めてアメリの目を見て言う。


「もう1度聞く。お前はどうする?」

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